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#1『名もなき人たちのテーブル』マイケル・オンダーチェ

今年の春に買った本がある。
1943年スリランカ生まれの小説家、マイケル・オンダーチェの著書『名もなきひとたちのテーブル(cat's table)』だ。
この本は、第一回日本翻訳大賞を取った作品だ。

11歳の少年マイケルが故国スリランカからイギリスへ向かう3週間の船旅の冒険譚である。物語はこんな一文から始まる

『その夜、彼は11歳で、世間のことなど何も知らぬまま、人生で最初にして唯一の船に乗りこんだのだった。まるで海岸に新たに都市が作られ、どんな町や村よりも明るく照らされているような感じがした。』

夜に乗り込む大きな客船。闇夜に浮かぶ船の灯りや人々のざわめき。皆が別れを惜しむ中、彼はその一歩を踏み出したのだった。不安を憶えながらもドキドキ高鳴る好奇心が抑えられない子供時代を彷彿とさせる場面だ。

そして物語はその船で起こる3週間に記録を断片的に集めたものになっていく、短くも長いそのたびは、彼らの人生を、大きく変えるものだった。

明け方にオーストラリアの少女が滑るローラースケート、甲板にシーツのスクリーンを張って観る映画上映会、深夜に散歩を許される囚人、食事会が行われた船の底の植物園、嵐の中の度胸試し、夜のスエズ運河で働く大人たち......どれもが少年たちの目を通して語られていく。

本の原題は『cat's table』だが、これは船の中でいちばん歓迎されていないお客が着くテーブル、末席のことを指すのだそう。彼らの物語はこのテーブルに座る人々から始まっていく。

私がこの本に惹かれた理由は、実は一目惚れだ。
装丁の真っ青な色と、真ん中に静かにたたずむ大型船のシルエット。
これがなんとも惹かれるものがあった。
私は半年くらいどこか本屋に行く度にこの本を探したが、なかなか取り扱っていなかった。通販すればすぐに届くのだが、私は実際に手に取ってみたかったのだ。

そしてある日都内の大型書店で、
最後の一つであったこの本に出会ったのだった。

梅雨に入り、家に居る時間が長くなるこの季節におすすめの一冊です。

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