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2023ファジの天皇杯にフォーカス1『 アピールした選手は?~意識~ 』天皇杯 2回戦(H)vs北九州

1、天皇杯とファジ


 ファジアーノ岡山にとって、天皇杯という大会は、難しい大会であった。クラブ規模的にも、控えメンバーを主体として戦うことが多い本大会で、J3のクラブやアマチュアクラブや学生相手でも勝ち切るのは、簡単ではない。岡山は、幸いにも学生ではなく、Jリーグクラブとの対戦が多いが、もし学生と当たる事があれば、キレのある相手に対して、どこまで戦えるかというのは、やはり未知数だ。

 今回のレビューでは、試合レビューではなく、選手にフォーカスを当てて、振り返りたい。加えて公式記録や情報媒体が、限られるという事で、北九州への言及はほぼできなかった。

 また、メンバーの表記も作図なしで、こちらに記する事で、時間を短縮させていただきたい。

ファジアーノ岡山
木山 隆之(監督)
ーースタメンーー
18櫻川 ソロモン、7チアゴ・アウベス
9ハン・イグォン、25野口 竜彦、30山田 恭也、32福元 友也
41田部井 涼
42高橋 涼、4濱田 水輝、23ヨルディ・バイス
13金山 隼樹
ーーリザーブーー
21山田 大樹、15本山 遥、51勝部 陽太、2高木 友也、22佐野 航大、33川谷 凪、18坂本 一彩

短評

 岡山2023の主要フォーメーションである3-1-4-2で、4-4-2の王道の田坂 和昭の北九州を迎え撃った。徳島戦で魅せた前を向かせない守備が、この試合の岡山でも光った。来た球種が、なかなか前を向けなかったのに対して、勢いよく岡山の選手が、ゴールを迫っていく。ただ、レギュラーメンバーと違い、やや判断の質が悪いのか、北九州の守備網に引っ掛かり、ゴール前に抜け出すというシーンはなかなか作れなかった。

 パスもやや公式戦で長く戦ったメンバーでないこともあり、攻守でのスムーズな動き出しは、やや物足りなく映った。必要以上に体をぶつけることやより走る事で、チームとしての守備を機能させたが、やはり90分間で考えた時には、その後に影響がでた。

 前半の終了間際に、25野口 竜彦の芸術的なスルーパスに抜け出した18櫻川 ソロモンが先制ゴールを決めると、後半にも7チアゴ・アウベスのプレスが、相手のパスワークの乱れを誘い18櫻川 ソロモンが良い位置で奪うと、そのまま2点目を決めた。

 このまま勝ち切れると思ったが、守備的な選手を足りない中で、1点返されると、守勢の時間が長くなり、ラストワンプレーでは、ゴールを僅かに外れる危険なヘッディングシュートを放たれて、なんとか逃げ切ったという試合に終わった。

2、岡山の選手1人1人にフォーカス

FWの選手評

7チアゴ・アウベス(CF)

 ボールが入れば、違いをみせる事ができていた。ただ、良い形でパスを受ける回数が少なかった事で、普段ほどは目立たなかった。ただ、それでもどんな形でもボールが入れば、シュートまで持っていき、決定機を作れる個の力は、得点こそ決められなかったが、流石のプレーであった。

 そして、7チアゴ・アウベスのもう一つの武器である狙いを持ったプレスもこの試合では嵌り、18櫻川 ソロモンに渡る北九州のミスを誘発した点も見逃せない。

 FKでも蹴りたがっていたが、23ヨルディ・バイスや4濱田 水輝に説得されてしぶしぶ承諾する場面もあったところもやっぱり7チアゴ・アウベスだった。

18櫻川 ソロモン(CF)

 ハットトリックこそ幻になったものの2得点の大活躍。中央にポジションを取る意味を感じられた試合となった。1点目は、レギュラー組でもなかなか出てこない完璧なスルーパスであったが。18櫻川 ソロモンの傍には2選手がマークについていたが、トラップからシュートまで流れ、共に完璧であった。2点目は、相手のミスと言えばミスだが、中央で味方のプレスに連動する事で生まれた得点だ。リーグ戦に弾みとなる2得点になったはずだ。

MFの選手評

9ハン・イグォン(左WB)

 北九州の重心がやや後ろにあった事で、9ハン・イグォンの持ち味が発揮できなかった。1人抜いても中に人が待っていて、受ける位置も左のサイドレーン(ピッチの左端に近い所)なので、なかなかシュートに持ち込めなかった。

