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[Lisztomania!] Case 7:オタク気質とコーネリアスとドラムの話

 各地に生息する音楽好きの方々にそれぞれの音楽遍歴や
 音楽にまつわるあれこれについてお話を伺う連載企画です。


音楽は時に人と人とを結びつける。年齢や性別や地域や国の違いに関わらず、同じ音楽を好んでいる人がどこかにいることは心強く、それだけで胸が熱くなる。半年ほど前の残暑の厳しい9月の午後、ひと回り以上も歳の離れた若い女性から連絡をもらい、静かなカフェでおいしいケーキを食べながらコーネリアスやその周辺のこと、文章を書くことについてや悩み相談など、たわいもない話をした。そのときの素直で熱心な語り口と、彼女の行動力に勇気をもらい、もっと詳しく話を聞いてみたいと思ったことから、久しぶりこのインタビュー連載を再開させた。常に何かに熱を注ぎ続けてきたナギさんの過去と現在の音楽の話。


~Case 7:筒井なぎささんの話

──まず初めに音楽を聴き始めたきっかけを教えてもらえますか?

筒井 はい。元々すごくオタク気質だったんですよね。幼稚園生の頃にいちばん最初にモーニング娘。にすっごいハマっちゃって、毎日のようにPV、MVを観たりとか、短冊のCDを親に買ってもらって聴いたりとか、ミニモニ。のグッズを集めたりとか、ハロプロの番組を毎週観たりしてました。私が4歳ぐらいのときに後藤真希さんが入ったあとで、結構全盛期だった気がします。「ザ・ピース!」とかの頃で。

──モーニング娘。を知ったのはTVか何かですか?

筒井 多分きっかけは歌番組を観てだと思うんですけど、そこから急にハマっちゃって、自分でTVをつけて観始めたりとか、そういう感じでした。

──幼い頃から夢中になる気持ちが芽生えてたんですね。

筒井 そうですね。何かにすぐ没頭しちゃうという癖はその頃からあったのかもしれないです。いまちょうどリバイバルで昭和歌謡とか流行ってると思うんですけど、当時もモーニング娘。の加護ちゃんと辻ちゃんのユニットでW(ダブルユー)っていうユニットが昭和歌謡をカバーするみたいなアルバムを出してたことがあって、例えばウインクとか。あとはいま流行っている純喫茶ブームとかの同時期ぐらいに流行ってたような曲をカバーしていたので、あのとき聴いたな、と思い出したりしますね。


──モーニング娘。はどこが好きだったんですか?

筒井 ……どこだったんだろう?でもコンセプトがすごくかわいくて、曲ごとに衣装が変わって、インドみたいな服を着てたりとか、セーラー服を着てたりとか、見た目もかわいかったし、憧れでもあったのかもしれないですね。

──自分もなりたい!みたいな感じですか?

筒井 あ、そうですね。ミニモニ。がいつも衣装でつけてたアームウォーマーみたいなものを親に作ってもらって着てたりとか(笑)。

──じゃあ結構、形から入るというか、真似したい気持ちもあるんですね。

筒井 はい。それはいまでも変わってないかもしれない。

──その頃は男の子のアイドルにはいかなかったんですか?

筒井 7歳上の姉の影響で、一時期w-inds.っていうグループのボーカルの橘慶太くんが好きだったんですけど、それは1年ぐらいで終わりました。

──短い(笑)。

筒井 なのでそれ以来アイドルには実は1回もハマってないですね。そのあとは結構あいだが空くんですけど、音楽としてはその頃流行っていたエグザイルとか、ミーシャとか、浜崎あゆみとか、そういう平成のJポップを駅前のCDレンタル屋で借りてMDに落として家族の車で聴く、みたいな感じで全然ハマってるものはなかったんですけど、小学4年生のときに急にゲームオタクになって。

・ゲームとアニメと音楽

──急に。きっかけはあるんですか?

筒井 ポケモンですね。元々姉や母親がゲームが好きだったんですけど、DSのポケモンが発売するってなったときに、これはやりたい!と思って。そこから一気にゲームオタクになっちゃって。ポケモンのゲームの中のBGMが入ってるサントラを聴いたりとか、あと太鼓の達人のオリジナル曲で変な曲がいっぱいあるんですけど……。

──あー、ありますよね。うちの子も一時期太鼓の達人にハマってて、そのときに太鼓の達人用の曲っていうのがあるのを知りました。じゃあナギ(筒井)さんも太鼓の達人をやってたんですね……。あれ?もしかしてそれがドラムに繋がる!?

筒井 そうです。そうなんです。

──わー。先にネタバレをしてしまった(笑)。

筒井 実は……(笑)。でも当時は全然ゲームとしてやってるだけだったんですけど、「おに」とかやりこむぐらいやってて、そういう音楽を聴いたりとか、あとはマリオがすごく好きだったので、任天堂のゲームミュージックを集めたサントラみたいなものが任天堂のポイントを集めると交換出来て、それを熱心に集めて聴いたりとかしてましたね。

──てことはやっぱりその頃から音楽にちょっと興味があったんですよね。

筒井 かもしれないですね。ゲームをやりながら、これいい曲だな、と思うことは結構あって。当時ピアノを2年ぐらい習ってたんですけど、ポケモンのBGMを演奏しようとして先生を混乱させたことがありました(笑)。いま思うと電子音楽との最初の出会いはゲームミュージックだったのかもしれないですね。

──ゲームミュージックは歌はないですよね。そこに抵抗はなく普通にいい曲だと思ってたんですね。

筒井 そうですね。インストバンドにハマる、みたいなことは特になかったんで、ただただゲームの曲だけを聴くオタクでした。そこから趣味がゲームからアニメのほうに移っていって、「NARUTO-ナルト」とか「BLEACH」とか少年漫画のアニメをやっているCS放送のアニマックスを観るようになって、そのときに主題歌で流れてたのがアジアン・カンフー・ジェネレーションだったんですね。で、かっこいいなと思って気になって、レンタルCDショップで借りて聴き始めたのがバンドにハマるきっかけですね。

──アジカンが大きいんですね。それは何という曲ですか?

