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2021年ベストアルバム30選

少しずつ諸々の規制が緩和されてきたものの、未知なる恐怖が立ち込める中で終わりを迎えようとしている2021年。年が開けて間もなく2度目の緊急事態宣言が発令され昨年と変わらぬ停滞感に覆われた上半期、オリンピック開催の賛否の声を引き継ぐ形で向かい風の情勢で行われた夏フェス等、昨年以上に1人の音楽ファンとして、市井に生きる生活者としての立ち振る舞いが試された1年でした。この1〜2年の影響を受けたアーティストの方々の苦悩や葛藤は計り知れないですが、その中でもクオリティ面とメッセージ性ともに素晴らしい作品を数多く世に放ってくれたことに多大な敬意を示したいと思います。

今年の個人的ベストアルバムは国内外ジャンル問わず計30枚をランキングにし、各作品にコメントを付けさせて頂きました。気になった作品は是非聴いてみて下さい。

2021年ベストアルバム30選

30. ROTH BART BARON 「無限のHAKU」

COUNTRY : JAPAN
RELEASE DATE : 2021.11.24
GENRE : INDIE FOLK, ART POP, CHAMBER POP

SSW三船雅也によるインディフォークバンドの6thアルバム。独りで過ごさざるを得なかった時世で誰かと音を鳴らすプリミティブな喜びを表現した前作に比べると、静かで粛々とした、それでいて優しく包み込むようなサウンドが広がる。ポカリスエットのCMソングとして一世を風靡した「BLUE SOULS」もバンドverで再録されたが、華やかな原曲以上にミニマルなアレンジに。1曲目の「ubugoe」の歌い出しが象徴するように、大きな声を上げられない/上げたとしても大きな権力にかき消されてしまう時代に生きる人々の声にならない声を掬い上げるように繊細に紡がれるフォークミュージック。随所で光る岡田拓郎のアンビエントなギター使いにも注目。

29. Hovvdy 「True Love」

COUNTRY : US
RELEASE DATE : 2021.10.01
GENRE : INDIE POP

アメリカテキサス州の男性2人組デュオの4thアルバムでボン・イヴェールやビッグ・シーフのアルバムを手がけたアンドリュー・サーロとの共同プロデュース作。優しく広がるローファイでフォーキーなサウンドがアメリカ郊外の原風景を思い起こさせる。また今作の制作中にそれぞれ結婚した2人による過去の恋愛の回想や、家庭を築くに当たる覚悟と不安の間で揺らぐ心情を描いた歌が時に親密に時に儚く響く。とにかく表題曲「True Love」が素晴らしい。

28. Bearwear 「The Imcomplete Circle」

COUNTRY : JAPAN
RELEASE DATE : 2021.12.15
GENRE : INDIE POP, EMO

東京の2人組インディロックバンドの1stフルアルバム。USインディやエモをrルーツとするバンドサウンドを軸に、アコースティック、打ち込み、アンビエントの意匠を細部に盛り込み、2人ならではの柔軟かつ実験的なサウンドアプローチが結実した。シューゲイザーバンド揺らぎのボーカルMiracoやシンガポールのドリームポップバンドSobsのボーカルCeline Autumnが参加した楽曲の美しいコーラスワークも絶品。ベッドルームから日々の生活模様、さらには雄大な自然やフィクションの世界と様々な情景を行き来する大満足の15曲。

27. (sic)boy 「vanitas」

COUNTRY : JAPAN
RELEASE DATE : 2021.12.08
GENRE : EMO RAP, GRIME

昨年リリースされたプロデューサーKMとのタッグ作を経て、初のソロ名義となるアルバム。トラップやエモラップとロックの融合という切り口で語られることが多いが、今作ではそのシグネチャーを踏襲しつつ、新たな感性を持ったラッパー/アーティストを国内外からゲストに招き、ダイナミックかつ振り幅の広い作品となった。グローバルな広がりを意識したであろう結果、日本のリスナーに凄く受けそうなサウンドになってるのがとても興味深い。大きな目標に掲げているフルバンドでのライブに一歩近づいた、現時点でもそのイメージが十分出来るアルバム。

