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NovelJam審査員としての感想、それからオススメの本など。

2018年2月10日から12日にかけて、NPO法人日本独立作家同盟主催の「NovelJam2018」が開催されました。2泊3日で作る小説イベントはなかなか珍しいのではないでしょうか。

https://www.noveljam.org 

        (公式サイト)

私はそちらに審査員として関わらせていただきました。
(ちなみに審査員は米光一成さん、海猫沢めろんさん、新城カズマさん、そしてスポンサーのエブリスタさんと私です)

8チームで全16作品を作り、それを審査するというイベントなのですが、実はこれ、普通の小説の審査とは違い、かなり新しい要素をいくつも含んでいます。なのでとても楽しみにしていました。

1・チーム制である

作家&編集者&デザイナーの3人1組になり、1作品を作るという、とても新しいシステムです。通常、小説というものは、作家が一人で書き上げるものですが、NovelJamではチーム制! これは高校生クイズのような3人1組の、とても熱い戦いが繰り広げられる予感がしました。

なぜ8チーム16作品かというと、1チームに作家が2名、編集1名、デザイナー1名という構成だからです。おそらくですが作家のエントリーがとても多いので、そういうシステムになっているのではないかと思います。たった16人しか参加できないこの枠に、何倍もの応募が寄せられ、事前選考が行われたと聞いています。

2・3日目に電子書籍としてリリースする

なんと3日目の朝8時に原稿を完成させ、デザイナーさんが作った表紙をつけて電子書籍としてリリースしてしまう! すごいですね。審査されている間にすでに一般に販売をスタートさせているんです。今までの小説賞は、大賞を受賞した人の作品が紙の本として刊行されるというやりかたでしたが、電子書籍が発達し、セルフパブリッシングの手順がスピード化された現代では、こんなスピード販売が可能なのです。

3・印税をチームで分け合う

本の印税は(すみません配分のパーセンテージまではわからないのですが)著者、編集者、デザイナーにそれぞれ分配されて入る。つまり3人で1チーム、同行三人、三位一体なわけですね。編集者さんやデザイナーさんも印税が入るというのは珍しいことだと思うんです。それだけチーム制を重んじたイベントなのだと思うのです。

4・1ヶ月後に真の表彰が行われる

イベント後、1ヶ月かけて本の販売合戦が行われ、その売り上げも加味された真の表彰が行われます。これも数字がはっきりと目に見える電子書籍販売だからこそできることだと思うのです。

審査方式は、それぞれの審査員が3票入れられます。
1位に3点、2位に2点、3位に1点、です。さらに個人の好みだけで選ぶ個人賞があります。
ちなみに私はいつも小説の賞の審査をするときは

ストーリー10点
キャラクター10点
感動10点

の30点形式でつけています。少なくない数の文学賞では誤字脱字は減点対象のようですが、誤字脱字は減点しません。特に今回は急いで仕上げなくてはならないのでどうしても誤字脱字は出るだろうけど、完璧さを競うイベントではないと考えてのことです。

さて結果ですが今年は最優秀賞がなく、優秀賞が2作品となりました。
優秀賞となったのは
「バカとバカンス」と
「ユキとナギの冒険」です。
どちらも相当な労作です。

審査員の票は真っ二つ!この2作が全くの同点となりました!
・・・が、実は私、このどちらにも票を入れていません。正直「バカとバカンス」は最後まで入れるかどうか迷っていましたが。

なので審査の序盤で「えーどうしようどうしよう私だけ違う」と焦ってしまったことを今打ち明けます。

そんな私が1位として3点を投じたのは
「ひつじときいろい消しゴム」で、
個人賞は
「味噌汁とパン・オ・ショコラ」でした。

個人的には著者賞、編集賞、デザイナー賞はあったほうがよかったかもしれないとは思いますが、何しろ審査員も短時間で16作品を読み込むので相当タイトなスケジュールのため、なかなか難しいのかもしれませんね。