筒井 「NARUTO-ナルト」のほうは「遥か彼方」という曲でいちばん最初に出たアルバムの曲なんですけど、「BLEACH」の主題歌は「アフターダーク」っていう中期ぐらいの曲で、再放送でちょうど同時期に観て、この主題歌をやってるの同じ人なんだ!ってだんだん気になり始めた気がします。その頃はバンプ・オブ・チキンも流行ってたので、一緒にCDを借りて聴いたりしてるうちにどんどんその辺のバンドにハマっていく感じでした。

・高校時代に聴いていた音楽

──じゃあさっきの電子音楽は一旦保留で、バンドに行くんですね。でも年齢的にも一番バンドに惹かれる時期ですよね。周りの子もそういう感じでした?

筒井 それがまったくで。クラスに知ってる人が多分誰もいなくて。出身は埼玉で、東京の女子校に通ってたんですけど、全然いなかったです。ほんとに1人で毎日レンタルCD屋に行って、ひたすらアルバムを借りて。

──悲しい。情報共有できる人が全然いなかったんですか?

筒井 いなかったですね。中学2年生の頃にツイッターを始めて、アジカン好きの人と話すようになったんですけど。

──中2の時にすでにツイッターがあったんですね。わりと皆さんよくミクシィの話をするんですけど、さらに先のツイッターの時代ですね。

筒井 中1の時にグリーというサービスがあって、グリーの掲示板機能でアジカン好きの人とかアニメが好きな人と話したりはしてたんですけど、途中でツイッターがすごい流行り始めて。ツイッターを始めた理由もゴッチのツイッターを見るためで、そこからだんだんアジカン好きな人と出会う機会があって、そこで自分のアジカン熱を吐き出す、みたいな感じでしたね。

──へえー。例えばアジカン好きの人と交流したりとか、どこかで会うとか、そういうのもありました?

筒井 オフ会みたいなものは親にやめたほうがいいと言われてできなかったんですけど、友達を無理矢理誘ってアジカン主催のナノ・ムゲン・フェスというのに行ったりとか、あとは車で聴いてたら親がアジカンにハマってくれたので、両親と一緒に3人でライブに行ってました。

──すごい!いい家族ですね。仲いいんですか?

筒井 そうですねー。仲はいいほうだと思います。父親も昔ギターをやってて音楽好きではあったんですけど、私が聴いてたら「いいね」って言い始めて。

──ご両親から音楽を聴かされることはなかったんですか?

筒井 そうですね。普通にそのとき流行ってるものを聴くっていう感じで。ただ父親が昔からずっと角松敏生さんが好きで、家族で車で旅行に行くときとかに私が好きな音楽を聴き終わって寝始めるとそれを流す、みたいな。いまはシティポップも流行ってると思うんですけど、そのとき聴いてたのが自分の中で結構残ってますね。でも当時は全然ハマんなくて、古い音楽だなって思っちゃってたんですけど、いまはレコードがすごい高値で取引されているのを知ってびっくりしました。あとはアジカンがきっかけで私が親に音楽を教えるほうが多かったかもしれない。

──教えるってことは、聴いてくれて一緒に楽しんでくれてるんですね。いいですね。

筒井 それこそアジカンと仲良しのストレイテナーを車で流したら「これなんてバンド?」って聞いてきたり。

──角松敏生が好きなお父さんが!

筒井 そうです。「ふーん、いいじゃん」みたいなことを言いながら(笑)。

──その頃は中学生ですよね?他には何を聴いてました?

筒井 アジカンがよく「ROCKIN'ON JAPAN」に載ってたので、いわゆるロキノン系のバンドを探ってみようと思って、バンプ・オブ・チキンも聴いてましたし、あとはストレイテナーとか、エルレガーデンの細美さんがやってるハイエイタスとか、あとはちょうど高校にあがったタイミングでサカナクションの「アルクアラウンド」のMVが流行ってて。

──何か賞を取ったやつですよね。当時スペースシャワーTVでずっと流れてた。あれ面白いですよね。あのMVが出てきたときに、あ、時代が変わったなって思いました。

筒井 確かに。サカナクションって10年代のバンドな感じしますね。

──じゃあその頃の日本の主要バンドは大体チェックして聴いていたんですね。

筒井 はい。邦楽中心に。洋楽は高校2年生ぐらいのときからようやく聴こうという感じになったんですけど、それこそゴッチが自分の好きな洋楽とかをブログに書いていたので、レンタルショップで借りて聴くようになったのが始まりですね。

──なるほど。ゴッチ様様ですね。

筒井 ほんとですねー。ゴッチがいなかったら洋楽をいま聴いてなかったかもしれない(笑)。日本のバンドでもナンバーガールなんかもゴッチが好きだったのでアルバムを借りて聴いて、だんだんそこからオルタナっぽい方向に変わって。

──ナンバーガールはその頃はもうやってないですよね?

筒井 はい。とっくに解散してました。あとから知って、ラストライブ盤の『札幌OMOIDE IN MY HEAD状態』がレンタルにあったので借りました。

──じゃあほんとにその頃はバンドなんですね。

筒井 そうですね。サカナクションで電子音楽もいいなって思ったんですけど、サカナクションのルーツを辿るのはもうちょっと後の、大学生の頃ですね。

──出会ってはいたけれど、その時点ではそんなにハマってはいなかった?まだアジカン寄りですかね。

筒井 はい。高校生の頃はもうずーっとアジカンが好きでしたね。

──その頃はもうフェスもありましたよね。

筒井 ありましたね。フジロックもサマソニもやってましたし。でもフェスはナノムゲンフェスしか行けてなかったんですけど、大学1年のときにサークルの友達とカウントジャパンフェスに行って、それがいわゆるフェスでは初めてかもしれないですね。親も全然フェスとか行くタイプじゃないので連れてってくれなくて。だから大久保さんが息子さんと一緒にフェスとか行かれるっていうのを聞いて、すっごい羨ましいなって。ずっとネットを見て、スペースシャワーTVを観て、ロキノンを読んで情報収集しまくって、CD借りて、いいなと思って、みたいな。

──CDはずっとレンタルでしたか?

