鈴木忠平『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』文藝春秋、2023
アンビシャスと聞けば、Boys be ambitious。すなわちクラーク博士がいた北海道を思い起こす人が多いだろう。その通り、この本の舞台は北海道である。
しかし、札幌ではない。舞台は人口約6.5万人の北広島市である。
そして表紙やタイトルにある通り、この本はプロ野球団日本ハムファイターズの新球場をめぐる誘致合戦がテーマであり、ノンフィクションの作品となっている。
この構想が発案のは2010年。その構想から2018年に実際の誘致が決まるまでの日本ハム側、誘致合戦を繰り広げた北広島市、札幌市のそれぞれの誘致に至るまでの苦悩と葛藤がパラレルで展開される。
確かにホーム球場というのは重要である。阪神といえば甲子園、巨人と言えば東京ドーム、ソフトバンクと言えば福岡ドーム、楽天といえばモバイルパーク宮城etc…と球団とセットで球場が出てくるものであり、これはアメリカでも同じであり、ボストンに行った際にレッドソックスの試合を現地で見たことがあるが、それはそれはすごい熱狂だった。
しかし、当日の日本ハムにはそれがなかった。この時期はダルビッシュや大谷翔平、斎藤佑樹など人気の選手がたくさんいたにも関わらずである。札幌ドームを主たる球場にはしていたものの、そこは間借りであり、サッカー球団とも共有していたのである。
主人公であり、この構想を進めたのは前沢賢という日本ハムの社員。彼自身も高校球児出身であり、一度は退職してのでカムバック組という移植の経歴を持つ。
この前沢を核にしながら、北広島市、札幌市の担当と交渉していくリアルかつスリリングなストーリーが本書の真骨頂である。
そして、本書の読みどころは自治体から見ても面白い。まちの起爆剤である工場やスポーツ施設をめぐっては、首長のリーダーシップや担当者の人選、本気度思いがここまで大きく結果に差が出るのかというダイナミズムもさることながら、政令市vs小さいなまちがガチンコで勝負した結果、小さなまちが勝つこともあるという一つの成功事例を見ることができる。
内容はネタバレになるので書かないが、最後に章立てだけ紹介しておきたい。
プロローグ
第1章 流浪する者たち
第2章 眠れる森
第3章 フィールド・オブ・ドリームス
第4章 食肉王の蹉跌
第5章 アンビシャス・シティ
第6章 リトル東京のジレンマ
第7章 創造と、想像と
第8章 ラストイニング
第9章 運命の日
エピローグ
(参考)出版社ホームページ
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163916781
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