せっかくですので、私のお気に入りの作品をご紹介させてください。

<特別賞>
「ひつじときいろい消しゴム」
https://www.amazon.co.jp/dp/B079VKYXD8/

この作品を1位にしたのは私だけ。内心、私だけみんなと違うどうしようと焦りましたが、海猫沢めろんさんが、僕もこの作品に才能を感じますと言ってくださって本当に救われました。あの一言で、自分の視点に胸を張ることができました。

私がこの作品を選んだのは、読後感が病み付きになりそうなくらい気持ちよかったから。そして手法の新しさ!童話の世界とRPG的世界と現代とが一体になっていて上手に書き分けられていたのです。そしてキャラの書き込みも、短い行数なのにそれぞれが抱えている悩みやキャラの性格まで書き込んでいてお話に入り込めました。

ファンタジー風の優しい文体なのに、どこかKYな男の言動に苦しむという、普遍的な悩みが埋め込まれていたりして、とても手口が巧妙なんです。「あるある!」と叫びたくなる恋の悩みも優しい文体にくるまれて、いつしか読者が癒されていくんです。「ハアー、癒された!」と心底感じたこの読後感の素晴らしさは票を投ぜずにはいられませんでした。人を癒すことができる文章って、書けるようで書けないんです。代わりがいない新時代の書き手さんだと感じたので1位に推させていただきました。

プレゼンタイムの編集さんの素直な心情の吐露もとても可愛くて、好感が持てました。わからないところもあるが引き込まれる。魅了される。それがまさにこの作品の長所ですよね。

ひとつ疑問があったのですが「きいろ」という単語がタイトルにあるのに、なぜか表紙は青色で、この狙いはなぜなのかをデザイナーさんに聞きそびれたことが心残りです。

もし、この作品が「特別賞」にならなかったら「内藤みか賞」にするしかないかもと考えていたのですが海猫沢さんの推薦もいただけて見事「特別賞」になって本当に嬉しかったです。

<内藤みか賞>
「味噌汁とパン・オ・ショコラ」
https://www.amazon.co.jp/dp/B079VFM1QF/

米光さんもそうみたいですが私も個人賞の作品には、票を入れていません。私が個人的に好きな作品を読者目線で選んだのが個人賞です。純粋に自分が一番面白いと感じたものを選びました。あと、作家、編集、デザイナー全員女性で励ましあっていて、素敵なチームだったので(≧∇≦)。

この作品、何が楽しかったかというと、異色ルームシェアという設定だった点。ルームシェアものはテラスハウスが流行った前後からものすごい数あるのですが、20代女性と70代老婆の取り合わせを読んだのは初めてで、しかも20代の子は枯れてて70代は恋多き女という逆転現象があるのです。

実際今の70代は本当にこんな感じで、お元気なんです。私の70代の母もルンルンで生きてます。だから読んでいてとても現実味があり、いまどきの20代と70代の差が実によく書けていて、実はリアルで興味深い読み物にもなっています。今こそ出すべきハートフルな作品だと、時代性を感じました。文体もリズミカルだったし、ミュージカルにしたら面白くなりそう!

編集さんのプレゼンも温かく、とても丁寧に作品を作られたことが伝わってきました。
表紙のイラストも可愛くて好評で、作品のムードととてもマッチしていたと思います。

この2作品、とてもいい気持ちになるので、よかったらぜひ読んでみてくださいね(≧∇≦)/!

こうやって振り返ると私、とーっても読後感を大事にする人なんですねえ……

全作品はBCCKSで販売中です。amazonのkindleなどにも出てきています。
審査結果一覧はこちら
https://bccks.jp/store/noveljam2018

さて
では私は2位と3位にどの作品を選んだのか・・・。
帰りのタクシーの中でご一緒した参加者さんに伝えた「作家を目指すのならぜひ読んでおきたい1冊」とは何か・・・。
そして今回の審査で何を私は重視したのか、もし私が来年参加するとしたらこんな風に作戦を立てる、などを書いてみます。

<ここから先の内容>(約4400字)

・私が選んだ2位と3位の作品とその理由
・NovelJamを目指すのならぜひ読んでおきたい本2冊
・今回の審査で私が重視したこと
・私が参加するならこんな作戦で行く

ここから先はネタバレも含むため、残りの半分は、有料とさせていただきます。


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