筒井 親にCDを買ってもらうことはあったんですけど、やっぱりお金がなかったので、基本的にはレンタルして、それをウォークマンに入れるみたいなことをしてましたね。

──まだレンタルは普通にあったんですね。

筒井 全然ありましたね。まだサブスクがなかったので。

──AppleMusicが始まったのが確か2015年なので約9年前ですよね。ナギ(筒井)さんが学生の頃はまだサブスクはない?

筒井 私が大学に入学したのが2015年なんですけど、ちょうどその大学1~2年のあいだくらいにちょこちょこサブスクを使う人が増えてきて、私も使うか、みたいになって。なのでまだ全然CD文化はあったと思います。

──逆に2010年前後はレコードが一番廃れてたというか、全然ない時代ですよね。それこそ私もいまはもうCDはあまり買わなくなったんですけど、その頃はまだ全然CDだったんですね。

筒井 そうですね、まだCDレンタルも普通にやってましたし。音楽好きの友達の話を聞いても、高校生の時に渋谷のTSUTAYAに行ってまとめ借りして自分のiPodに入れてた、みたいな話をしていたんで、みんなそうだったんだなあと。そういう感じで私も高校生の頃は1人で音楽を聴いてたんですけど、大学でサークルに入ってから一気に音楽好きの人が周りに増えて。

・大学時代に聴いていた音楽

──サークルは音楽サークルみたいな?

筒井 そうです。軽音サークルみたいなところだったんですけど、すっごい音楽が詳しい先輩がいっぱいいて、いろいろ教えてもらったり。こんなに音楽を聴いてる人がいたんだ、みたいな。

──じゃあそこまでは本当に、日常的に音楽の話をする人はほとんどいない感じですか?

筒井 いなかったですねー。両親と、あとは東京事変が好きな子が1人だけクラスにいたんですけど、その子ぐらいですね。

──アジカンなんて、クラスに好きな子が1人や2人いてもおかしくないぐらいの知名度のあるバンドなのに。

筒井 世代がもう少し上なんですかね。多分私の2~3コ上の代はアジカン、バンプ最盛期みたいな感じだったと思うんです。通ってたのが中高一貫のところだったんですけど、バレーボールが強い学校で、結構体育会系の子達がいっぱい集まるような学校に間違えて入っちゃったんで(笑)。

──ははは。ナギ(筒井)さんはそんな感じではない。

筒井 まったくダメですねー。だからいわゆる陽キャみたいな子がクラスに多かったので、みんなはケイティ・ペリーとか、カーリー・レイ・ジェプセンとか、当時流行ってた洋楽のポップスを聴いてる感じでしたね。

──そういうポップスって逆にどこで知って好きになるんでしょうね?

筒井 不思議ですよね。YouTubeとかなのかな。全然私はそこに興味が持てなくて、1人でレディオヘッドの『OK Computer』とかを借りて。

──下を向いてる感じですか。

筒井 そう!そうです(笑)。

──じゃあ大学に入って一気に世界が広がるというか。

筒井 はい。カルチャーショックに近いぐらい。一気にそこで聴く音楽の幅も広がったし。

──いろいろ教えてもらったりしました?

筒井 はい。これも時代特有の文化だと思うんですけど、まだサブスクがなかったのでUSBにパソコンに取り込んだ音楽ファイルを入れて、お薦めの音楽として貸してくれるみたいなことがあって。

──昔のミックステープの延長ですね。

筒井 ほんとにそういう感じで。それで先輩からいろんな音楽を教えてもらって、へえ、こんなのがあるんだーって。

──例えばどんなものでした?

筒井 ミツメとか、タイコ・スーパー・キックスとか、あとデビュー前のホームカミングスとか。そこから結構日本のインディーを知りましたね。あとはシューゲイザー好きの先輩や同期にマイブラとかを教えてもらって、シューゲイザーにハマったりもしましたね。

──じゃあもうずっとバンド周辺の音楽が好きだったんですね。

筒井 ですね。でもそれとほぼ同時にサカナクションが好きだったので、山口一郎さんが好きな音楽を漁ったりしたんですけど、サカナクションのリミックスをやってたのがコーネリアスで、私は全然コーネリアスを知らない状態で音楽に詳しい同期に話したら、「え、そんなにすごい人がリミックスやってるんだ?」と言われて、ちょっと気になりだしてコーネリアスを聴き始めたんです。

──コーネリアスはそこから知ったんですね。

筒井 はい。あとは一郎さんがレイハラカミが好きなのでそれを聴いたりとか、TOKYO FMでやってる「SCHOOL OF LOCK!」というラジオがあるんですけど、そこで一郎さんがパーソナリティーをやっていたので、その時にお薦めしてたアクフェンとか。

──アクフェンは確か(サカナクションのイベントで)呼んでましたよね。

筒井 呼んでましたね。そのときにアクフェン好きの小学生がいる、とラジオ内で話題になってたことがありました(笑)。

──小学生でアクフェン(笑)。でもあの頃の山口一郎さんは日本のエレクトロニックミュージックの間口を広げようといろんなことをしてましたよね。AOKI takamasaと一緒にやったり。

筒井 よくDJイベントとかもやってましたよね。あとは小学生の頃にパフュームも好きだったので、サカナクションでまたその感じやゲームミュージックを思い出しつつ、エレクトロニカを聴いたり。

・バンドを始めたきっかけ

──バンドをやり始めるのはいつですか?

筒井 中学2年生のときに、ゴッチに憧れてギターボーカルをやりたかったんですけど、手先が不器用すぎて全然ギターが弾けなくて、めちゃめちゃ才能がなかったんです……。それでギターはダメかも、ってなったときに両親から「そういえば太鼓の達人が得意だったからドラムできるんじゃない?」と言われて、そこからドラムを習い始めて。中学のときは軽音部がなかったので高校になってから入って、そこでバンドを組んだのが初めてですね。

──ドラムは太鼓の達人の経験があったから、ギターほどつまずくことはなかった?

