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短編:【それでも痩せたい現代人へ】

『イクササイズ』が流行っている、と朝の情報番組で伝えていた。

『イクササイズ』は漢字で書くと一目瞭然『戦サイズ』である。戦いで痩せるという新しい発想のエクササイズ。

戦になれば、刀や槍を振り回し、弓を引き盾を持って動き回る。相手を倒す体力と持久力、そしてそれに対応できる筋力と忍耐力が求められた。
戦になれば、秤量責めや山道での潜伏など食事が出来ないという、ダイエットにとっては自然と最適な状況になる。

その『イクササイズ』を提唱したのは、とある国内大手の家電メーカー。そこが独自開発したタイムトラベラー製品で、過去のある地点にのみ、行き来を可能とした。そここそが、戦国時代であった。

「はい技術担当者によれば、岐阜城に織田信長公がいらした時代ではないかと・・・」

『イクササイズ』のルールはただひとつ。マシンに入る時はTシャツと短パン。そして一切の手荷物を持ち込まないこと。もちろん、ナイフや拳銃、薬品なども御法度だった。身体ひとつ装置に入り、どんなことがあっても一週間後の同じ時間、向こうの時代にある機械に必ず入ると言うもの。

「現地には弊社社員が常駐しており、本人確認が出来るタグの付いた、町民衣装に着替えて頂きます。ただ生き抜くというシンプルなプログラム、現代のしがらみから全て開放される一週間。ある意味“生き抜くことが息抜き”にもなります。あとはその時代を精一杯満喫して戻って来てもらいます…」

効果てきめんで、誰でも確実に10キロは痩せる。『イクササイズ』は初回痩せる目的で、二回目以降は精神力や筋力をつけたいと考える志願者が多かった。参加者の中には、若干、精神面に支障をきさすケースもあったようだが、強いチカラで揉み消され、不確実で根拠のない情報はテレビでは報道されなかった。さらには“殿のために戻らねば!”と参戦するツワモノも現れ、大半は四回目の旅で現代に戻ってこなくなっていた。

“生き抜くことの息抜き”
降って湧いたような夢のダイエット、イクササイズ。
『必ず痩せる!』そんな目を惹く点ばかり報道された。
メーカーでは開発に予算を費やしたため、広告にまで手が回らなかったのだが、メディアが煽ったおかげで客足は伸び続けた。

三年後。街中で刃物を使う殺傷事件が横行。取り押さえられた大半が、イクササイズ体験者で、中には機敏で跳躍能力に長けた者も多く、逃走や脱獄も後を絶たなかった。しかし政府としても、関連性がハッキリしないと、曖昧な対応のまま半年が過ぎた。その頃からネットを中心に謎の噂情報が出回った。現代に戻って来る人間は『イクササイズ』で戦国時代に行った現代人ではなく、入れ替わった戦国武将ではないか、というもの。

それも確証が得られなかった。誰もがその話題を避け始めた頃、家電メーカーのトップが変わり、社員が一新された。いつしか社長を『殿』と呼ぶようになった。だが、警察も手を出せない。違法性も見出せない。企業は大量のタイムマシンを作成し、どんどん社員数を増やして行った。

それはまるで、現代とイクサをするがごとく。

     「つづく」 作:スエナガ

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