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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!短い物語のなかに、きっと共感できる主人公がいるはず…誰かひとりに届くお話。自分と同じ主人公を見つけて頂け…
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#物語

短編:【花の教え】

「最近の桜って花びら白いよね…」 彼女はそういう敏感な感性を持っていた。 「白い?」 僕には、桜の花びらがピンクに見えていた。いや、そう思い込んでいたのかも知れない。周りを見渡すと、至るところで花吹雪が舞っている。 僕には20年間、彼女がいない。奥手というか、人付き合いが苦手というか。大学に進み、同じゼミを専攻した彼女と出会った。 「もちろん品種によっても違うだろうけど…昔の花吹雪ってもっとピンク色だったと思わない?」 「ああ、そう…かもね…」 話を合わせてみる。 「自

短編:【それでも痩せたい現代人へ】

『イクササイズ』が流行っている、と朝の情報番組で伝えていた。 『イクササイズ』は漢字で書くと一目瞭然『戦サイズ』である。戦いで痩せるという新しい発想のエクササイズ。 戦になれば、刀や槍を振り回し、弓を引き盾を持って動き回る。相手を倒す体力と持久力、そしてそれに対応できる筋力と忍耐力が求められた。 戦になれば、秤量責めや山道での潜伏など食事が出来ないという、ダイエットにとっては自然と最適な状況になる。 その『イクササイズ』を提唱したのは、とある国内大手の家電メーカー。そこ

短編:【そこで生きる命の正論】

■インタビュー・公園に住んでいるハトおじさん 『エサをやるのは、自分より弱い生き物が生きられるように、自分の食べ残りを少しだけ分けているだけだよ…』 公園で生き物への餌付けは禁止されている。 取材カメラが捉えたのは、おじさんが公園入口の立て看板の裏でこっそりと、コンビニ袋に入ったパンの耳や粉のカスを撒いている姿だった。 『公園内じゃないし、誰にも迷惑かけてない』 周辺マンションのベランダでは、鳥のフン被害が多発していた。 『みんな元気に生きて欲しい!』 自分の食

短編:【大きな地震雲が見えた日に】

台風が来て、雷雨があって、次は地震の番かと思えた。 かつての戦隊ヒーローを見ていると子供心に違和感があった。悪の親玉が「かかれ!」と言うと、俗に戦闘員と呼ばれるエキストラが、順番に襲いかかる。ヒーローは一人ずつ倒して行く。「ええ〜い、まとめてかかれ!」の号令で、キレイな円で上から攻める。下に潜ったヒーローが真ん中からドーンと蹴散らす。 時代劇だってそうだ。ひとりずつ斬りかかる。 なのに災害は違う。 「自然が相手だから…」 台風と雷雨は一緒に来るし、台風と共に地震が起こ

短編:【ハッピーエンドが待っている】

「ちょっとそこのオジサン!」 目の前のデスクから声。 「…ねえ!センセー!」 「いまオジサンって…呼ばなかった?」 原稿を描いている男性漫画家。 「…アレですよ、学校の先生をオカアサンって呼んじゃう、アレ。…そんだけ心を許しているってことじゃないですか!」 いつものように受け流す。 「はいはい…」 私が描くキャラクターが話し掛けてくる。 「それよりセンセー、このストーリー、このまま進んで大丈夫?」 「なんで?」 「いや、なんかバッドエンドのフラグが立ってるし…」 主役級の彼

短編:【感情ディフューザー】

完璧な人間がいないように、生きる意味の無い人間もまたいない。無表情で感情を表に出さない人もいれば、感情を振り撒き散らして、周囲を巻き込む人間もいる。 そんな感情を拡散する、ディフューザーのような男の話。 「やっぱりオレって生きる価値無いんだよ…」 「お!出た!ヒロシのネガティブモード!」 週末深夜の居酒屋。男3人で飲んでいる。 スーツ姿のヒロシ、上着を脱いでワイシャツ腕まくりスタイルのタケル、カジュアルのケンタ。大学時代の腐れ縁である。周りが泥酔状態で支離滅裂な話をして

短編:【ハチミツ禁止令】

『生物愛護の観点から、本年10月1日より本国ではハチミツを全面的に禁止する方向で調整に…』 テレビから流れる大臣の発表。 『具体的には、食べない、取らない、持ち込まない…』 「“生物愛護の観点”って、“蜂さんが可哀想”…ってことだよね…」 テレビを見ながら姉が呟く。 「…動物愛護がさらに加速したんじゃない?」 スマホをいじりながら弟が応える。 「確かに蜂が懸命に集めた蜜を、ガサッと奪うんだもんね」 「…養蜂って、そういうものだからね…」 「ハチミツってちょっとした贅沢品だ