筒井 ギターよりは形にはなるかな、これでやるか、みたいなネガティブな理由なんですけど(笑)。なぜか当時はベースにも興味がなくて。いまはベースで好きになる曲とか結構あるんですけどね。

──ドラムをやるようになったら、あ、この感じでギターも出来るかもしれないみたいなことも……?

筒井 全然ない(笑)。ドラムはとりあえず叩けば音が鳴るから、あとはリズムパターンを覚えて体を慣らしていけばできるようになるんですけど。

──いや、それもなかなかですよ。それができるかできないかの違いですよね。

筒井 いやいや。でもギターはそもそもコードを押さえるところから出来なかったんで。Fのコードが変な音になったり。才能ないからやめようって感じでした。

──でも実は高校生の頃からバンドをやってたんですね。

筒井 演奏はしてたんですけど、あまりやる気がない軽音部だったんで、みんなアニソンのコピーとかを適当にやるだけで。

──その軽音部にも音楽の趣味が合う人はいなかったんですか?

筒井 そのときちょうどボカロが流行ってたのとアニメの「けいおん!」が流行ってたのでその主題歌をやる人はいたんですけど、バンドやほかの音楽にハマっている人はいなかったですね。

──そこから大学に入ってもずっと音楽をやるんですね。

筒井 ドラムは続けようかなと思ってたのと、高校生のときはライブらしいライブができなかったので、ちゃんとライブハウスでライブをやってみたいと思って、軽音サークルを探して自分に合いそうなところに入りました。

──合いそうということは、自分が好きなバンドの曲を演奏できるようなところを探したんですか?

筒井 ちょうど私が入るときにそういうオルタナっぽい音楽を聴いている人があんまりいなかったらしくて、新勧のときに私が「高校生の頃にバンアパ(バンド・アパート)とか聴いてました」と言ったら「え?マジで!」みたいな(笑)。先輩が歓迎してくれて。

──じゃあそこで本格的に音楽の趣味が合う人達に囲まれる繋がりみたいなものができたんですね。

筒井 そうですね。それこそいまやっているクレマチスもベースの人とサークルの先輩が元々知り合いで、その紹介で入ったバンドなんです。結構あのサークルに入ってなかったらいまバンドを続けてないかも、くらいの。

──じゃあホントに運命の出会い。

筒井 ですねー(笑)。同期にすっごいナンバガが好きな男の子がいて、パクリバンドみたいなのをやってたんですけど、そういうのも楽しかったですね。オリジナルの曲をやるサークルだったので作曲をする人がいたりとか、スタジオに入って曲を作ったりするバンドもあって。で、ドラム人口が少ないので6バンドぐらい組んでやってました(笑)。

──えーっ、6バンドも同時に?それはできるんですか?

筒井 できなかったのでちょいちょい辞めていったんですけど(笑)。サークルに合宿があって、そこで曲ごとにバンドを組んでコピーをやるみたいなのがあるんですけど、ほんとにドラムがいないので1人で10曲ぐらいやらなきゃいけなくなっちゃう(笑)。

──みんなはギターってことですか?

筒井 ボーカルとか。まあ男子だとギターが多くて、女子だとベースが多くて。ドラムはいなかったですね。なので高校の頃にできなかった青春を取り戻そうとして、結構進んでやってました。でも結果どれもなくなって、クレマチスだけが残った感じです。

──でもじゃあ大学を卒業してもずっとドラムをやってたんですね。

筒井 まあ下手ではありましたけど、働きながらライブもやったり、レコーディングもしたり。

──すごいじゃないですか。やっぱり小さい頃の太鼓の達人がちゃんと身になってるんですよ。

筒井 あはは。そうなんですかねー。

・音楽の聴き方で影響を受けた人

─いま伺った感じだと音楽の聴き方で影響を受けた人は周りにはあまりいなくて、例えば雑誌とかで音楽を知るとか?

筒井 そうですね。さっき言った通りゴッチのブログを見て、このバンドに影響を受けてるんだ、と思って漁ったりとか、ラジオを聴いて、この人の音楽ってここから作られてるんだ、とルーツを辿るような聴き方をしてました。

──ゴッチはすごいですよね。私はアジカンは全然通ってないんですけど、ゴッチには興味があって。あの人すごく音楽が好きじゃないですか。自分の役割や影響力をわかってるからいろんな音楽を紹介したり、いまも音楽賞(APPLE VINEGAR-Music Award)もやってるし、最近はやってないですけど昔はいい曲があるとまめにツイートしてYouTubeを張り付けて発信したり、そういうのを見てても音楽が好きなのが伝わるので。

筒井 そうですね。何の雑誌か忘れちゃったんですけど、自分が影響を受けた10枚を紹介する特集があって、そのときにレディオヘッドの『OK Comuputer』とウィーザーの青いアルバム(1st )を紹介してて、そこからいろいろ知りましたね。

──そういうところから聴くのって楽しいですよね。世界が広がっていくというか。

筒井 楽しいですねー。それをいまはコーネリアス小山田さんで追体験しているんですけど(笑)。いままったく同じ聴き方をしています。

・コーネリアスについて


──コーネリアスの話はnoteにも書いてましたけど、改めて聞かせてもらってもいいですか?


筒井 あの、炎上した案件があったじゃないですか。あのときに自分のことのように本当にショックで。普段あんまり人を誘わないんですけど、友達を誘ってその話をずっとしちゃうぐらい結構ショックだったんです。自分の好きなアーティストがいままでこんなに炎上することはなかったし、ツイッターにもなんでこんなこと書くんだろう?みたいな暴力的な言葉がいっぱいあってショックでしたし。その昔の話はサークルの人から聞いて知ってはいたんですけど、ほんとにそうなのかな?みたいなモヤモヤもあって。ただそこでまたコーネリアスを聴いてみたらやっぱり音楽はすごくいいので、気にかけるようになった感じで。

──ショックだったけど、あのことをきっかけに聴いてみようという気持ちになったんですね。

筒井 まあ、皮肉なことではあるんですけど。もう少し聴いてみようという感じになったのかもしれないですね。

──でも多分そういう人はいっぱいいたと思うんですよね。あのとき離れた人もいたかもしれないけど、昔聴いてたとか、なんとなく好きだった人もいろんなことを考えたりして、あの件をきっかけにまたコーネリアスを聴くようになった人は多かったんじゃないかなと思うんです。いまちゃんと復帰したからそう言えるところもありますけど。

