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読書感想文その1

年末年始に何冊か本を斜め読みした。僕は本当に読書が好きで、毎日の散歩にも必ず2冊の本を持っていく。ポケット忍ばせたまま読まないで帰ってくることもあれば、道端の縁台に座り込んで読み耽っていることもある。そんなだから、今年の正月休みも課題図書は山積みだった。令和元年度の津山市発行事務報告書や史跡津山城の保存整備事業報告書、様々な流派の茶の湯に関する文献、漢方薬関連の症例報告書、美作後南朝と古文書の読み下し、エトセトラエトセトラである。

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しかしながら、それら大勢の本たちとは違う「本当の課題図書」が、コロナ禍で初めて迎える正月の僕に1冊あった。サプライズなプレゼントである小さなその単行本は、角川春樹事務所の発行する短編集だった。贈り主は2年と6ヶ月、一緒に茶の湯を深めてきた京都岩倉の御仁である。不思議な縁で繋がるその御仁とは、津山城の真下にあるカウンターバーで10年前に出逢った。この方との有難いご縁は、またの機会にじっくり書こうと思っている。

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さて、僕に課せられたミッションは、堂島川沿いのバーで展開される4つの物語を読み、御仁から贈られた2つの読書感想文に込められた想いを感じ取ることだ。

いま、短編をふたつ読み終わった。ひとつは大晦日に、もうひとつは1月3日だ。まだ御仁からいただいた読後感想は読んでいない。ふたつ読み終わったところで、最初に贈られた封筒を開けることになっている。その前に末田自身の読後感想を描いてみようと考えた。そして、今ここである。

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第一話「梅は咲いたか、梅酒はまだかいな」

還暦近いマスターが営む小さなバーの常連客、その一人30歳の綾香は会社への不満を抱え黄昏のカウンターへやってきた。東京本社の企画部から地方高知のルート営業へ、本人の受け取り方では左遷の辞令が下ったからだった。その反対で営業から企画へ、栄転辞令を受けた綾香の仲間もいる。彼女の心の動きをカウンターの中と外から、丁寧に書き綴った青春の短編だ。

末田芳裕にも同じような経験がある。10年近く勤めた会社組織で、38歳にして統括部長という名刺をいただいていた。ある調剤ミス事例の事後処理をめぐり、会社組織というものに不信感を抱くことになった。お前は少し屈んでいた方が良いと、かつて軽蔑していた部下の下で働くよう末田に辞令が下った。毎日が吐き気とめまいの日々だった。独立創業なんて考えもしなかったそれまでの末田が、自分の居場所を求めて起業に至ったのは、あの時の暗く苦い時間と体験があったからだとはっきり言える。経営がどんなに苦しくとも僕が笑っていられるのは、自由を奪われた人間がいかに惨めな存在なのか、心臓の一番深いところにあのとき刻んだからだ。それ以外の出来事はどんなトラブルも、対してどうと言うことは無い。

「生きてる時間がえらい長なったというても、人生たかだか80年。サラリーマン生活なんかもっと短い。壮大な宇宙の時間と比べたら屁みたいなもんや。そんな短い間にうまいことやったろと思ても、なかなか帳尻合えへんよ」

「昔のひとは、この世ではマイナスでも、極楽浄土に行ってプラスになればええと信じたんたろなあ。過去、現在、未来の長い時間軸のなかで帳尻を合わそうと思たんや」

カウンターに座る常連客とマスターの会話、末田も本当に同じようなことを考え続けている。ほとんどの病気の類は不安依存症に由来すると僕は思っている。認知症やパーキンソン症候群などは、不安が大きな発症因子であり、治療には何らかの宗教が必須だと実は考えている。経験した症例から言って、認知症の侵攻を防ぐにはリバスチグミンと抑肝散加陳皮半夏の薬物療法、そして観光バスによる行動療法を継続することが有効な手段である。精神科を受診しガイドラインに添った薬物治療を続けても症状は治らない。それどころか、ADLまでが悪化してしまうこともある。介護度が最低ランクへ落ちた症例を、数多く診てきた僕が言うのだから信じて欲しい。

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どうして年配者は歴史を好むのだろうか。答えは簡単だ、長い歴史の一部分を演じている自分が、来たところへ還ろうとしていると感じられるからである。第二話の読後感想へ入る前に、一度筆を置くことにする。

出雲大社美作分院へのおまいりする時間がせまって来たからだ。家族で毎日神社まで歩く時間は残り1年となった。長女は今年高3になる。

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長い宇宙の歴史の中の一瞬だけれども、かけがえの無い1年を大切に大切に生きたい。可愛くなった娘の横顔を観ながら、そんなことをずっと考え続けている。

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