発達障がいのお子さんにおすすめしたい水泳。自分のペースを大切にでき、自己肯定感もアップ!
水泳は、発達障がいのあるお子さんにとって、単なるスポーツ以上の可能性を秘めています。自己肯定感の向上、生涯にわたる健康維持、そして何より、水と触れ合う喜びを通じて、お子さんの潜在能力を引き出すチャンスがあるのです。
ただ、全国に数多くあるスイミングスクールのうち、発達障がいのあるお子さんを受け入れているところは驚くほど少ないのが現状です。「個人レッスンをしてもらえないか」という切実な声を、ぼくたちは日々耳にしています。
なぜ、このような状況が生まれているのでしょうか?そして、どうすれば改善できるのでしょうか?
今回は、6年間にわたる発達障がい児への水泳指導の経験と、スポーツ庁のプロジェクトで得た知見を基に、水泳が発達障がいのあるお子さんにもたらすメリットと、その指導方法について詳しくご紹介します。
1. なぜ、発達障がい児に水泳指導を始めたのか?
東京スイミーSS(水泳個人レッスン)を始めて6年が経ちました。この間、多くの子どもたちと接してきましたが、その中でも心に残っているのは発達障がいのあるお子さんとその保護者の方々との出会いです。
「教えてもらえる場所がないんです」
「集団レッスンが受けられないんです」
「指導者の理解がないので心配なんです」
これらの切実な声は、ぼくの心に深く刻まれました。
多くの保護者の方々が、お子さんに適した水泳教室を見つけることに苦心されていたのです。この現状を目の当たりにし、何かできることはないかと考えたのが、発達障がい児への水泳指導を始めるきっかけとなりました。
水泳指導を続ける中で、水泳が発達障がいのあるお子さんにもたらす効果に気づき始めました。自己肯定感の向上、身体機能の発達など、水泳は単なる運動以上の可能性を秘めていたのです。小さな目標を達成していく過程で自信をつけていく姿を目の当たりにしました。
この経験を踏まえ、スポーツ庁「Sport in lifeプロジェクト」で「発達障害児向けの水泳教室」を開催しました。教室の評判は予想以上に良く「水が好きになった」「意欲が高まった」などの嬉しい声が多く寄せられました。さらに、日本初のクラウドファンディングによる「発達障がい児の水泳教室」を合計8日間、全32回にわたって開催することもできました。
【スポーツ庁】マンツーマン指導で発達障害児に水泳と教育の場を提供
【クラウドファンディング】「発達障害児の水泳教室」を開催し、未来の国際アスリートを輩出したい
2. 発達障がいのあるお子さんの習い事に「水泳」をおすすめする理由
発達障害というのは、脳の発達に関する障害の総称で、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などが含まれています。これらの障害は、コミュニケーションや社会性、行動、学習などの面で困難を抱えていることが特徴です。発達障害を持っているお子さんは約6~8%と言われており、決して珍しいものではないのです。でも、その特性や支援方法については、あまり理解されてないと言えます。
ぼくが発達障がい児に水泳が良いのではと考える理由は3つあります。
① 自己肯定感が高まるから
水泳には、泳ぎ方や距離、タイムなど目標設定しやすい指標がたくさんあります。スモールステップで目標設定ができるので、成功体験を積みやすくなります。
発達障がい児は、学習や運動、コミュニケーションという点で困難を感じることが多いので、自信を持ちにくい傾向にあります。でも、水泳なら個人のペースで上達していけるので、自分の成長を実感することができるのです。このような経験は自己肯定感の育成につながります。Eversole et al.(2016)の研究でも、自閉症児に対する水泳プログラムが、自己概念や自尊心の向上に寄与したという報告があります。
② 水泳は「一生涯」つきあえるから
自転車と同じで、一度泳げるようになると泳ぎ方を忘れることはありません。大きくなっても高齢になっても、一生涯楽しめるのが水泳です。障がいのある方は球技や集団スポーツに参加しにくいのが現状です。水泳ならば個人でプールに行って、気軽に運動やレクリエーションできるところが魅力です。
③ 水に入るだけで「楽しく」「運動になる」から
子どもの多くはプールや水が大好きです。これは発達障がい児も例外ではありません。
Swimmyが主宰する発達障がい児のための水泳教室「ONE TENTHスイミングスクール」で多くの子に水泳を教えてきた経験から言うと、ほとんどの子がプールの中で好奇心旺盛に動き回ります。プールにいるだけで、陸上よりも運動量が増加するため、体力アップにもつながります。泳げなくても、プールに入るだけで不安やストレス解消、リフレッシュにもなります。
3. 個人レッスンと集団レッスンのどちらがいい?