筒井 そうですね。あのとき活動を停止したじゃないですか。私が好きになったバンドでそういうことはなかったので、復帰してくれたときに、これは観れる時に観なきゃ、と思って2022年のフジロックの生配信で初めてコーネリアスのライブを観たんですけど、あんなに映像と同期して演奏するパフォーマンスだと知らなくて。音楽は聴くけどライブ映像やMVを観るほど熱心なファンじゃなかったので、あれを観て衝撃を受けて。特に「Another View Point」のあの民族音楽みたいな映像を観たときに、なんだこれ!って。

──わけわかんないですよね(笑)。

筒井 復帰してくれた感動と、それを観れた感慨と、あのパフォーマンスとで3重の衝撃を受けて、そこから更に好きになって。で、去年のCIRCLE '23にコーネリアスが出ると決まったときに、これは観ておかないといけないぞ、みたいな。

──東京に住んでる人が福岡のフェスに行くってなかなかできないと思うんですけど、それでも行きたかった?

筒井 行きたかったですね。たまたま友達がその前の年にCIRCLEに行っててよかったという話も聞いてたので。そこで初めて生でコーネリアスのライブを観たんですけど、何かを考える前に涙がドバドバ出てきちゃって。

──それは何の涙ですか?感動?

筒井 何ですかね?すっごい綺麗な音楽と映像が同時に飛び込んできて、感受性がぐちゃぐちゃになっちゃうみたいな、いままでにない感覚でした。

──じゃあ復帰に対しての感傷的な涙というより、驚きが大きかったんですか?

筒井 それももちろんあったと思いますね。復帰してくれてよかった、この目で見れてよかったという感動もあったと思うんですけど、そういう感情が綯い交ぜになって、終わった後もずっと10分くらい涙が止まらないって感じで、ずっと「ありがとう、ありがとう」って言いながら帰ったのを覚えてます(笑)。

──感受性が豊かだ。でも確か「Cue」をやったときですもんね。いいライブを観たんですね。

筒井 「火花」も初披露でした。その日の夜から他の音源もめちゃめちゃ聴きだして。オタク心に火が点いちゃって、1stから全部聴こうみたいな(笑)。

──そこまではそんなにどっぷりハマることはなかったんですね。

筒井 そうですね。『Point』以降の『Sensuous』とか『Mellow Waves』をちらほら聴くぐらい。あとは「サ道」が好きだったので主題歌を聴いたりとか。

──じゃあホントにCIRCLEがきっかけで火が点いて、全部聴こうと。活動年数のわりにはコーネリアス名義でのリリースは意外と少ないですけど、それでも他のものも結構いろいろありますよね?

筒井 そうですね。だから追うのが大変で。フリッパーズ・ギターもいままであんまり聴いたことがなかったので聴こうと思って。

──へえー。そこまで遡る!

筒井 そう。オタクなんで全部知りたい!(笑)で、夫の友達に元々コーネリアスが好きな人がいたので『ヘッド博士の世界塔』のデータも貰って。夫も『Sensuous』が好きだったらしくて、そのときに『69/96』を借りて聴いてたらしくてそのデータも貰って、サブスクで配信されていない音源も入手して聴いたりとかですね。

──いろいろ聴いたうえで発見はありました?

筒井 結構発見は多くて、コーネリアスっていまは世界的に評価されているストイックな音楽家というイメージがありますけど、90年代は「HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP」に出てたりとか、「ミュージック・ステーション」に出てたりとか、かなりエンタメ的に活動してたっていうのも衝撃でしたし、あとは音楽もですね。『FANTASMA』は少し聴いてたんですけど、1stと2ndは全然聴いてなかったので、こんな音楽やってたのか、って不思議でしたね。フリッパーズも意外な感じではありましたけど。こういう人だったんだ、みたいな(笑)。

──確かに『FANTASMA』以降はいろいろあっても統一感はあるというか、そんなに時代の変化とともにガラッと変わったりはしてないけど、その前は結構違いますよね。

筒井 小枝のCMで女装してたっていうのも衝撃でしたし(笑)。

──何でもやってたんですよね。みんなそうだったし、小山田さんでもそういうことやるぐらいの。

筒井 意外でしたね。あとは小山田さんが好きだと言っていた音楽が、大学時代の先輩が好きな音楽だったり。あと「マクロスF」っていうアニメが好きだったんですけど、音楽を菅野よう子さんがやっていて、ボーカルを坂本真綾という声優さんがやってる曲があるんですけど、その坂本真綾さんの曲をコーネリアスが作ってたりして、そういう昔の記憶と結びつくこともあって面白かったですね。

──じゃあホントにいまはコーネリアスなんですね。

筒井 そうですね。私が「コーネリアスが、コーネリアスが」みたいな感じで言うので友達も戸惑ってます。夫の友達で昔好きだった人も多くて、いろいろグッズを貰ったり、昔の雑誌を貰ったりしてるんですけど。今日持ってきました。

──見てもいいですか?

MARQUEE Vol.21 (2000年)


筒井 この雑誌は夫のバンドの友達が譲ってくださって、これ多分『FANTASMA』を出した後ぐらいなんですけど、なぜか本人がいない特集なんですよ。

──ほんとだ。本人の写真はあるけど喋ってない。

筒井 本人のインタビューはなくて、周りの人のコメントしかない。坂本慎太郎とか細野さんとか曽我部さんのコメントが載ってて面白いんです。コーネリアスファンに刺さりそうな音源を紹介するページとか。

──面白いですね。このテレビ欄を真似たページとか、この時代ならではのパロディ感。まだこういうのをやってたんだなっていう。あとなんかすごく、この写真の小山田さんが子供みたい……(笑)。

筒井 確かに(笑)。他のページの当時の広告とかも面白いですよね。


──改めて見ると昔の雑誌って紙面がカラフルで雑誌に活気がある感じがしますね。でも私もそうなんですけど、好きって言っておくといろいろ貰えたりしますよね。言うもんだなと思って。

筒井 ほんとですよね。『Point』のステッカーも前に好きだった人から貰いましたし。


・自分の音楽人生の中でもっとも影響を受けた3人

──では、影響を受けた3人でいうと、まずはやっぱりゴッチ。

筒井 ですね。2番目に山口一郎さん、あとはコーネリアス。

──重要な3組のアーティストもその3人になる感じですか?