短編:【カギのある公園】

入口に湧き水が溢れ出る、ちょっと変わった、憩いの公園だった。 たぶん、これはレンタル部屋のカギ。何故ならしっかりとした、ディンプルシリンダーのカギである。ちゃんとしたマンションの部屋などで使われるタイプ。 私の推測はこうだ。外国人向けのレンタル民泊。公園のわかりやすいところにカギを常設。アクセスして来たところで宿泊希望の方に、この場所の地図を送り、自身でカギをピックアップ。宿泊後は、再びこの場所に同じように戻してもらう。ピンシリンダー錠のような安価なものではなく、街場のカ

短編:【テレビ、救ってみない?】

「そもそもテレビってどう思う?」 会議室にいる8人の面々。 「たくさんの人が観てますよね…」 「良くも悪くも視聴者が多い印象です」 「マス・メディアだからね。他には?」 テレビ局、来期の番組編成会議。 「パソコンなどが使えなくても、スイッチひとつ、誰でもすぐ観られる」 「そう、その番組テーマに興味関心あるなし関係なく、ただ点けてボーッと眺めている人も結構いますよね…」 「いつも点けているから、曜日を知らせるカレンダーや、時間を教える時計程度に考えている人もいるでしょうね…」

短編:【スナイパーがいる】

今朝気がついた。私、スナイパーに狙われている。ひとりならまだしも、家から駅まで、たかだか直線で150m程度、一回曲がるだけの駅チカ物件の間に、ザッと3人。いや、私が見つけられなかっただけで、それ以上いたのかも知れない。 間違いない。高いマンションの上、非常階段。道の隙間。 スナイパーの目的は…私の殺害? …狙われる覚えは …強いて言うなら… 合同コンパがあった。もとい。異業種交流会が行われた。二週間前の週末。二年ぶり四回目の出場。先方は証券会社で営業職の方を中心に、その

短編:【異空間からエール】

「あれ?いま花火の音聞こえた?」 放課後、教室の掃除をしていたマコトが、モップを握って言う。 「打ち上げ花火?」 「雷なんじゃない?ヤダ〜傘持って来てない〜」 女子高生仲良し三人組の、カオルとユミが話に加わる。 「でもさ、打ち上げ花火が禁止になって、どんな音だったか忘れた…」 ゴミ箱を持ったカオリが窓の外を見て言う。 いまこの国では、打ち上げ花火が上がらない。 「たぶん幼稚園入る前だわ、最後に本物見たの…」 15年前。とある地方都市で開催された最大級の花火大会。 「あの日、

短編:【この印籠が?】

「じーちゃん!じーちゃん!」 メガネを鼻にかけ、新聞を読んでいたじいちゃんは、玄関先から聞こえる孫の声に微笑む。 「おう、ケイちゃん!よく来た!ひとりで来たんかぁ?」 祖父の声がする居間に、孫息子のケイちゃんが飛び込んで来る。 「学校終わってすぐ来た!そこだし!」 この春、入学した孫は、小学校と娘夫婦が暮らすマンションを結んだ通学路のちょうど中間を、少し逸れたこの祖父の家に寄り道しながら帰宅している。 「ママにじいちゃんの家に寄って帰るとメールしたか?」 急いでお菓子とジ

短編:【夏は鰻と、】

金がない。まったくない。いやウソだ。ポケットには374円ある。 「あちぃ〜」 なんて猛暑。いや酷暑。真夏日。記録的暑さ。殺人的な夏の日差し。どんな言葉に変換しても同じだ。 「あちぃ〜ょ〜」 暑いだけで涙が出る夏は、人生で始めてだ。いやウソだ。去年も、その前の夏も、たぶん10年に一度の異常な暑さだった。 公園の水飲み場で蛇口をひねる。チョロチョロと申し訳程度に水が出る。 「…節水制限」 脳裏に現れる四文字。そうですか。そうですよね。税金もまともに払っていない人間には、こういう

短編:【タイムトラベル】

「長く生きていると気づくことがあるんです」 ゆっくり語る男性。 「アナタ方の世代にも理解しやすいように話します。例えば、ブログなどをやられている方はいらっしゃいますか?」 セミナーを聞いている数名が挙手する。 「なかでも5年10年と、…長く続けている方?」 先程よりグッと減り数名が手をあげる。 「実はそのブログというメディアは、ある一種の『タイムトラベル装置』なんです…どうでしょう…そう感じたことはありませんか?」 セミナーの若者は真剣に聞いている。 「…まず何年も何