帰り道のあいつ
最近、帰りが遅い。
暗闇の中、ひとりでとぼとぼ歩く帰り道は、何とも言えぬわびしさがこみあげてくる。
社畜の憂い。
こんなに働いて、私は・・・
そんなとき、暗闇にぼわっと浮かび上がるのは、二つの鈍い光。
いつも古びたアパートの階段で佇んでいて、目を閉じたり、開いたりしているねこ。
愛嬌の「あ」の字もない、ねこ。
このアパートの住人の飼いねこなのだろうか?
いつでも同じ場所に佇むねこの存在は、溢れすぎる、この情報社会にあって、変わらないものとして私に安心感をくれる。
そんな帰り道のあいつが、ある日突然、姿を消した。
来る日も来る日も、あのお決まりの階段にいないのだ。
とうとう、虹の橋を渡ったかな。
私の心に隙間風。
いくつになっても、「死」という概念は受け入れがたいもの。
この界隈のどこかに、きっとどこかにまだいるはず。
違うアパートの住人に、主を乗り換えたのかな?
それとも、もう外には出ず、家の中でぬくぬく過ごしているのかな?
この世の中の、どこかで必ず生きていると、想像し続ける毎日。
あいつが姿を消して、私の環境も変わった。
帰り道のルートが変わり、あいつがいたアパート前を通らなくなった。
それから数年。
久々に例のアパートを通ってみたら、見慣れた毛むくじゃらが。
あいつが戻ってきた。
相変わらずの不愛想。
昼寝中にすみませんね。
この変わらない風景が、戻ってきた。
私のパートナー。
それは、帰り道にすれ違う、ねこ。
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