筒井 そうですね。まずアジカン。サカナクションもいまの音楽の趣味に繋がると考えていて。

──現在進行形だとやっぱりコーネリアス。

筒井 そうですね。

──いまの話の通りの3人だ。

筒井 興味の幅が狭いですね(笑)。あんまり広く浅くみたいなことが何においてもあんまりできない性格で。

──てことはほんとにハマったら燃え上っちゃう感じですね。

筒井 そう。周りが見えなくなるタイプです。

──でもナギ(筒井)さんの話を聞いてると、人に対してあまり目をハートにして見ている感じはしないんですけど、どうですか?

筒井 いや、でもゴッチとかは普通に好きでしたよ(笑)。

──そっか。まあでも若いときだとそうなりますかね。憧れっていうか。

筒井 かっこいい!って思ってましたね。やっぱり6年間女子校で周りに男の人が全然いなかったので、人に憧れを抱きがちですね。アイドルとかに行かない分、そっちに行っちゃうっていう。

──アイドルにこの先行きそうな気配はありますか。

筒井 結構何回かジャニーズ好きな子に布教してもらったことがあって、私もハマりたいなと思うことはあったんですけど、なんか全然刺さらなくて。多分人に惹かれるのって顔とかより才能みたいなところに惹かれやすいのかなという気がしてますね。自分の感受性を揺さぶられたものにすごい惹かれちゃう性格なので、その人の作った音楽だったり、あと俳優さんが好きな時期もあったんですけど、演技力だったりとか、知識量だったりとか、そういうところで、わ、すごい!と思うと見た目も全部好きになっちゃうタイプなのかもしれないですね。

──なるほどね。

筒井 もちろんアイドルの方もダンスが上手いとか喋りが上手いとか、才能がある方はもちろんいっぱいいらっしゃるんですけど、なんかあんまりそっちには惹かれなくて。これは実家にあって持ってこれなかったんですけど、ゴッチのTシャツにサインを入れてもらったことがあるんです。

肖像画のようなサイン入りゴッチTシャツ



──このTシャツにサインってなかなかすごいですね(笑)。

筒井 サイン会みたいなのがあって、制服着て学校帰りにこれを持って行ってサインしてもらって(笑)。

・自分の音楽人生の中で重要な3枚

──じゃあ話を戻して、人生の中で重要な3枚を教えてください。

筒井 はい。これもさっき挙げた3人になっちゃうんですけど、1枚目がアジアン・カンフー・ジェネレーションの『マジックディスク』というアルバムですね。中学2年生のときにアジカンにハマったタイミングで母親が「このアルバムがHMVに売ってたから」と言って買って来てくれて。

マジックディスク/ ASIAN KUNG.FU GENERATION


──へえー、優しい。お母さんもちょっと聴きたかったんですかね?

筒井 どうなんですかね?わたしが好きって言ってたからだと思うんですけど。この中に入っている「迷子犬と雨のビート」という曲があるんですけど、これが『四畳半神話大系』っていうアニメの主題歌で、このアニメにもハマっちゃって原作の森見登美彦先生の作品も読んで、そこから小説をすごい読むようになったりとか。なのでこのアルバムは大きい存在ですね。個人的にはアジカンは『マジックディスク」以前と以後に分かれると思ってます。

──これはバンド的にはどういうアルバムだったんですか?

筒井 バンドもだいぶ落ち着いてきて解散しようみたいな話も出てたくらい苦しい中で作ったアルバムらしいです。ただ『マジックディスク』はいままでのアジカンらしさとクオリティが上手く混ざってて、すごくいいアルバムですね。

──ファンの中での位置的には人気のアルバムなんですか?

筒井 ファンの方はわたしより前の世代が多いので『ソルファ』とか『ファンクラブ』あたりの音源が好きな人が多くて、『ワールド ワールド ワールド』ぐらいから離れてれていっちゃった人が多いみたいですね。

──でもナギ(筒井)さんにとってはこれなんですね。

筒井 ここから過去の音源を漁りはじめたのもあって、思い入れがある感じですね。いま聴くと他のアルバムもいいなと思うときもあります。でも親に買ってもらって、初めて1枚通して聴いたアルバムなので。

──作品のクオリティだけじゃなく、いろんなことのきっかけになった作品なんですね。じゃあ2枚目はサカナクション?

筒井 そうですね。シングルなんですけど、「ミュージック」。これも母親に誕生日か何かで貰ったんですけど、その頃にスペースシャワーTVで何回もMVが流れてたり、紅白に出たりとかで、ちょうどサカナクションにハマったタイミングで貰ったのと、あとはこのジャケットが面白くて。全部紙なんですけど、新聞紙みたいな素材で開けると展開できる形になってて、そういうジャケットのものを買ったのが初めてだったので、それも印象深いですね。

ミュージック/ サカナクション


──このシングルにはコーネリアスのリミックスは入ってないですか?

筒井 入ってないです。

──「ミュージック」のコーネリアスのリミックスってオリジナルと全然違うじゃないですか。あれを最初に聴いたときはどう思いました?

