「大丈夫ですか?」の連鎖
私が大学生の時は、世の中になぜかむしゃくしゃしていて、やみくもに街を歩き回り、雑踏にもまれ、ますますモヤモヤするという日々の記憶しかない。
いくら若さが取り柄の時期とはいえ、あの時期には二度と戻りたくはないと思う。
そんな役立たずな私でも、人助けをしたことがある。
モヤモヤとした散歩を終え、帰り道、一人の老婆が道の端で佇んでいた。
頭を抑えている。
なにか、放心した状態。
よく見てみると、彼女の頭からはぽたりぽたりと血が滴っている。
「!?」
「大丈夫ですか?」
私は極度の人見知り。
けれど、この時ばかりは声をかけた。
「さっきね、宅急便のお兄さんとぶつかって、ガードレールに頭ぶつけちゃったの」
老婆はウイッグをつけていて、その留め金で頭を切ってしまったらしい。
私はハンカチを出し、「ちょっと止血します」と老婆の頭を押さえつけた。
後ろから「どうしました?」と大声が響く。
「救急車呼ぶよ!!」別の宅配のお兄さん。
携帯で救急車を呼んでいる。
「大丈夫ですか?」次にやってきたのは、小さな女の子を連れた主婦。
「ティッシュ、これ全部使ってください。」
「ちょっと座った方がいいんじゃない?」けがをした老婆と同世代の老婆もやってきた。
「もうじき救急車が来るはず。」「まだ?」「もっと気をつけて荷物運ばないと!!」さまざまな声が交錯するなか、老婆は私にこう語りかけた。
「たすけてくれてありがとう」
救急車がつき、救急隊の方にいわれた一言。
「医療従事者の方ですか?」
いえ、私はただの大学生です。医学部生でもないです。
自分の存在価値が何かわからず彷徨っていたあのときの私。
私は今、あのときの老婆に救われたのだ。
私を頼ってくれてありがとう。
私に感謝をしてくれてありがとう。
そして、世の中に向かおうとしなかった私に、「あなたがいてくれたから」と存在価値を認めてくれてありがとう。
「たすけれくれてありがとう」
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