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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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2023年10月の記事一覧

短編:【ストレス大国の行末】

いい歳をした男性が、上司だろうか、低い声の女性からの電話をスピーカーにして会話をしていた。スマホ全盛のいま、スピーカーを使うのはよく見かける光景となったが、場所や周囲の環境を配慮すべきである。そこは地下鉄に向かう下り階段。のんびり歩きながら喋っている。女性の声のトーンが明らかに、仕事の失敗に対してアドバイスをするような、こうしたら良い、ああすれば良かった、と言う内容を語っている。 いや、そんな内容をスピーカーで?と思いつつ、男性は「ああ」「はい」しか喋らない。昔ならば少なくと

短編:【お散歩パントマイム】

そのオジサンは巨大な犬に翻弄されていた。 土曜の昼間、公園で大きな犬を連れていたのだが、明らかに犬に散歩させられている中年男性。でっぷりとしたお腹を揺らしながら、サンタクロースがソリを引くトナカイの後ろで風に吹かれるような距離感で、ノッシノッシと歩いていた。 しばらくして人影のすくない建物の裏に。暑い日差しが和らぐのを感じたのか大きな犬はお腹を地面に着けるようにして座り込んでしまった。汗だくになっていたオジサンも、汗を拭きながら、水分補給をしている。お散歩仲間の小さな犬も

短編:【真世界食会議】

莫大な資産を持つ一部の者たちによって新たな組織が作られた。その大義は世界的に深刻化する食料難の解消だった。 「“真世界食会議”って組織がさ…」 「ああ資産家が金を出して作った食料危機回避の研究をしてる秘密結社?」 「それがとんでもないことをやっているようなんだ」 「とんでもないこと?」 取材帰りの雑誌記者がカメラを下に置き、居酒屋で酒を呑んでいる。酔いも回り、取材中の情報を頭の中で整理している。 「真世界・食会議。表向きは次の時代の食文化をクリエイトする組織だな。超一流の料

短編:【待てと言われた男】

神は乗り越えられない試練を与えない。 …と言われるが、待つ、というのもまた、そんな試練のひとつ。 「お返事…もう少しだけ待って頂けますか?」 喫茶店。向かい合う男女。女は下を向いて言葉を紡ぐ。 「あ、もちろんですよ!全然まだまだ…」 慌ててアイスコーヒーのストローを口にしようとして、クルンと回ってハハハと笑っている男。 「まだ…待っていますので…良い返事、待ってますので…」 「すみません…」 男は待つことに慣れていた。目の前の彼女は毎回待ち合わせから30分程遅れて来る。最初