一日の中で一番寒い時間
「ねえ、知ってる?一日の中で朝が一番寒いんだって。」
「ふーん。」
気のない返事。
今私たちはホテルを出て、家に帰っている。
朝5時。
始発が動き出す。
家に帰って、シャワーを浴び直して、そして、仕事に行く。
それぞれの家に帰る。
その途中。
ぬくぬくとしていた布団から一転して、肌がぴんと張り詰める寒さ。
私は思わずコートの中に手を突っ込む。
縮こまって歩く、その少し前を歩く、あの人。
ああ、だからやなんだよな。
帰り道は。
男はみんな、朝、そっけなくなる。
ああ、寒い。
すると、あの人はちらっと私を見て、歩調を合わせる。
するっと入ってくる、ポケットの中の手。
私の手を握る。
私のコートのポケットの中で、何度も何度も握り直される手。
これは罪滅ぼし。
そして私たちは家に帰って、仕事に行くんだ。
いつも通りの、デート。
だからいやなんだ、朝は。
一日の中で一番寒い時間。
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