26. Big Red Machine 「How Long Do You Think It's Gonna Last?」

COUNTRY : US
RELEASE DATE : 2021.08.27
GENRE : CHAMBER POP, ART POP, INDIE FOLK, FOLKTRONICA

ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンとザ・ナショナルのアーロン・デスナーによるユニットの2ndアルバム。昨年この2人がプロデュース及びフィーチャリングで携わったテイラー・スウィフトをはじめ、フリート・フォクシーズのロビン・ペックノールドやシャロン・ヴァン・エッテンなど、USのポップ〜インディシーンのキーパーソンとコラボした楽曲が並び、コミュニティミュージックを掲げる2人の充実度がうかがえる1枚。様々なジャンルや思想が混ざり合う実験的な一面と、生命の温もりを感じる人間的な一面がひとつの音となり広がっていく。先述したROTH BART BARONなど国内の音楽シーンへの影響力も計り知れない。

25. Base Ball Bear 「DIARY KEY」

COUNTRY : JAPAN
RELEASE DATE : 2021.10.27
GENRE : POP ROCK, NEWWAVE

結成20周年を迎えたスリーピースバンドの9thアルバム。スリーピースの基礎編という位置付けの前作からアレンジにおいても音響面においても様々なトライアルが見受けられるが、一方でポップでソリッドな日本語ギターロックというフォーマットへの拘りもより強固なものに。この1〜2年の心象風景を巧みに描いた小出祐介の歌詞には、聴き手の想像力を喚起させる仕掛けが満載。タフな時代を前向きに生きていくための人間讃歌集であると同時に、鍵をかけて誰にも見せない個人的な日記のような作品でもある。頑なに言葉に表さなかったもう1つのテーマに想いを馳せる。

24. Dave 「We're All Alone In This Together」

COUNTRY : UK
RELEASE DATE : 2021.07.23
GENRE : UK HIP HOP, CONSCIOUS HIP HOP

ナイジェリア出身の両親を持つイギリスのラッパーの2ndアルバム。前作で描かれた孤独感やメンタルヘルスの問題はコロナ禍を経てリリースされた今作にも引き継がれ、彼が感じてきた孤独と大いに密接するイギリスの人種問題や政治のシステムの残酷さをリアルに映し出すコンシャスな作品となった。アフロビートのトラックでルーツを織り込みつつ、アルバム通して印象に残るのはジェイムス・ブレイクとコラボした「Both Sides of a Smile」など物悲しげなムードが覆う楽曲の数々。10分弱に及ぶ「Heart Attack」の終盤のアカペラのラップ、母親の悲痛な叫びをサンプリングしたアウトロが特に切に響く。

23. Daichi Yamamoto 「WHITECUBE」

COUNTRY : JAPAN
RELEASE DATE : 2021.06.16
GENRE : POP RAP, JAZZ RAP

京都生まれのラッパーの2ndアルバム。ローの効いた声を武器に時に攻撃的に畳み掛け、時に滑らかなボーカル&フロウで魅了する。カオスが渦巻く現代社会と身近な人への愛をテーマに、バラエティ豊かなトラックで多面的な仕上がりとなった。同郷の芸術家古橋悌二の生前のインタビューをサンプリングしアートの在り方を説いた「Love+」や、順風満帆に見える活動の裏側で影を落とす「maybe」の空虚なトラックと内なる葛藤を吐露したリリックが特に沁みる。

22. black midi 「Cavalcade」

COUNTRY : UK
RELEASE DATE : 2021.05.26
GENRE : EXPERIMENTAL ROCK, JAZZ ROCK, AVANT-PROG, ART ROCK

イギリス・サウスロンドンのポストパンクシーンを牽引するバンドの2ndアルバム。2年前のデビュー作に続いて予測不能な曲展開と執拗に炸裂するキメの数々、そして暴力的とも言えるサウンドがジェットコースターのような緩急と振り幅で容赦なく襲いかかる。一方で今作はクラシックやフリージャズを取り込んだことで、カオスなのにとても上質な美しさを感じられる。バンドサウンドが無秩序にぶつかり合う中でバイオリンやサックスが激しく荒れ狂う様は圧巻。