筒井 すごっ!と思いました(笑)。

──あのリミックスは本当にすごいですよね。音がガラッと変わって印象も全然違って、でも歌声だけはまったく一緒で、背景を全部入れ替えたみたいに違うじゃないですか。小山田さんがインタビューで話してたんですけど、リミックスってそもそもダンスミュージックじゃない曲をダンスミュージックに変えるのに、その反対のことをやった、みたいなことを言ってましたよね。サカナクションの四つ打ちの原曲をあんなに穏やかに変えて、しかも違和感がない。



筒井 私も大好きです。いままでリミックスってあまり聴いてなかったんですけど、たまたま聴いたらすごいよくて、いいなーと思いながら誰も言わずにずっと胸に秘めてたんですけど、大学のときにバンドを組んだメンバーと「あれめっちゃいいよね!」と盛り上がって、やっと人に話せた、と思って嬉しかったです。

──私もあのリミックスが大好きで炎上があった年の年末のDOMMUNEでもかけたんですけど、そのときに気づいたのがコーネリアスのそれまでのリミックスってコーネリアスの曲に近い味付けだったり、『FANTASMA』や『POINT』の音を入れたりとそれなりに主張があったと思うんですけど、あのリミックスはコーネリアスらしさもあるけどサカナクションの原曲の良さを引き立てていて、ものすごく優しいリミックスだと思ったんですよね。サカナクションのメロディを生かして本当に綺麗に仕上げてるから素晴らしいなと思って。

筒井 本当にその通りだと思います。私も前に読んだんですけど、あの曲ってコードが多いから、ああいう四つ打ちの音楽よりも元々はフォーキーな音楽だったんじゃないかと思ってあのアレンジにした、と言ってましたね。そういう解釈も面白いですよね。

──で、ナギ(筒井)さんがのちにコーネリアスにハマってここが繋がるっていうのもね。

筒井 伏線回収みたいなことが最近よく起きてます(笑)。

──じゃあもう1枚は?

筒井 コーネリアスの『Point』ですね。聴いたのは大学2年生ぐらいだった気がします。

Point /  Cornelius


──聴いたときはリリースされてからだいぶ経ってますよね。

筒井 10年以上あとです。『Mellow Waves』が出るちょっと前ぐらいですね。ちょうどサブスクを始めたタイミングで「いつか/どこか」が配信されてたので聴いてみて、いいなと思って『Point』も聴いてみたんですけど、聴いた瞬間に、これサカナクションの原型なんじゃないか?と感じて、なるほどここがルーツだったのか!という発見があったんですよね。普通のバンドサウンドとダンスミュージックとエレクトロニカが混ざった感じがサカナクションに近くて。

──山口一郎さんはコーネリアスに影響を受けたと言ってたりするんですか?

筒井 そうですね。昔のホームページの好きなアーティストのところに「コーネリアス」って書いてたりとか、あと一郎さんが下積み時代にコーネリアスのライブの警備のバイトをやってたらしくて、繋がってるんだ、と。ちょうど『Point』を聴いた時期に、サカナクションっぽい音楽をやってる人って他にいないのかな?と探してたので、「これだ!」みたいな感じでした。『Fantasma』より先に『Point』を聴きましたね。

──それが正解だったのかもしれないですね。サカナクションの原型がわかったという意味でも。

筒井 2019年くらいのコロナ禍に入る前ぐらいのサカナクションライブに行ったんですけど、そこでMVと同期演奏みたいなことをやってて、そのときはこんなことやる人いるんだ、すごいな、って思ってたんですけど、実はコーネリアスが先だったというのが最近になって判明したんです(笑)。

──先にやってた(笑)。でも『Point』はすごいアルバムですよね。古びないし、いまでも結構ライブで演奏しますしね。

筒井 他のアルバムと比べてもかなりコンセプチュアルですよね。ずっと「Point」というキーワードが出てきたりとか、同じ音のモチーフを使ったりとか。面白いですよね。

・コーネリアス愛について

──最新アルバムはどうでした?

夢中夢 / Cornelius


筒井 『夢中夢』は夏にずっと聴いてました。音が涼しい感じなので、昼休みとかに聴きながらお昼ご飯を食べに行ったり。

──どの曲が好きですか?

筒井 「蜃気楼」がいちばん好きです。ライブだと小山田さんのアウトロのギターソロが入って、いいですよね。あと「時間の外で」も好きなんですけど、あれもライブで観れないかなとずっと思ってます。

──やってなかったですね。夢中夢ツアーなのに意外と『夢中夢』の曲を全部やらないんだなって思いました。

筒井 そうですね。「Drifts」もやってない。

──夢中夢ツアーでやらないならこの先もうやらないのかな。『Point』は2019年の再発の際のライブで一応全曲やってたんですよね。

筒井 えー!行きたかった……。『夢中夢』も全部やってほしいです。

──そういえば「AMBIENT KYOTO」のライブも行ったんですよね。どうでした?

筒井 めちゃめちゃ良かったですー。ツアーとほぼほぼセトリは変わらなかったんですけど、「Tone Twilight Zone」とか「Surfing on Mind Wave2」をやったりとか、若干アンビエントっぽい曲を夢中夢のセットリストに加えた感じでした。

──そこで「時間の外で」とかもやるのかと思ってたんですけど、やらなかったんですね。

筒井 やらなかったですね。MVもまだ作られてないし。コーネリアスってアルバムのマイナーな曲でもちゃんと映像が作られてて、ライブでやってくれたりするのがいいなと思ってたので、やってほしいです。

──普段の音楽の聴き方はサブスクがメインですか?

筒井 そうですね。サブスクになっちゃいましたね。

──昔はレンタルで借りてMDに落とす感じでした?

筒井 昔はMDで、そこからはソニーのウォークマンです。パソコンに音源を入れて、そのデータを送って聴けるみたいなやつ。iPodとしくみは一緒だと思うんですけど、音質がいいっていうので父親が勧めてくれて。サブスクに入ってからはほとんどサブスクです。

──レコードを聴ける環境はあるんですか?

筒井 はい。夫がレコードが好きなんで、いろいろ設備を整えてくれて。カセットプレイヤーもあるので、ツアーの特典のカセットとか、「AMBIENTO KYOTO」のカセット『Selected Ambient Works 00-23 』とか、あとお茶とセットのコラボ(BYSAKUU)も買っちゃいました。

──パッケージもかわいいですね。

筒井 ねー。これも北山(雅和)さんのデザインで。こういうのをたまに聴いたりとかしてます。

──結構昔のものも集めたりしてます?

筒井 はい。いまは限定盤を優先して集めてるんですけど、『Mellow Waves』とか、いままでに出たアルバムのレコードも少しづつ集めたいなと思っています。

──「Audio Architecture」のレコードは普通に買えたんですか?

