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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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2023年5月の記事一覧

短編:【びわの木に纏わる云い伝え】

その河川敷の堤防に近い場所に、びわの実がたわわになっていた。不思議なもので、人が手を伸ばせばもぎ取れる高さの実は見事になくなっていて、たぶん誰かが採って食したのであろう。 こういった木になる実というのは、誰のモノなのだろう。と、ぼんやり見ていたらば、小学生3〜4年だろうか、少年が木の上に登っていた。 「お母さん!これくらいならイイ?」 「その上の方にも良くなっている所があるじゃない!」 「これ?」 少年だけではなく、その母親も木の下で指示をしつつ参加しており、自然の季節の味

【なれとります】#04「日々是勉強」

「今回はですね、男性、女性の掛け合いとなります」 「掛け合い…」 「あ、もちろん女性ナレーターさんもお呼びしてあります」 ナレーターというは摩訶不思議な仕事である。ただ紙に書かれた言葉を音にするだけではなく、時には声だけでお芝居をしたり、書かれた言葉をメロディーにして歌い上げたり、その1枚のナレ原からは想像できない多くの可能性を秘めているという、普通の感覚では理解しがたい職業だと思う。 「アハ…ですよね。いや、たまに声色変えてのひとり芝居なんてありますから、つい」 「ですよね

短編:【策士策に溺れる】

「ヒロくん、お夕飯何食べたい?」 「ハンバーグ!」 「ハンバーグかぁ…」 息子にヘルメットを着用し、自転車の後ろに座らせる。幼稚園に迎えに行った帰り道。まっすぐ前を見て家路を急ぐ母親の顔に笑顔は無い。ペダルを漕ぐ足取りも重く、早く電動アシストが欲しいと思いつつ、先にヘルメットを買わなくてはと心の片隅では考えていた。 「お肉が食べたいのかなぁ」 「お肉が食べたいけど、ママのハンバーグが食べたい!」 「ママのハンバーグかぁ…」 今日は疲れてしまって、気分的にはあまり面倒な料理をし

短編:【妄想とか 願望だとか】

「ここのお宅…お金持っているのかしら?」 母と二人、久々に買い物で遠出をしフラフラ歩く住宅街で、母が突然下世話なことを言う。 「びっくりした!何言ってるの?お母さん!」 「ほらあれよ!」 とあるお宅の軒下に青々と茂る鉢植え。 「何この植物…」 「知らないの?金のなる木よ!」 「これが金のなる木なんだ…え〜でもすんごい数だね」 「シッカリ育てて、ご近所さんに株分けとかしてるのよ!きっと」 「わかんないじゃない。でも立派に育っているね」 「こうやって歩道のひと目に付く所に飾ってい

短編:【思考する時、人は上を向く】

いつ誰に聞いたのか。 何かで観たのか。 『上を見れば果てしない。下を見たらキリがない』 たしか上を目指して自分なりに今を頑張れ、そんな言葉だったか。下を見て努力を怠るなという戒めだったような、そんな格言だった気もする。 近頃の鯉のぼりは、屋根より高いことはあまりない。川沿いで大量に吊るしていることもあるが、風が強い日にはくるくると紐に絡まってしまい、あまり美しくない。外国人観光客は珍しい光景だと必死に写真を撮っていたが、個人的にはどう撮影しても風情が感じられず、またその

【紫の濡れ衣】

「この季節は紫の花が多くて、私好きだな…」 「…そうなんだ」 彼女と映画鑑賞の帰り道、夕飯のお店を考えながらスマホを見ていた僕は、沿道に植えられた花の色には意識が行かなかった。 「だって、紫陽花とかさ、藤の花とか、菖蒲とか…」 「ああじゃなくて、紫色好きなんだって方」 「そうね、紫って落ち着いていて好きかな」 「欲求不満なの?」 「は!?なんでそうなるの!?」 彼女は一気に怒り出した。怒りっぽい所があり、熱し易く冷め易い。そこがまた可愛く想えるのだが。 「だって紫の服を好む

短編:【まかないの味】

僕がその日本料理屋の厨房をアルバイトに選んだのは、素直にまかないが食べられることで食費が助かるためだった。大学進学と共に東京へ出て来たものの、思い描いていた学生生活ではなかったことは明らか。大学二年の春になると一連のウィルス騒動はひと段落し、やっと本格的な対面授業が再開された。再開と言われても1年の間、正直数える程しか教室にいることはなかった。上京した頃はどんなバイトを選んだら良いのかわからなく、少なくとも生きて行くための食費を捻出すると共に、和食が食べられる、ただその一心で

短編:【カベに耳アリ 障子にミザリー】#01(存在感)

御存知ミザリーさんが、見たこと聞いたこと、ありもしない妄想や暴露を好き勝手に拡散するという、至極迷惑で誠に遺憾な諺では御座いますが。 誰が何処で見ているかわからないと言うお話。 コロナ禍が下火になり海外からの観光客が頼りの綱とばかりに相変わらず意味のない特集でさらにマスメディア離れが進み、現役総理を狙った爆弾事件も選挙が終わると共に幕引きに。唯一日本国中を熱狂させたスポーツも、海外組が戻った途端に一過性の熱病のごとく大人しくなってしまった。 困った報道番組が目をつけたの

【街で見かけた看板で】#05

「なんだよな、努力義務って!」 居酒屋の酒が入り、愚痴も出てしまう。男三人、いま世の中で溢れる自転車ヘルメット問題を語っている。 「オレさ、ここ来る前にヘルメットかぶって、フラフラ走る高齢男性見かけたのね…」 勢い先行で呂律が怪しい。 「それがさ…白い防災用のヘルメットだったんだよね…自転車用のヘルメットじゃないワケよ!」 「俺もそんなの見かけた!工事現場の作業着オジサンが黄色いヘルメットカブってガニ股で走ってた…ヘルメットなら何でもありか!って言うことだよ…」 「気の毒だ