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坂元裕二とカレーと餃子


小説を書き終えたあと、あとがきでも綴ろうかと思っているうちに4ヶ月も経ってしまった。久しぶりのnoteです、こんにちは。

今日も暑かった。明日も暑いのかと思うと毎日嫌になるが、そんな2022年の夏も間もなく終わろうとしている。記録的猛暑に体力を削られ、4回も熱中症になり、休日に子を連れて公園に行く元気もない私の唯一の楽しみは、家族が寝たあとに缶チューハイを飲みながら1人で録り溜めたバラエティ番組やドラマを見ることくらいだ。

と言っても、バラエティがほとんどで、ドラマは1本だけである。元々演劇人である私はインプット魔であったが、産前を含む3年以上もの間、それがプツリとできなくなってしまった。未知のウイルスに慣れない育児、戦争や物騒な事件が起こる世の中で、家でくらい何も考えずに笑っていたくて、お笑いやバラエティ番組をひたすら観ている。そんな死んだような私の心を湧かせてくれたドラマがあった。昨年放送され、世間でも大変好評だった『大豆田とわ子と三人の元夫』である。放送終了後もYou Tubeで主題歌を聴き漁り、歌詞をドラマと当てはめて何度も感動をしがんだ。キャストの素晴らしさはさることながら、やはり話題となったのは坂元裕二さんの脚本だった。(個人的にはプロデューサーの佐野亜裕美さんと演出の皆さんの功績も大変大きいと思っていますが、それはまた別の話。)

当然、そんな坂元裕二さんの次回作『初恋の悪魔』は発表当時から世間の期待値が高く、ドラマを観れなくなってしまった私もこれだけは観ようと決めていた。しかし期待しすぎたせいか、最初の3話位はあまり楽しめなかった。『大豆田〜』のときも思ったが、坂元裕二さんは登場人物の紹介に結構時間をかけている気がする。後々それは伏線がはられていたのだと気付き、全て観終わったときに納得できるのだが、伏線映画『カメラを止めるな』でもそうであったように、私には(あくまで私には)最初少し我慢の時間と感じてしまったのである。ところが第4話あたりからどんどん展開していき、物語も中盤に差し掛かった頃にはすっかり心が掴まれている。個人的にお芝居は林遣都さんと安田顕さん、伊藤英明さんを推したい。勿論出演者の皆さん素晴らしいけど、特に林遣都さんの癖のある役柄ながら自然なコミカルさで繊細な台詞使いが視聴者(私)に刺さる。坂元裕二さんの言葉を大切にしつつ、立てすぎていない。良い俳優さんだ。本を大切にできる俳優はいい俳優である。

前置きが長くなったが、最新話を観ていて既視感があるなと感じた。ああ、前話でもカレーを食べていたからか。いや、その前の話でも食べていたな。ん?カレー?と思っていたら餃子を包みだして、あぁ、両方とも『大豆田〜』で観たのだと気付いた。

同じく坂元裕二作品である『カルテット』で高橋一生さん演じる家森諭高(いえもり ゆたか)はこう言っている。

カレーを一晩で食べきるってことは、旅館を一泊で予約したのに日帰りしちゃうのと同じことですよ。

『大豆田〜』でも『初恋の悪魔』でも、2日目、いや、それ以降のカレーが出てくる。しかも、「大切な人に出す食事」としてだ。

『カルテット』には社会に大きく影響を与えた「唐揚げにレモンをかけるかけない問題」をはじめとし、ストーリーが食べ物に絡められている場面が多数出てくる。主人公の4人のユニット名からして「ドーナツホール」だ。これはイッセー尾形さん演じるベンジャミン瀧田の「音楽っていうのはドーナツの穴のようなものだ。何かが欠けているやつが奏でるから音楽になるんだよね」という言葉が由来している。そして何処かかけた4人がドーナツの穴を埋めていく物語となっていくのである。そして今も名シーン、名台詞として人々の心に残っているのはコレだろう。

泣きながらご飯を食べたことがある人は生きていけます。

多くの人が満島ひかりさん演じるすずめと同じくらい涙し、励まされたのではないだろうか。

その『カルテット』で、「昼から食べる餃子とビールは人類の到達点です!」と語るシーンがある。『大豆田〜』『初恋〜』共に夜ではあるが、餃子を包むシーンが、登場人物が本心を語る場面として描かれている。

日常を切り取ったドラマでは食事のシーンは切っても切り離せないが、坂元裕二さんは特に大切にしているというか、ひとつひとつ意味を持って登場させている。最も身近である食事に例えることで共感させやすくする演出のような気もするが、それはいじわるすぎる見かただろうか。もっと単純に、3大欲である「食」と対峙したときこそ人間の本質が垣間見える瞬間だと言うことかもしれない。

もっと掘り下げればまだまだ出てきそうだが、そんな体力はないのでこの辺にしておく。勢いで勝手なことを書いてしまったけれど、私はドラマだって何も考えずに観て楽しみたい。坂元裕二さんと食との関係性には程よく注目しつつ、『初恋の悪魔』の今後の展開を待とう。楽しみな作品があるというだけで、私は明日も生きていけるのだ。


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