21. Age Factory 「Pure Blue」

COUNTRY : JAPAN
RELEASE DATE : 2021.11.24
GENRE : ALTERNATIVE ROCK, EMO

奈良発スリーピースバンドの4thアルバム。1回目の緊急事態宣言期間中にリリースされた前作は緻密に構成されたオルタナティブロックを軸に彼らの原風景に立ち返る内省的な作品だった。今作はより一層ピュアな原風景を追求し、サウンドはよりシンプルに研ぎ澄まされてフィジカルに訴えかけるロック味の強い作風に。2分台のショートナンバーを次々繰り出すスタイルはパンクロックというよりエモラップ的であり、世界的に90~00年代のエモやポップパンクのリバイバルが進む現在のムードとも共振する。

20. The War On Drugs 「I Don't Live Here Anymore」

COUNTRY : US
RELEASE DATE : 2021.10.29
GENRE : HEARTLAND ROCK, INDIE ROCK

アメリカの土着的なハートランドロックを軸にシンセポップやドリームポップの要素を織り交ぜた音楽性でUSインディー界を代表するロックバンドの5thアルバム。煌びやかなメロディと華やかなコーラスが彩る表題曲が特に素晴らしい。アリーナロックのアンセミックな高揚感と、物静かなアンビエントの意匠や哀愁漂うギターのバランス感が堪らない1枚。自分が昨年の年間ベストに選んだBBHFのアルバムや彼らが直近のライブで志向していたサウンド感とも共振する。

19. D.A.N. 「NO MOON」

COUNTRY : JAPAN
RELEASE DATE : 2021.10.27
GENRE : ELECTRONIC, INDIETRONICA, ART POP

ジャパニーズ・ミニマル・メロウを掲げる3人組の3rdフルアルバム。独特の浮遊感やSF的世界観を感じるサウンドが更なる覚醒を遂げ、オープニングの「Anthem」を筆頭にダンサブルなテイストを前面に打ち出したナンバーを交えながら、先鋭的かつフィジカルにも訴えかけるアンサンブルを確立させた。アルバムタイトルの通り「月が消滅した世界」をテーマに、昨今のディストピア感漂う世の中を投影したコンセプチュアルな表現力も流石。様々な境界を行き来する無重力な音楽体験が待っている。

18. DYGL 「A Daze In A Haze」

COUNTRY : JAPAN
RELEASE DATE : 2021.07.07
GENRE : INDIE ROCK, ALTERNATIVE ROCK, POWER POP

NYやロンドンでの活動歴もある4人組バンドの3rdアルバム。前作までの彼らに抱いていたクールな佇まいのガレージロックバンドというイメージを覆すような開放的なロックナンバーが新鮮に響く。1枚通して90〜00年代のオルタナロック、パワーポップ、ポップパンクを昇華した作風で、先述したAge Factoryのアルバムと同じようにバンドのピュアでノスタルジックな原風景を追憶出来ると同時に、先行きの見えないモヤのかかった日々の内省の記録でもある。

17. CHVRCHES 「Screen Violence」

COUNTRY : UK
RELEASE DATE : 2021.08.27
GENRE : SYNTHPOP

イギリス・グラスゴー出身の3人組バンドの4thアルバム。煌びやかなシンセポップという武器をいかんなく発揮し、これまで以上にスケールの大きい躍動感のあるサウンドが降り注ぐ。アルバムタイトルはバンド名の候補にも挙げられたもので、結成から10年を経て、画面上で様々な攻撃が繰り広げられる世の中を反映した今作に採用された。フロントマンのローレン・メイベリーは自身をホラー映画のファイナルガール(最後まで生き残る女性)に投影し、未だ女性蔑視の風潮の残る音楽シーンやフェミニズムを嫌うメディアから逃れながらも戦い続ける姿勢をリリックに刻みつけた。