 観ていて、もう少しシンプルにクロスやパスを入れた方が効果的に映ったシーンもあったが、強引にドリブルに仕掛けていた。ボールを持ちすぎる傾向にあるが、チームとして巧くいってなかったのか、9ハン・イグォンの判断が悪かったのか。印象的には、やはり後者の方が強いが、速攻を狙う意識(ロングパスを選ぶ意識)がやや低くなったことで、チームとして9ハン・イグォンを活かせない側面もある。

 ただ、一方で、守備意識は、昨年チームでプレーした経験が生きていて、戻るべき所で戻れている。ただ、チームとして、どう持ち味をだしていくかは、今後の課題。

32福元 友也(右WB)

 経験を遺憾なく発揮して持ち味を発揮した前半のプレーであった。クロスの入れ方が、レギュラー組でも見れないようなクロスであった。ちょっとした工夫で、パスコースやクロスコースを作る、キック技術や運動量を活かした仕掛けや守備、こういった部分に可能性を感じた。

 一方で、後半は、明らかにクロス精度が下がり、中で競るというシーンをほとんど作れなかった。疲れた来た時間帯にどう蹴れば、良いクロスが上がるのか。また、右WBとしてのペース配分や蹴り方の工夫、またWBとして、FWの時の様な全力プレーだけではなく、緩急を使うことができるか。

 そういった貴重な経験ができた試合となったはずだ。湘南ベルマーレ戦でも出場できるのであれば、後半の「クロス精度」の安定に注目してみて見ても良いかもしれない。

25野口 竜彦(左IH)

 ドリブルが抜けそうで抜けれない。そういったもやもやした部分を吹き飛ばす浮き球の超絶スルーパスで、18櫻川 ソロモンのゴールをアシスト。今回は、得点こそ決められなかったが、天皇杯に強い25野口 竜彦を印象付けるアシストであった。

 出場機会を掴むためには、プレーの判断の安定感の先の成功率をどう高められるか。あまり公式戦にでれていない選手や普段あまり組むことの少ない選手の中で、判断が悪くなることは仕方ないが、ドリブルの成功率やパス成功率が高くなれば、それだけ出場機会も増えてくる。

 若い選手の活躍が目立つだけに、どう違いを出せるか。そこは、今後の彼の課題であり、アピールしたい点でもある。

30山田 恭也(右IH)

 ボランチとも言える位置で、攻守に渡ってハードにプレーした。まさに、岡山らしいプレーを最も体現できた選手だ。流石にレギュラー組と比べて、心技体で流石に粗削りな部分は否めないが、岡山というクラブ、チームの中で、何が必要か良く理解しているプレーができていた。リーグ戦で、リザーブメンバー入りすることが何度かあったが、それも納得のプレーである。

 30山田 恭也だけではなく、全体としてそう映ってしまったが、守備の時に、自由を奪う、ボールを奪取するというよりは、体をぶつけるといったイメージを抱いてしまった守備。この部分は、守備の技術、判断の向上を公式戦で、出場機会を掴む中で、磨いていけば、もっと良くはなる筈だ。

 流石に、基礎技術や基礎体力で、J2どころかJ1で戦える選手には、プロになってからでは追いつけないかもしれないが、ファジアーノ岡山というクラブの中で、必要な選手となれる可能性を十分に感じられるプレーができていた。

 選手としての能力に優れた選手は、補強できるか。ファジアーノ愛の強い気持ちをもった選手は、簡単に獲得できない。もっともっと伸びて欲しい選手だ。

41田部井 涼(AN)

 ボランチとしての出場機会を掴みつつも主軸として定着できない。そういった苦しい立ち位置であるのが、41田部井 涼だ。6輪笠 祐士が復帰してくれば、出場機会が遠ざかる可能性が最も高い選手だ。

 岡山に来た当初よりもハードワークする意識や前を向く意識、ここは少しずつだが良くなっている。この試合では、44仙波 大志のように、前を向くプレー。回数やその先のプレーで、まだまだ44仙波 大志には、届かないかもしれないが、技術がある選手であるので、感覚を磨いて行く中で、右の44仙波 大志、左の41田部井 涼。ベースとなるポジションこそ違うかもしれないが、それだけの力のある選手だ。

 この試合では、中盤の底として、パスワークの部分で、岡山の攻撃を支える事ができた試合であったので、今後の活躍も楽しみだ。

GK&DFの選手評

42高橋 諒(左CB)

 最後は、足を痙攣してしまったが、田所 諒を彷彿とさせる上下動や気持ちの籠ったプレーは、まさにこの試合の岡山の左サイドを支配した存在と言える。多くの選手が、ドリブルの仕掛けが、北九州の選手に防がれる中で、42高橋 諒のドリブル成功率やパスやクロスの質の高さは際立っていた。

