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社会人になって初めてできた“推し” コーネリアス

「推し」とは一体なんなのだろうか。

推し活、推しカラー、推しネイル。オタクの間でしか使われていなかった言葉が、ファッション誌やカルチャー誌、マーケティングの文脈など、あらゆる場面で使用されるようになった。小学生のときから「オタク」という自覚を持っていた私にとって、ややこの現象に違和感を感じる。

物心がついたときから、執着するもの...いわゆる「推し」が定期的にできる性格だった。指人形収集、スーパーに売っている石鹸収集から始まり、モーニング娘。、ミニモニ、ラブandベリー、ポケモン、銀魂...。何か一つのことにハマるとそのことしか考えられなくなり、全てを投げ打って執着する癖があった。典型的なオタク気質である。

しかし社会人になってから、熱中できるものがなくなってしまった。音楽やマンガ(というかBL)、ドラマなどはゆるく好きだったけど、特定の何かに入れ込むほどの熱量はない。毎日それなりに楽しくはあったが、どこか物足りないなと思いながら日々を過ごしていた。

そんな中、友人が誘ってくれて、今年5月に福岡のcircleというフェスに行った。
元々別のフェスに行く予定だったのだが、Corneliusや向井秀徳など、一回生で見たかったけど機会がなかったアーティストが多く出るということで、そちらに行くことになった。
Corneliusのライブは、昨年のフジロックの生中継を観て衝撃を受けた。色々なことがあったのもあり、観られるうちに生で観た方がいいな...と、謎の使命感に駆られ、福岡に飛び立った。期待値爆上がりのまま彼の出番を待った。

日が落ち始めた夕刻、Corneliusのライブが始まった。音の迫力、飛び込んでくる映像に視界と聴覚を同時に揺さぶられ、キラキラとした美しい情報で脳内が埋め尽くされる感覚があった。何かを考える前に、涙が溢れ出てきた。こんな経験は人生で初めてだった。
そして改めて感じたのは、鳥肌が立つほどの音楽に対する愛と真摯さ。一糸乱れぬ緻密な演奏、計算し尽くされた気持ちいい音の配置と出力、音楽と連動して、脳内世界を増幅させる映像。こんなにも全力で音楽に向き合い、表現している人を生まれて初めて目撃した。これが「音楽をやる」ということなのかと、完全に打ちのめされた。

そこからCornelius、小山田圭吾の沼に急転直下した。過去の音源や参加作品を聴ける限り漁りまくり(恥ずかしながら「Point」以前の作品を全然聴けていませんでした)、現在進行形で追えるものは追い、通勤途中にネットでインタビューやレビューを読み、ネットで拾いきれない情報や、知り得ない時代のものはメルカリで雑誌や本を買って入手した。

直近の推しは、ドラマ『おっさんずラブ』にハマったときに好きになった、俳優の田中圭。社会人になってから推しができたのが初めてだったので、ひしひしと実感したのが、学生時代よりお金があるので際限なく物を買えてしまうということである。限定音源もそこそこ高値で買ってしまったし、「これは大変だ!」と思いつつ、躁状態のような感じで、暇を見つけては情報を入手し関連商品を購入する...という生活に様変わりした。

彼の音源を聴けば聴くほど、彼の活動を知れば知るほど新たな一面が立ち現れてくる。寡黙な音楽家というイメージだったが、20数年前には女装をして小枝のCMに出ていたし、彫刻の森美術館で逆立ち(?)をしていた。女性ファンにキャーキャー言われながら、HEYHEYHEYやNHKでオルタナすぎる音楽を当て振りで披露していた。かと思えばYMOやMETAFIVEなどのギタリストとしてキレのある独特なギタープレイを披露し、国内外問わず作品の解釈を広げるリミックスを恐ろしい数担当していた(ちなみにギター・ボーカル参加、プロデュースなども含めると聴ききれないくらい膨大な音源に関わっている)。最近では企業の紹介ムービーの音楽制作、木村拓哉への楽曲提供などを行いつつ、自身の作品でさらに音楽性を深化させている。誤解を恐れずに言えば、こんなに「おもしれー男」に出会ったのも初めてかもしれない。

また、大学を卒業してから自身の音楽の趣味が凝り固まってしまい、好きなアーティストの曲だけをひたすら聴くようになってしまったのだが、小山田圭吾をきっかけに関連アーティストを聴くようになった。Buffalo Daughter、砂原良徳、YMO、TOWA TEI、スケッチ・ショウ、細野晴臣、山本精一、吉村弘、ザ・スミス、DAF、クラフトワーク...。気になっていたけどなかなか聴けなかった...というアーティストを聴く機会になり、30目前にして、まだまだ知らないことがたくさんあるんだと感動した。動くことが久しくなかった好奇心がバチバチに活動しだし、脳の中でけたたましく暴れている。細胞が若返っているような感覚がした。

私が音楽を本格的に好きになったのも、中学時代、ASIAN KUNG-FU GENERATIONにどハマりしたことがきっかけだった。アジカンを好きにならなければ今頃バンド活動はおろか、音楽をそこまで熱心に聴いていないだろうし、ましてやCorneliusを好きになることもなかっただろうと思う。人生や生活を大きく変えてしまう存在、それが「推し」なのかと最近ひしひしと感じている。

尋常じゃないくらいハマっているので下手したらあと1ヶ月後にはこの熱が冷めているかもしれないし、正直自分でもどこまで持続するのか分からない。この文章を読んで、激しく恥ずかしくなる日がきっと来ると思う。
けれども、少なくとも、冴えない毎日に新鮮な衝撃と発見をたくさんもたらしてくれる「推し」の存在に、感謝せずにはいられない。

そして、彼の活動を追い始めてから驚いたのは、30年以上、フリッパーズ・ギター時代から熱心に応援しているファンの方がたくさんいるということである(こんなにも長い間、リアルタイムで活動を追いかけるファンがたくさんいるアーティストは、そう多くないのではと思います)。そして、ファンの方々の投稿を見ていると、今なおキラキラしていて楽しそう。好きなものがあると、いつまでも生き生きと過ごせるのだということも希望だった。

正直、「推し」とは、あらゆるメディアで軽々しく使われている意味より、はるかに切実で重い存在であるように映る。少なくとも私は、人生や生活が変わってしまった。モヤモヤの原因はここにあるのかもしれない。

そんなことはともかく、Corneliusの最新アルバム「夢中夢」をどうぞ宜しくお願いいたします。


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