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短編小説から見る社会

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菅原ゼミで読んだ短編小説の書評を順次掲載していきます。書評は全てゼミ生が書いています。授業期間中の毎週末ごろ更新です。  ※ネタバレありですので気になる方はお気をつけください。
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2021年5月の記事一覧

サミュエル・R・ディレイニー「コロナ」書評

サミュエル・R・ディレイニー「コロナ」書評

今週2本目の書評は、八木あかりさんです。

サミュエル・R・ディレイニー「コロナ」(『ドリフトグラス』収録)

評者:八木あかり

 音楽で世界を変える、なんてことはできないのかもしれない。しかし、音楽によって人が救われたり、人と人とがつながったりすることはあるのではないだろうか。これはその一瞬の輝きと奇跡を描く、優しさに満ち溢れた短編である。
 人の心を読む能力を持った少女リーが、悪夢にうなさ

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片瀬二郎「ミサイルマン」書評

片瀬二郎「ミサイルマン」書評

今週は2本の書評を掲載します。まず柴田美朝さんの書評です。

片瀬二郎「ミサイルマン」(日本文藝家協会編『短篇ベストコレクション 現代の小説2020)収録)

評者:柴田美朝

日常と非日常

 日常とは何であろうか。日常というものは存在するのだろうか。存在するにしてもそれは本物と言い切れるのか。この小説で考えさせられたことである。
 ある小さな工場の跡取り息子である俊輔は期末と年度末が被り戦場と

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奥田英朗「ファイトクラブ」書評

奥田英朗「ファイトクラブ」書評

 今週2本目の書評は北川結衣さんに書いていただきました。

奥田英朗「ファイトクラブ」(日本文藝家協会編『短篇ベストコレクション 現代の小説2020)収録)

評者:北川結衣

コーチと彼らの青春

 私は当たり障りのない平凡な生活が一番であると考えている。それが故に異端な行動はせず、長いものには巻かれるべきだと何事も目をつむって生きてきた。そんな私はこの作品を読んで、主人公の内向的な心理への同調

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内田百閒「サラサーテの盤」書評

内田百閒「サラサーテの盤」書評

 今週1本目の書評は、内田百閒「サラサーテの盤」の書評です。評者は森本和圭子さんです。

内田百閒「サラサーテの盤」書評(『内田百閒集成4 サラサーテの盤』収録)
評者:森本和圭子

 行動や言動からおかしい、変な人だと思われる人にもどこか一貫して意思があることもある。この物語は夫を亡くして病んだ神経質な妻の心理を描いているようだが、その不気味さだけでは終わらない。そのようなことを感じさせる「サラ

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阿川佐和子「カモメの子」書評

阿川佐和子「カモメの子」書評

 今週の書評は1本です。阿川佐和子「カモメの子」を山田瑠菜さんに書評していただきます。

阿川佐和子 『カモメの子』(日本文藝家協会編『短篇ベストコレクション 現代の小説2020)収録)

評者:山田瑠菜

カモメと波と浜木綿

 この作品を一通り読み終えた時、私は考えた。もし、物心ついた時から自分のそばにいなかった母親が突然帰ってきたら、どんな気持ちになるのだろう。素直におかえりと言えるだろうか

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川上弘美「蛇を踏む」書評

川上弘美「蛇を踏む」書評

本日2本目の書評は、川上弘美の「蛇を踏む」の書評です。評者は竹中菜南子さんです。

川上弘美「蛇を踏む」(日本文藝家協会編『現代小説クロニクル 1995~1999』収録)

評者:竹中菜南子

 この小説は主人公であるサナダヒワ子が蛇を踏んでしまったというところから始まる。その蛇はヒワ子の住む家に当たり前のように生活するようになる。ヒワ子の母だと言い張る蛇に内心気味が悪いと感じながらも、ヒワ子は普

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テッド・チャン「商人と錬金術師の門」書評

テッド・チャン「商人と錬金術師の門」書評

今週は2本の書評を紹介します。1本目はテッド・チャンの時間SF「商人と錬金術師の門」の書評です。評者は高瀬晴基さんです。

テッド・チャン「商人と錬金術師の門」(大森望訳、『ここがウィネトカなら、きみはジュディ:時間SF傑作選』収録)

評者:高瀬晴基

「さいころの心得」

 もしタイムマシンが存在するとしたら、どうするだろうか。未来に行って人生の予習に使うだとか、過去に行って悔いの残滓をなくす

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