 9ハン・イグォンとの連携の部分で、チームとして左サイドで厚みのある攻撃がもっとできていれば、もう少し楽なゲーム運びができたかもしれない。

 レギュラー組で活躍する選手の一人として、明らかな違いを出せていた選手の1人。

23ヨルディ・バイス(右CB)

 前半のみの出場となったが、若い選手が主体となった選手の中でも抜群の存在感を放っていた。セットプレーでのサインプレーでは、後少しで得点という場面こそあったが、北九州のGKのファインセーブに防がれてしまった。

 23ヨルディ・バイス自身の出場停止のチャンスを活かした15本山 遥との右CBのポジション争いの可能性もでてきたが、負担減を考えれば、23ヨルディ・バイスにとっても必ずしもマイナスではない。

 リーグ戦で見かける様になったオウンゴールしてしまったシーンのように疲れという面を隠せない場面も増えてきている中で、42試合をどう戦って行くという部分で、ハーフタイム出の交代は、流石に早すぎるかもしれないが、展開によっては、90分間待たずに交代する事で、42試合で考えると、心身共に最高の状態をキープして、最高のプレー、最高のメンタル、最高のコメントで、チームを熱く強く支えてくれる活躍に繋がる可能性もある。

4濱田 水輝(中CB)

 5柳 育崇と23ヨルディ・バイスという熱さの目立つCBの中で、冷静さが際立つのが、4濱田 水輝だ。セットプレーでの嗅覚の良さは、この試合でもみせた。しっかり合わせる事ができても相手選手の攻守に阻まれる事の多い、4濱田 水輝。

 ビルドアップの一つを見ても、非常に冷静で、加入当初見せていたような、不安定さはほぼなく、中央のCBとして安定したビルドアップ、ラインコントールや距離感。こういった部分で、DFリーダーとして機能していた。

 リーグ戦では、出場機会からは遠ざかっているが、良い準備していることは、この試合のプレーぶりから感じられた。

13金山 隼樹(GK)

 1失点こそしてしまったが、岡山に来てからGKとしての成長を感じられるシーンがあった。北九州の選手が前からプレスに来た時に、奪われても不思議ではないシーンで、狭いパスコースをDFの選手や中盤の選手の位置、相手選手の位置を把握して、しっかり繋ぎ切ったことだ。

 普段は、控えのGKとしてプレーしているが、ベテランの年齢に入って行く中で、より俯瞰的に、そして、冷静にプレーできている。足下の技術自体は、ベテランに入っていくと、なかなか上達できないが、メンタル面では、まだまだ人としても選手としても成長できる。

 13金山 隼樹と4濱田 水輝が、ピッチにいる意味を強く感じた。スコアこそギリギリの勝利であったかもしれないが、この二人がいたからこその勝利でもあったはずだ。

途中交代の選手評

23ヨルディ・バイス→15本山 遥(右CB)

 今後で、考えうる交代パターンの一つだ。23ヨルディ・バイスでも触れたが、90分間プレーできても42試合を走り抜く事は簡単ではない。100%を全力を出し切る意味でも信頼できる選手が、後に控えていないと、23ヨルディ・バイスも安心できない。

 組み合わせには、それぞれ一長一短。機能するかどうかは、監督の判断に左右されるだろう。この試合では、左右のWBは、攻撃に特徴のある選手であったことから守備の負担、運動量が増える事を見越しての交代であったように映った。

 チームとしての伸び代、戦術の幅を探るという意味でも、天皇杯の中の45分間とはいえ、公式戦でテストしていく、試していく、バランスを探るなど、今後試行錯誤していきたいポイントだ。

25野口 竜彦→22佐野 航大(左IH)

 この試合では、この日のメンバーも関係しているかもしれないが、左IHでの起用であった。長らく左サイドのイメージが強かったが、中のポジションでプレーすることとなった。

 ただ、久々の岡山でのプレーが影響したのか、疲れがあったのか。イエローカードの対象になった通り、もっとできるという印象を持った。期待度が大きくなったのか、22佐野 航大に求めるプレーのハードルはかなり高くなっている。

 その中でも流石であったのは、幻のハットトリックとなった18櫻川 ソロモンへの崩しの流れは素晴らしかった。ライン際への抜けて行く22佐野 航大の動き出し、そこからのアイデアと精度。中でプレーすることの利点は、ゴールに近い所でプレーできることで、得点に絡む活躍が期待できるところだ。

