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「お持ちではないですか」のセンスの良さよ

ポイントカードはあるか、駐車券を持っているか、有料レジ袋は必要か………

有人レジで買い物をする時は必ず、色々なことを店員さんから質問され、それに逐一答える。日常的な光景だろう。そんな日常の中で、ひとつ考えたことがある。
例えば、自分がポイントカードを持っていなかったとして、「ポイントカードはお持ちですか」と聞かれるのと、「ポイントカードはお持ちではない(なかった)ですか」と聞かれるのでは返し方が異なる。
お持ちですか、と聞かれれば、「ありません」「持っていません」「ないです」「いいえ」などと答えることになると思う。私の返答レパートリーはこれしかないが、他に思いつく方もいらっしゃるかもしれない。このうちで、「いいえ」は母音ばかりで聞き取りにくい言葉なので、あまりはっきり話さない私は基本的に使わない。そうなると残るのは、明確な否定表現である。
「ないです」「ありません」あたりをよく使う。

一方、お持ちではなかったですか、と聞かれれば、「はい」と答える。丁寧語を使う返答として、それ以外に選択肢がない。「ええ」と、そんな優雅な返答ができる人生のキャリアを私はもちあわせていないが、この答え方もアリだ。いつかそういう風情のオトナになりたいわ、ワタシ。


自分の発する言葉を肯定文にするか否定文にするか。それだけのことが、自分の気分に多かれ少なかれ影響を与える。もちろん、基本的には肯定文にしたほうが気分が上がるだろう。

だから、駐車券など必要なさそうな私(当時高校生)に「駐車券はお持ちですか」と聞かず「駐車券はよろしかったですか」と尋ねてくれ、私に肯定文「はい」を言わせてくれた店員さんに出会ったとき、その心遣いに私は感じ入ってしまった。

「ない」と言うと、無い事実に何かの欠落を見てとる気がする。「ありません」と言うと、「せん」で言葉をふつっと断ち切っている感じがする。だが、「はい」を言うときは、腹から息を噴き出して、言い終わりに口角が上がる。それがどことなく、気持ちを前に進める気がする。心地いい。
店員さんはそんなことまで考えていたか知らない。しかし、素敵なセンスだなあと思った。自分の人生にほんの少しの間だけ触れた誰かに心地よさを感じさせる、そんな人に憧れている。



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