筒井 音のアーキティクチャ展には行けなかったので、中古で買いました。このジャケのデザインが素晴らしいなと思って。あとやっぱり小山田さん、折り紙が好きなんだなと思いました(笑)。

──じゃあいまはコーネリアスだと買う、みたいな買い方ですか?

筒井 そうですね。あとは夫が持ってるやつをたまに聴いたりとか。ミツメはレコードで聴きたいなと思って買ったりとかしましたし。

──旦那さんとは音楽の趣味が合うんですか?

筒井 結構近い感じです。最近はめっきりコーネリアスに付き合わせちゃってるんですけど。

──一緒にライブも行きますか?

筒井 「AMBIENT KYOTO」のライブは行きました。あと大久保さんが出られてた去年のDOMUNNE(夢中夢 -Dream in Dream-Release Program)のライブも運よく当たったんですけど、2名まで行けるので夫に「行く?」って聞いたら「なんか面白そうだから行こうかな」ってついてきました。そのときにダメ元でスタッフの方に言ったらセトリを貰えたんですよ。

2023.6.28  
DOMUNNE 夢中夢 -Dream in Dream-
Release Program Live Set List


──これね!待ってるあいだにパルコの昔のCMの映像が流れて、あーなんかコーネリアスみたいだなー、と思ってたら「Another View Point」に繋がったのすごかったですよね。「Another View Point」から始まるライブって初めてだったんじゃないかな。貴重でしたね。

筒井 パルコのCMのセレクトも小山田さんがされたと言ってましたけど、面白かったですよね。オザケンが出てるやつとか(笑)。あとゴンドウさんの「環境と心理」もやばかったですね。あ、そうだ、夫に見せてくれって頼まれたものがあって……これなんですけど。

お手製ステッカー付きの夢中夢ボトル


──えー!すごい!

筒井 ステッカーを作れるサービスがあるらしいんですけど、ロゴをイラストレーターでトレースして誕生日に作ってくれて。この水筒は普通に売ってるみたいで、「夢中夢っぽい色にした」と言ってました。

──世界に1個しかないオリジナルってことでしょ?愛がこもってますね。では最近のお気に入りの音楽は聞くまでもなくコーネリアスですよね。

筒井 そうですね。あとはSpotifyに配信してくださってるコーネリアスのお正月プレイリストみたいなのを少しずつ聴いてますね。

──あれいいですよね。

筒井 曲順とかもすごくいいですよね。あとプレイリストの話からは逸れちゃうんですけど、ジンジャー・ルートは最近よく聴いてます。こんなに日本リスペクトの方はあんまり見たことない(笑)。ジンジャー・ルートのライブに行くっていうのが今年の目標です。あとはサム・ウィルクス&ジェイコブ・マンのアルバムは、夫と共通のバンドの友達と、あとはコーネリアスが好きだったという友達もみんなが聴いてて、私もいいなと思ってたんですけど、コーネリアスの"Dream in Dream” INSPIRED PLAYLISTに入ってたことに最近気づいて、みんな聴いてる!と思って。こういうプレイリストを作ってくれるのもありがたいですよね。


・バンド活動とドラムについて


──バンドの話も聞いてもいいですか?さっきクレマチスは知り合いに紹介されたと言ってましたが、入ってどのくらいですか? 

筒井 6年ぐらいですね。大学3年生のときに入って。

──結構長いですね。すごい。なかなかできないことですよ。

筒井 クレマチスはメンバーのモチベーションがすごく高くて、音源出そうとか、レコーディングしようとか、こういうライブをしようとか、積極的に動かしてくれるメンバーだったので、私はそれについていくだけだったんですけど。逆に私が就職してからいっぱいいっぱいになっちゃって、ライブを休みがちになったりとか、なかなかスタジオに入れなかったりもしたんで、その部分で難しさもあったんですけど。




──ドラムってどこが楽しいですか?

筒井 どこが楽しいんですかね(笑)。でも自分は基本的に曲が作れないので、曲のよさを最大限に生かすドラムパターンってなんだろうとか、強弱のつけ方とか、ここで表現したいことを生かすにはどうしたらいいだろうみたいなことを考えて、それが上手くハマっていろんな人に「よかったよ」と言われたときは嬉しいですね。辛いことも多いですけど。

──体力的には辛いですか?

筒井 辛いですねー。

──体力が要りますよね。だって叩き続けなきゃいけないじゃないですか。全然サボれないパートですよね。

筒井 ははは、そうですね。あと失敗すると一発でバレるっていう(笑)。あと機材が重いんですね。いま私、スネアとバスドラムを叩くぺダルしか持って行ってないんですけど、それを背負うだけで背骨が痛くなるぐらい重くて。でもスネアも備え付けのやつだとあんまりいい音が出なかったりするので。

──でもドラムってすごく魅力的な楽器だなって私は思いますね。音楽を聴くときもドラムの音がいちばん気になるし、やっぱりかっこいいなっていつも思ってるんです。

筒井 そうなんですね。でも確かに目立つし、グルーヴにいちばん関わってきますよね。

──うんうん。好きなドラマーはいますか?

筒井 最近は林立夫さん。キャラメルママで細野晴臣さんとかと一緒にやってた方で、手数が多いわけじゃないんですけど、グルーヴがすごくて。スネアの音もタイトでいい音なんです。真似したくて最近頑張ってるんですけど。あとはくるりのドラムをやっていたクリストファー・マグワイアもかっこいいですね。

──スネアの音の違いって叩き方の問題なんですか?

筒井 チューニングとか、ミュートの仕方?ガムテープを上に張ったりするんです。サスティンと言って、叩いたときに音の余韻が残るんですけど、ミュートをすると余韻が短くなったりとか、いい意味でインディーっぽいローファイな感じになったりとか。ただ私はドラムにすっごい興味があるわけじゃないので、全然詳しくないです(笑)。

──ははは。そこに関しては関してはハマらなかった(笑)。

筒井 消去法でやることになったので全然(笑)。


2024年 2月某日
場所 武蔵境ond


★今春で筒井なぎささんが卒業するバンド、Clematis(クレマチス)のライブのお知らせ


★筒井なぎささんのnoteはこちらから☟















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