16. Parannoul / Asian Glow / sonhos tomam conta 「Downfall of the Neon Youth」

COUNTRY : KOREA, BRAZIL
RELEASE DATE : 2021.10.22
GENRE : SHOEGAZE, EMO, NOISE POP, BLACKGAZE

Bandcampでリリースされたアルバム「To See the Next Part of the Dream」が大きな注目を集めた韓国ソウル発の宅録シューゲイザープロジェクトParannoulと同郷ソウルのAsian Glow、そしてブラジルのサンパウロを拠点とするsonhos toman contaの3組によるスプリットアルバム。タイトルの通り、都会のネオンのごとく煌びやかで幻想的な浮遊感…以上にその煌めきをも掻き消すノイジーで破壊的な轟音が炸裂。日本でも根強い人気を誇るシューゲイザーやミッドウェストエモの再解釈でもあり、国は違えど大都市に生きるZ世代の若者が抱える鬱屈をそのまま音で表現した生々しい心の叫びでもある。

15. 折坂悠太 「心理」

COUNTRY : JAPAN
RELEASE DATE : 2021.10.06
GENRE : AVANT FOLK, INDIE FOLK

各所で高く評価された2018年の「平成」以来となるフルアルバム。2019年に京都で結成された「重奏」のバンドメンバーと作り上げた今作は、その名の通り重層的で膨よかなアンサンブルで、日本由来の土着的なフォークミュージックをより一層更新するようなサウンドが心地よく染み渡った。紡がれる言葉にコロナ禍を経ての視点が注がれていることには間違いないが、ここ数年の特定の時代の出来事と紐付けられることを拒むように、普遍的でこれからも続いていく日々の生活に寄り添うような筆致で描いているのが彼らしい。時代や周囲とは関係なく揺れ動く"心"と、その中でも筋道を立てて世の中に指し示す"理"の狭間で、彼が大切にしている距離感のようなものが伝わってくる。

14. KID FRESINO 「20,Stop it.」

COUNTRY : JAPAN
RELEASE DATE : 2021.01.06
GENRE : EXPERIMENTAL HIP HOP

2021年のスタートを高らかに告げた4thアルバム。ラップミュージックと様々なジャンルとの接続を押し進めた楽曲が次々と繰り出されていく展開は圧巻でもあり異質でもある。ただ、一番のシグネチャーであるフレシノのキレキレのフロウと独特な言語表現はアルバム通して一貫しており、タイプの異なる楽曲をスムーズに繋いでいく。セルフプロデュースの先鋭的で攻撃的なトラックも、凄腕プレイヤーが集ったバンドグルーヴを軸にした楽曲も一級品。地上波でのパフォーマンスや他のアーティストへの客演も含めて1年通して素晴らしい活躍を見せてくれた。

13. millennium parade 「THE MILLENNIUM PARADE」

COUNTRY : JAPAN
RELEASE DATE : 2021.02.10
GENRE : ART POP, ALTERNATIVE R&B, EXPERIMENTAL HIP HOP

2016年の「http://」という作品をプロトタイプとし、その後King Gnuとして日本のポップシーンを経由した末に完成した、常田大希による壮大なアートプロジェクト/コレクティブの序章にして最初の集大成となる1stアルバム。こだわり抜いた緻密なプロダクションと、文字通りぶっ飛ぶようなダイナミックさを兼ね備えたサウンドはまさにカオスであり、同時に想像以上にポップな仕上がりでもあった。このような志向の音楽は日本には過去に例を見ないと思うが、それぞれの楽曲を丁寧に紐解いていくと、彼らを形成してきた過去の優れた音楽へのリスペクトを存分に感じ取ることが出来る。彼らの掲げる"トーキョー・カオティック"というコンセプト、そして鬼や花火をモチーフに喪失や祈りを描いた世界観はこの夏の世の中のムードとも共振した。

12. No Rome 「It's All Smiles」

COUNTRY : UK, PHILIPPINE
RELEASE DATE : 2021.12.03
GENRE : ALTERNATIVE R&B, INDIE POP, HYPERPOP

フィリピン・マニラ出身でロンドンに拠点を置くSSWのThe 1975ら擁するDirty Hitからリリースされた1stアルバム。"シューゲイザーR&B"を標榜する今作は、繊細に重ねられたノイジーなギターと様々なエフェクトを凝らしたトラックメイク、淡い恋愛描写やノスタルジーを歌ったグッドメロディのボーカルが相まって、浮遊感という表現では収まらない独特なサウンドに驚愕した。ギターやロックのテイストの強い楽曲が揃い今作とは別にエレクトロテイストの強いアルバムも制作中ということで今後の動きにも注目。来年のサマーソニックあたりにも期待。

