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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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2023年7月の記事一覧

短編:【3号棟のその先で】

「スミマセン、この住所の所に行きたいのですが…」 夏の暑い日、必要以上に叫び鳴くセミの声。小さなハンドタオルで汗を拭いながら、白い半袖のYシャツを来た女性が声をかけて来る。 「ここの住所で間違いないようだけど…4号棟って…」 たまたま2号棟の前でバケツで打ち水をしていたシニア女性が答える。 「やっぱり、3号棟の先って、5号棟…ですよね」 「う〜ん、ウチはもう50年、ここの2号棟に住んでいますけど、4号棟は…」 「そうですよね…いやウチの父も転勤が多くて、私も昔、しばらくこんな

【巨大な亀が住む川】

その雄大で広くのんびりした大河には、大きな生き物がいるらしい。らしいと書くのには、目撃者が多い割に、証拠となる写真や動画がなかなか出てこない都市伝説のような話だからだ。 近くには江戸時代の浮世絵の類や美術品も多く展示されており、昔書かれたその川の絵には実は黒く大きな生命の影らしき姿もよく描かれている。 「巨大な亀!?」 「し!大声出すなよ!」 中学校の昼休み、男子ふたりが話をしている。 「兄ちゃんが見たんだって、昨日の夜」 「あの川で?…巨大って…こんぐらい?」 両手を肩

短編:【ネコクサ】

彼女は喜んでその草を頬張り食す。 そしてものの3分で口から吐き出す。 その猫はすっかり老猫なのだが、食欲は落ちていない。若干カリカリは消化しきれないようで、その草と一緒に口からリバースすることが多くなった。だからいま私は少し贅沢なのだが、ナマのモノを主食に増やしてあげて、カリカリは少しだけ水に浸して器に入れている。 猫にとって、この猫草は食事ではないようで、飼い主の私から見たら仕事後に飲む缶ビールのような嗜好品の一種のように感じている。だとしても、私ならせっかく呑んだビー

短編:【ここからは情報戦】

入社3年目で営業部のリーダーをしている清野さんが辞めるらしいという噂が、昼休み明けからポツリポツリと聞こえてきた。職場を去る場合、1ヵ月前までに上長に伝えるのが世の中のルールであり、退職する場合はその前迄に移る職場を秘密裏に探しておく必要がある。少なくとも彼は3ヵ月、長くとも半年前には退職を決めていたのであろう。それはまるで隠密やスパイのようにバレてはいけない内緒の動きである。 昼休み後に噂が出るのは、会社という組織の特徴で、昼休みにその情報を手にした誰かが、ご飯を食べなが

短編:【カベに耳アリ 障子にミザリー】#02(思わず2度見)

御存知ミザリーさんが、見たこと聞いたこと、ありもしない妄想や暴露を好き勝手に拡散するという、至極迷惑で誠に遺憾な諺では御座いますが。街を歩いていると「え!ここで?」と2度見をしてしまう。そんな瞬間ありますよね。 今年はウイルス騒動も一段落。大きな花火大会も復活ですね。そんな平和な川沿いで。 マジですか!昔はよくいましたよね。私、人生で3回生で見ています。大都会の住宅街で、道路をニョロニョロと横断している姿も拝見しています。しかし、花火大会の観客の皆さん、こんな張り紙がペロ

短編:【ムショクトウメイ】

「仕方ないじゃないか、辛気臭いね〜」 「いやでもさ〜」 「デモもテロもないさ、会社の方針だろ?」 「このタイミングで無職なんて…ここにも呑みに来れなくなるよ…」 私には嬉しいこと、悔しいこと、とにかくお酒が呑みたくなると訪れるスナックがあって、そこの人間味あふれるママさんに、なんだかんだと喋っているうちに気持ちも軽くなったものだった。 「あれですよ、もしいま犯罪を犯して逮捕されてニュースになった時に、目つきの悪い瞬間でストップされて“無職の”ダレソレって書かれるヤツですよ…

【なんて素敵なディスプレイ】#02

すべてのモノにドラマがある。 「どうです?こちらの写真」 「公衆電話ですか。近頃メッキリ減りましたね」 「電話ボックスに、素晴らしい商品ディスプレイがございます!」 「商品、ディスプレイ…ですか?」 「日本酒の紙パックです」 「有名な、どこのコンビニでも見かけるモノですね。でもこれゴミですよね?」 「良く見てください!ワンカップでは無いんです!紙パックなんです!コレをこの場所で開けて飲んで飲み切っている…そこにドラマが見えませんか?」 「ドラマ…ですか?」 「コレをここに

短編:【橋の下でアナタと】

「昔ってさ、“お前は橋の下で拾って来たんだぞ!”とか言って、子供を“しつけ”てたんだって」 「ナニソレ?赤ちゃんはコウノトリが運んで来るなみの都市伝説?」 「都市伝説というか、言う事聞かない子はウチの子じゃない!ってことでしょ?」 「え〜でもさ、そんなこと言われたら精神的な虐待だし、超トラウマ植え付けちゃうんじゃない!?昭和コワ!」 ファストフードのカウンター席に横座りの高校生カップルの会話としては、随分と風変わりなテーマである。昭和という時代は、善くも悪くも色々と面白い時