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感動にも致死量があるっぽい

映画「ルックバック」を昨日観てきました。
原作は未読だったけど、藤本タツキ先生が発表した当時の創作界隈のざわつきを計測できていたので、すごい漫画だということはある程度把握していました。なので今回の映画はそのあたりを確かめるべく観てみようと思って案外軽い気持ちで観に行ったら、とんでもない感動をして、心がかき乱されました。
一夜明けてもまだ胸の中に熱いものがざわざわしていて、どうやら感動にも致死量があるというフレーズを思いついたので、これをタイトルにして、ひさしぶりにnoteを書いています。

この映画を表面的に評価する際に、神作画、セリフが少なく間があるのがすごく情感が伝わる、とにかくすべての景色が美しい、などが多く見受けられます。またよくあるのが、創作に関わるものは全員絶対にみたほうがいい、というものがありますね。
これらはすべて全くそのとおりです。
でもこの映画の素晴らしさはそれらだけではないと自分は感じました。それらだけなら、「とても良い映画」という範疇を超えません。この映画は「とても良い映画」をはるかに超えてきます。異次元というのがふさわしい。

映画は57分という(正確には58分と言ってる人もいる)いまどき珍しい尺の短い上映時間ですが、自分は開始10分ほどでざわざわし始めてゆっくり泣き出し、それから終わりまで48分くらいはずっと泣いていました。途中何度も嗚咽がでそうなのをぐーとこらえるもんだから、余計にひくひくなって鼻水がドバドバと出てましたが、さいわいマスクをしていてそれらを受け止めたので、内側は本当にべっちょべっちょになりました。
映画で涙が出ることもよくありますが、ここまで長い時間ずっと泣き続けながら映画を見た経験は人生で初めてです。
そして、これまた人生初ですが、多くの人がいる上映後のトイレでついに嗚咽してしまい、おいおいと声出して泣いてしまいました。ずっと自分にとまどいながら、終始感情をコントロールすることができませんでした。
泣く映画がイコール良い映画なのかはよくわかりませんが、とにかく感情が揺さぶられ続けて自分がコントロールできませんでした。そういう意味での映画体験は人生初といってもいいかもしれません。
しかしこれが1時間にみたない映画なわけで、良い映画に無駄な長さは関係ないことが証明されました。(無論長くてよい映画もたくさんありますが)

ストーリーは後半にある事件が起こりますが、それ以外は非常にシンプルで、ただひたむきに漫画に取り組む、性格の全く違う二人の女の子の友情と成長の物語です。映画ではよくあるタイプのプロットで、特別斬新なストーリーがあるわけではありません。自分が最近みた映画では「ソウルメイト」にも同じようなプロットがありました。
だから自分でも何故ここまで感情が揺り動かされるのかと思いつつ、だからストーリーだけに感動してるわけではないはずです。

おそらくは手書きアニメーション表現自体に心を動かされていたのだと思います。手書きアニメーションが起こす奇跡というか、絵がうまく動いて、登場人物の感情がきちんとのるだけでここまで感情を揺さぶることができるのかという驚き。これは本当に驚きです。そして無駄なカットが本当に1分たりともない緊張感をもった非常にタイトな構成力や構図。
新海誠もこの映画を見て初心に帰れ、宮崎駿もこの表現力に嫉妬するに違いない(余計なお世話)とさえいいたくなるような、すさまじい熱量を感じます。
そしてこのアニメーション表現の素晴らしさが、自分自身が持っていた(る)情熱や衝動や慟哭、生きる意味といったものと簡単に接続されて、感動の嵐が自分の中で巻き起こり、致死量にいたります。死に至る病ならぬ死に至る感動。
台詞もどちらかといえば少なく、間で見せる、絵だけで感情を伝える凄さ、そして声優初挑戦の二人の女優さん、河合優実さん、吉田美月喜さんのハマり具合が本当に本当に素晴らしい(語彙力〜!)。音楽のharuka nakamuraさんの音楽もシーンごとに見事にはまっていて涙腺崩壊兵器ぶりが素晴らしい。今はお決まりのテーマソングを誰々が歌うみたいなのもなくてよいです。

また、最近の映画は伏線や小ネタ、オマージュがどうしたとか(この映画にもそういう要素はいろいろあります)、考察系SNSの悪影響で、情報消費としての映画接種が多い気がしますが、その手の意見も世間にはほぼ無いように見えます。
そう、この映画の体験は、皆、頭ではなく体で心で 感じてる人が多いようで、なんかすごく健やかだなとも感じます。

そして、こういう意見をしてる人はたぶんいないと思いますが、自分は気が付きました。
この映画体験は失恋のときに巻き起こった感情と非常に似ています
もちろん映画には恋愛や失恋の話は出てきません。ただ、上映時間の95%以上泣いていたことを考えれば、コントロールできない自分の感情という側面がまったく同じです。知らない間に自分の過去の感情と不用意に接続されてしまい、涙腺崩壊した面もあるなと思いました。

人は何故泣くのか。悲しいから泣くのか、嬉しいから泣くのか。どちらも混ざった状態で泣く、混乱して泣く。人は泣くことでバランスを保とうとすることを考えると「涙は心の汗」みたいなのは案外正しいのかもしれません。

いやいやいやいや、、どんだけ泣いたかという話ではないですww

でもこれから観る人は覚悟してください。
信じられないくらいの感動と衝撃を受けることになるでしょう。何かを創っている人にとって、それは致死量にまで至ります。
でもこの映画は致死量に至りながらも、それと同じくらいの大いなる希望となって自分にバーンと戻ってきます。

いやあ、なんてすごい作品なんだよ


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