 コンディションを整えて、ファジアーノ岡山の選手としての感覚を取り戻す事で、もう一皮向けた22佐野 航大を見れるかもしれない。

7チアゴ・アウベス→18坂本 一彩(FW)

 18坂本 一彩の最高値は、未だ開幕のままだ。悪くはないが、手が付けられないドリブル、思い切りの良さと冷静さを兼ね合わせたシュート技術の高さ。こういったものは影を潜めている。

 しかし、それは、チームが巧くいっていない時の話。U-23での彼は少ないチャンスをものにしてしっかり得点を決めている。一人で突破する力もあることはあるが、もしかすると、嗅覚が彼の武器なのかもしれない。

 ストライカーとして受け手としても出し手にもなれる。強引な仕掛けや柔軟な仕掛けもできる。できることの多いFWだからこそ、彼の良さというのを岡山でしっかり認識できていない部分もあるかもしれない。

 この試合でも得点がなかったように不完全燃焼だった。いや、彼への期待を考えると、もっとやれるはずだ。

30山田 恭也→33川谷 凪(右IH)

 下がった30山田 恭也と対称的であったのが、33川谷 凪である。攻守にアグレッシブにプレーしていて、周囲の状況を見つつ、合わせる意識が高かった30山田 恭也。しかし、33川谷 凪は、攻めの意識が強すぎる上に、守備意識が著しく低い。守備が苦手ではなく、意識が低いのだ。

 30山田 恭也であれば、素早く戻って守備する所を、軽いランニングのようなスピードで、後からなんとなく守備してますよというような対応を見せていた。攻撃でも前にしか意識がなく、強引な仕掛けや少しでも良い形で受けようという意識も低い。

 加入前は、スピードがあるという事で、期待していたが、チームの勝利のためにすべき事ができていない。自分のプレースタイルを曲げてまで合わせる必要は確かにないのかもしれないが、チームに応じたプレーができなければ、勝利を目指すチームで、出場機会を掴むことは簡単ではない。

 手厳しい評価となってしまったが、このままでは駄目ではないか。そう強く感じたプレーの数々であった。

9ハン・イグォン→2高木 友也(左WB)

 攻守のバランスが明らかに崩れていたので、2高木 友也が入る事で、流れを引き戻してという気持ちで見ていたが、残念ながら左サイドの守備強度だけで、どうにかなるものでもない。

 改めて、中央のタフさの必要性を感じた。中あっての外、外あっての中。守備有っての攻撃、攻撃あっての守備。チームとしてのバランスの難しさ。2高木 友也が入ってできることを限られるが、それでも苦手な守備もしっかり行っていた9ハン・イグォンの気持ちを受け取り、最後の1点を守り切る事に貢献した。

 プレー時間は短くても守り切るぞというメッセージを感じられた交代だった。

3、試合雑感


 Twitterでも呟いたが、改めて岡山というチームは、攻撃的な編成であると感じた。この試合でも20井川 空を投入できていれば、問題なく試合をクローズできた可能性は高い。その20井川 空が、この試合でもメンバー入りできていなかったことを考えると、出場できない状況であるのは間違いないが、公式発表がないので、恐らく大きな怪我ではないだろう。6輪笠 祐士もそうであるが、岡山は、こういった選手に負担がかかる傾向が強いようだ。

 このポジションに、タフな選手が揃っている事で、チームとして成立しているが、ギリギリで均衡を維持できている。簡単ではないと思うが、巧くバランスをとっている。ただ、代えが効かないという状況であるが、ここに来て、15本山 遥の存在感が増している。多くのポジションができて、どこでも守備的に戦うことができる。

 42高橋 諒の左CBやその15本山 遥の右CBなど、ある程度、コンバートも視野に入れた編成の必要もあるチームという事だ。下部組織がしっかりしていて、資金力があるチームであれば、ユース出身選手を多数抱えて、選手層でカバーできるが、岡山のように資金力が武器でないクラブの場合は、こうした工夫が必要になって来る。

 良いプレーをみせていたがチームにフィットし切れていない9ハン・イグォン。チームですべきことを考えて、実戦に移す意識の低い33川谷 凪。こういったWG型の選手をどう活かすのか。天皇杯を勝ち抜くためには避けては通れない問題だ。

 他にも90分間プレーするには、延長もあることを考えると、チームとして戦い切れる体力があるのか。これからピッチコンディションも厳しくなる中で、リーグ戦と両立して戦っていく、難しさとも直面することとなるだろう。

文章・写真=杉野 雅昭
text・Photo=Masaaki Sugino

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