11. Tyler, the Creator 「CALL ME IF YOU GET LOST」

COUNTRY : US
RELEASE DATE : 2021.06.25
GENRE : WEST COAST HIP HOP, JAZZ RAP

グラミーを獲得した前作「IGOR」以来およそ2年ぶりとなる6thアルバム。19世紀のフランスの詩人シャルル・ボードレールをモチーフにした"タイラー・ボードレール"というキャラクターを演じる今作は、初期のタイラーに象徴される批判もいとわぬ攻撃性(および当時の自身の回想)と近作に見られる甘美なソウルミュージックが共存し、旅をするように自由気ままなムードが漂う作品となった。DJドラマによる印象的なナレーションを交えながら、短い楽曲が曲間なく次々と繰り出され、境界も分からぬままシームレスに繋がっていく。当事者でもあるキャンセルカルチャーやBLMに対する姿勢も示しつつ、最後まで風通しのよい大満足の16曲。

10. Indigo De Souza 「Any Shape You Take」

COUNTRY : US
RELEASE DATE : 2021.08.27
GENRE : INDIE ROCK

アメリカ・ノースカロライナ出身の女性SSWの2ndアルバム。昨年に続きUSインディシーンの女性SSWの良作が目立った1年だったが、今作のダイナミックなバンドサウンドとそれ以外の要素のバランス感覚は特に良かった。ローファイで抜けの良いインディロックを軸に、宅録SSW時代のベッドルーム・ポップのビート感やオートチューンのボーカルなどを交えた現代の若者らしいシームレスな作風(YouTubeに公開されているフランク・オーシャンのカバーも合わせてチェックしてみて欲しい)。ネット上でファンの叫び声を募集し音源に取り入れた「Real Pain」の後半の曲展開には大きなカタルシスを感じた。

9. Cassandra Jenkins 「An Overview on Phenomenal Nature」

COUNTRY : US
RELEASE DATE : 2021.02.19
GENRE : CHAMBER FOLK, AMBIENT POP

NY出身の女性SSWの2ndアルバム。ツアーに帯同する予定だったミュージシャンの死を受け、喪失からの回復を求めてノルウェーに出向いた彼女の体験や内省、現地の自然現象などを表現した7曲。穏やかな波のように揺らめくアンビエントの意匠、海から吹くそよ風のようなサックスの音色、空間を広く使った幽玄なフォークサウンドがゆったりと心地よく流れゆく。ポエトリーリーディングを交えた3曲目の「Hard Drive」は各メディアでも今年のベストソングの一角を占める名曲。最後は地元NYのセントラルパークをフィールドレコーディングし、自然のさざめきを収めたインスト曲で締め括るのも良い。

8. Rostam 「Changephobia」

COUNTRY : US
RELEASE DATE : 2021.06.04
GENRE : INDIE POP, ART POP

ヴァンパイア・ウィークエンドの元メンバーで近年はプロデューサーとしてフランク・オーシャン、ハイム、クライロ等の作品を手掛けて名を上げているロスタムの2ndアルバム。インディーロックと彼が拠点とするLAのビートミュージックを掛け合わせたサウンドはとてもノスタルジックでゴージャス。甘美なサウンドでコンフォートゾーンへ誘う一方で、居心地の良さから抜け出すのが難しいように、時代に合わせて価値観を変化させていくことの恐怖や困難を歌っている。ロスタム1人で大体の楽器をレコーディングした作品だが、スロウで包容力のある「Unfold You」や、複雑なビートが疾走する「Kinney」などではヘンリー・ソロモンによるサックスの音色が存在感を放っている。