手前みそではありますが、やはり個人レッスンは、それぞれのペースや特性に合わせたきめ細かな指導ができるところが最大のメリットです。発達障がい児はそれぞれ得意なこと、不得意なことが違いますが、個人レッスンではその個々の特性を考慮しながら、子どものペースに合わせて無理なく指導できるからです。その日の体調や気分に合わせて指導内容を柔軟に調整することもできるので、自分に合った方法でストレスなく水泳を学ぶことができます。
集団レッスンのメリットは他の子どもたちとの交流を通じて、社会性やコミュニケーション能力を育むことができることです。レッスン中のルールを守ったり、順番を待ったりすることで、社会性の基礎も身につけることができます。
どちらを選ぶにしても指導経験豊富な講師陣と安全面に配慮した環境が整ったスクールを選びたいところです。特に、安全面でのリスクが高いことを考えて、事故防止に細心の注意を払える体制が整っているところをおすすめします。
4. 発達障がい児への指導は難しくない!
多くのスイミングスクールで発達障がい児クラスがなかったり、受け入れなかったりするのは、発達障害の特性を知らないからだと思います。もちろん指導者の数が足りない、カリキュラムがないなど他の理由もあるかもしれませんが、基本的には「子ども一人ひとりに寄り添う」という姿勢でいればいいと思います。特にマンツーマンだと健常児でも発達障がい児でも、性格や気持ちに合わせて理解してあげようというスタンスで対話するのは、何ら変わりません。
ただ、注意しておく点はいくつかあります。
① 安全面に配慮する
発達障がい児は、危険への認識が不十分ということもあるので、突然、プールサイドを走りだす、飛び込むなどの衝動的な行動をとることがあります。事前に約束事を設定し、緊急時にも対応できるスタッフをおくなどの体制づくりが必要です。
② 特性を知っておく
発達障害と一口にいっても、まったく特性が違います。たとえば同じ自閉症でも、水の反射が苦手な子、反響音が苦手な子、目を合わせせるのが嫌な子など様々です。また、学習スタイルも、視覚的な情報を好む子、言葉での説明の方が伝わりやすい子など様々なので、無理なく、楽しく学べる環境づくりを心がけたいものです。
③ 保護者とのコミュニケーション
一人一人の特性を知っておくことにも関わってきますが、日常生活の様子や興味、苦手なことなどを聞き取っておくとより効果的です。それから、その日のプールに来る前の様子を聞くことも非常に大切です。さらに、レッスンで学んだことを家庭でも実践してもらうと、心身の成長にもつながります。
④ 身体機能の成長を理解しておく
体への認識やイメージが十分に育っていない場合が多いため、無理に指先や膝、肘などの関節を動かすことがないよう気を付ける必要があります。特に水泳はひじを伸ばす、ひざを伸ばすという動きを求められることがありますが、体の特性を知り、配慮して指導にあたる必要があります。人との距離感が近すぎたり、逆に遠すぎたりするのも体への認識がうまく行っていないことが影響しています。
⑤ 心理的不安を取りのぞき、安心感を与える
発達障がいのあるお子さんは、初めてのコトやヒト、モノに関してとても敏感で、過度に不安に感じたり、緊張してしまったりすることがあります。また、急な予定変更や先の見通しを立てることが苦手なため、予定通りにいかないこともある、別の選択肢もあることを、あらかじめ伝えてあげる必要があります。感情のコントロールが苦手な子も多いので、注意するときの声掛けの仕方を工夫したり、感情が高ぶった時の対処法を伝えたりすることが必要です。
⑥ スモールステップで進める
カリキュラム通りにレッスンが進まないことが多いです。大きな目標を立てると達成に時間がかかることも多いため、小さな目標を立てて、少しずつクリアすると、子どもたちも達成感を覚えるでしょう。例えば、「25m泳ぐ」じゃなく「5m浮く」から始める。「腕を伸ばして」が難しければ、まず「手を前に出す」から。スモールステップで、きっと楽しい水泳指導ができますよ!
このように、水泳に限らず、他のスポーツでも、特性を理解すれば、一人ひとりと向き合う点では指導に大きな違いはありません。こういった取り組みがもっともっと全国に拡がるよう、いろいろなプロジェクトを進めていきたいと考えています。
発達障がいのある子ども達への水泳指導について、ご質問やご相談がありましたら、ぜひお気軽にご連絡ください。
ぼくたちの知識と経験を活かし、できる限りサポートいたします。
一緒に、子ども達が水泳を学べる環境を広げていきましょう。
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