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このぬくもりの残り香は一体何だったのか

#私のパートナー 朝起きて、大きく伸びをする。 このベッド、私が独り占め。 最高だな。 身体を伸ばしすぎて、右脚がつる。 その横に、あの人はいない。 パートナーがいる生活は、正直窮屈だ。 夕飯を一緒に食べる食べない、掃除をするしない、洗濯をするしない、テレビは何を見るかにを見る。 もめ事が絶えない、共同生活。 でも、夜、ベッドの中には、あの人のぬくもりがあった。 その分厚い背中に頬を寄せると、ふわっと香る、あの人のにおい。 頬をつければ、じわりと伝わる体

    • 一日の中で一番寒い時間

      #あの恋 「ねえ、知ってる?一日の中で朝が一番寒いんだって。」 「ふーん。」 気のない返事。 今私たちはホテルを出て、家に帰っている。 朝5時。 始発が動き出す。 家に帰って、シャワーを浴び直して、そして、仕事に行く。 それぞれの家に帰る。 その途中。 ぬくぬくとしていた布団から一転して、肌がぴんと張り詰める寒さ。 私は思わずコートの中に手を突っ込む。 縮こまって歩く、その少し前を歩く、あの人。 ああ、だからやなんだよな。 帰り道は。 男はみんな

      • 「大丈夫ですか?」の連鎖

        #たすけてくれてありがとう 私が大学生の時は、世の中になぜかむしゃくしゃしていて、やみくもに街を歩き回り、雑踏にもまれ、ますますモヤモヤするという日々の記憶しかない。 いくら若さが取り柄の時期とはいえ、あの時期には二度と戻りたくはないと思う。 そんな役立たずな私でも、人助けをしたことがある。 モヤモヤとした散歩を終え、帰り道、一人の老婆が道の端で佇んでいた。 頭を抑えている。 なにか、放心した状態。 よく見てみると、彼女の頭からはぽたりぽたりと血が滴っている。

        • あ、私恋に落ちたって瞬間

          #あの恋 たとえば、飛行機の中。 一人旅中なんておしゃれなときじゃない。 仕事で後輩と一緒、上司と一緒という、恋愛モードからはずれていたときに、ふっとそのときはやってくる。 席に座って、私のとなりにどんな人が座るんだろう。 いやだな。 誰もいないせきが良かったな、なんて、テンションが下がっているときに顔を上げると、ぱっと目が合った。 お互い目をそらし、そしてまた目が合う。 このとき、私たちは恋に落ちていた。 彼は私のとなりに座った。 フライトは2時間半。

        このぬくもりの残り香は一体何だったのか

          帰り道のあいつ

          #私のパートナー 最近、帰りが遅い。 暗闇の中、ひとりでとぼとぼ歩く帰り道は、何とも言えぬわびしさがこみあげてくる。 社畜の憂い。 こんなに働いて、私は・・・ そんなとき、暗闇にぼわっと浮かび上がるのは、二つの鈍い光。 いつも古びたアパートの階段で佇んでいて、目を閉じたり、開いたりしているねこ。 愛嬌の「あ」の字もない、ねこ。 このアパートの住人の飼いねこなのだろうか? いつでも同じ場所に佇むねこの存在は、溢れすぎる、この情報社会にあって、変わらないもの

          帰り道のあいつ