7. Sam Fender 「Seventeen Going Under」

COUNTRY : UK
RELEASE DATE : 2021.10.08
GENRE : HEARTLAND ROCK

イギリス北部出身のSSWの2ndアルバム。カラッとした開放的なギター、力強くメロディアスな歌、そしてサックスの音色が伸びやかに響き渡る。冒頭の表題曲からロックアンセムを畳み掛ける展開は、ステイホームの期間を経て徐々にライブに行けるようになったこの1年間で求めてきたピュアでプリミティブな躍動感そのもの。詞は労働者階級の町に生まれたサムが、思春期や大人になるまでの苦悩や試練などをテーマに書き上げた。旧態依然の悪しき男性像に対する批判的な姿勢、逆に男性にとって軽視されがちなメンタルヘルスへの眼差し、格差に目を向けない政府への不信感など、アップデートされるべき価値観をスプリングスティーンに連なる普遍的なハートランドロックに乗せた1枚。

6. Little Simz 「Sometimes I Might Be Introvert」

COUNTRY : UK
RELEASE DATE : 2021.09.03
GENRE : CONSCIOUS HIP HOP, UK HIP HOP, NEO-SOUL

イギリス・ロンドン出身の女性ラッパーの4thアルバム。壮大なオーケストラから始まり、ソウル/R&Bを軸にした滑らかで力強いサウンド、随所に煌びやかなインタールードを挟みつつ流れるように進んでいく展開はミュージカル舞台のよう。一方でIntrovert=内向的というテーマを据えたシムズのラップは、ナイジェリアにルーツを持つ彼女と家族にまつわる話や人種・ジェンダーを巡る問題を当事者の視点からクリティカルに捉えたもの。自身の内面に向き合った洞察力と、そこに確かな説得力を持たせる圧倒的なスキルとサウンド。綿密なディレクションで複雑な人間模様を描いた総合芸術と言える1時間超えの大作。

5. Hiatus Kaiyote 「Mood Valiant」

COUNTRY : AUSTRALIA
RELEASE DATE : 2021.06.25
GENRE : NEO-SOUL, NU JAZZ

オーストラリア・メルボルン発の4人組バンドがフライング・ロータス主宰のブレインフィーダーからリリースした3rdアルバム。6月までのリリースの中で唯一上半期のベストには入れなかった作品だが、9月の中村佳穂のライブのSEで流れていたのをきっかけにどハマりすることに。レーベルのカラーとも親和性の高い緻密で変則的なリズムと、ボーカルのネイ・パームのソウルフルかつスピリチュアルな狂気を孕んだ表現力が混ざり合い、他では為し得ないグルーヴ感を味わえる。今作の自然や生命の神秘へ迫るような世界観を生でも体感したいところ。来年のフジロックにも期待したい。

4. Wolf Alice 「Blue Weekend」

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COUNTRY : UK
RELEASE DATE : 2021.06.04
GENRE : ALTERNATIVE ROCK, DREAM POP

The 1975らを擁し、2010年代以降のUKロックを代表するインディレーベルDirty Hitに所属する4人組バンドの3rdアルバム。最初と最後の曲に象徴される幻想的なコーラス、そして波のように押し寄せるドリーミーな音像はマーキュリー・プライズを受賞した前作から更にスケールアップ。静かに紡がれるフォークや煌びやかな80'sリバイバル、吹っ切れたようなパンクチューンや荘厳なピアノバラードなど様々なジャンルを取り込みつつも、内に青い炎を秘めたオルタナティブロックというイメージがアルバム全体に行き渡っている。

3. Japanese Breakfast 「Jubilee」

COUNTRY : US
RELEASE DATE : 2021.06.04
GENRE : INDIE POP, CHAMBER POP, SYNTHPOP

ミシェル・ザウナーのソロプロジェクトの4年ぶりとなる3rdアルバム。最愛の母の死と向き合った前2作を経て、祝祭を意味するタイトルを掲げた今作は、喪失を乗り越えた先で幸福を探究していく道のりを描いた色彩豊かな1枚となった。従来のインディポップやドリームポップの落ち着いた質感を下敷きにしつつ、80s風味の煌びやかなシンセポップやストリングス、サックスを織り交ぜたアレンジでとても優雅な仕上がりに。時には自由奔放で、時には耳元でささやくように、奥行きとリズムを自在に操るボーカルも素晴らしい。緩急と陰影をつけながら、ポップ・キャッチー・ダンサブルの三拍子をハイレベルで実現させたアルバム。

2. Tempalay 「ゴーストアルバム」

COUNTRY : JAPAN
RELEASE DATE : 2021.03.24
GENRE : NEO-PSYCHEDELIA

3人組サイケデリックロックバンドのメジャー初作となる4thアルバム。前作と比べると近未来的な要素が後退し、一枚通してオリエンタルな響きと日本昔ばなし的なおどろおどろしさが漂う。2020年を"生きているのか死んでいるのか分からなかった1年"と捉え、アルバムタイトルの幽霊をモチーフに生と死、都会と地方、デジタルと自然、シリアスとコミカルといった境界線を揺らめきながらサイケデリックロックの渦に飲み込む。ディストピアの中を盆踊りで進んでいくように、最後の「大東京万博」へ向かっていく流れがとても良い。パンテミック下でオリンピックが開催されたこの1年の雰囲気をクリティカルに描写した1枚。個人的には11世紀の中国の画家郭煕が詠んだ詩を引用した「春山淡冶にして笑うが如く」と「冬山惨淡として睡るが如し」の2曲のメッセージに強く胸を打たれた。

1. NOT WONK 「dimen」

COUNTRY : JAPAN
RELEASE DATE : 2021.01.27
GENRE : ALTERNATIVE ROCK, ART ROCK

北海道苫小牧市に拠点を置く3人組バンドの4thアルバム。一つひとつの音の輪郭やその広がり方が独特過ぎる音響に驚き、ジャズやソウル、ドラムンベースなど様々なジャンルを自由にクロスオーバーしていく楽曲に更に驚く。デビュー当初の3ピースのパンクバンドという枠はどこかへ吹っ飛んで行ってしまったのだが、その自由なインスピレーションのコアの部分には現代のパンクスピリットのようなものが宿っているように思えるし、そういうバンドならではのロマンが随所に滲み出ている。今作の発端になったのはアルバムの最後を飾る楽曲「your name」とその名を冠した地元苫小牧でのライブイベントで、飛躍したサウンド面とは逆にメッセージ面においては名前を呼び合うような身近な関係性に再度向き合った内容になっている。成人した男性というだけで何かしらの差別や加害性に加担してしまっているのではないかというボーカル加藤修平の問いかけ。自らを取り巻く環境が持ちうる排他性や邪悪さにも向き合いながらロックバンド像を更新していく姿勢に共感した。渋谷で行われた今作の再現ライブではメンバー直筆の手紙や参加者の名前を印字したハンカチをライブチケット代わりに用いるなど、アーティストとライブを介して血の通った関係を再び取り戻す2021年において、最も態度と行動で示してくれたロックバンドだった。

ベストアルバムを選んでみて

ライブ市場がほとんどストップしてしまった昨年から徐々にライブに行けるようになった1年ということで、個人的には特に夏以降からはライブでしか味わえない身体的な躍動感・解放感だったり、自分にとっての音楽体験のピュアな部分に立ち返るという意味でロックへの欲求が強まった1年でした。国内外の音楽シーンの流行を見ても同じようなムードを共有していた気がするし、自分の中ではこの1年間が反映されたベストになったかなと思っています。

また、2021年はオルタナティブロックの名盤が周年アニバーサリーで立て続けに盛り上がったこともあり、過去の素晴らしい作品に触れる機会も昨年以上に増えました。気に入った新譜をきっかけにその作品のジャンルの歴史や影響源などを意識しながら他の作品を聴くことで、新譜を追うだけに留まらず体系的に色んな音楽を楽しめるようになったかなと。

音楽に限らず好きなカルチャーについてを語る場所が増えては減ったり、時には物議を巻き起こしたりしますが、文章にせよ動画にせよSNSにせよ、それぞれの形式に役割があって補完し合うのが理想的だし、1人ひとりの作品に触れた時の率直な感情に勝るものは無いんじゃないかと個人的には思います。自分自身も2021年はポッドキャストやライブ配信もやってみてそれぞれの良さを実感したので、来年もその時々に合ったスタイルで色んなジャンルの音楽を風通しよくカジュアルに語っていきたいです。


最後に、今回選出した30枚から楽曲をセレクトしたプレイリストを掲載しておきます。2022年も素敵な音楽ライフを!!


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