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孫子をプロジェクトマネジメントにガッツリ活かしてみよう-第2章 作戦篇⑤-

はい、作戦篇も最後になりました。
でも、まだ2/13篇。まだまだ先は長いです。

しつこくなりますが、もう一度おさらいをしておくと、作戦篇のポイントは、

 ・戦争には多大な費用が必要
 ・戦争は少しでも早く終わらせろ
 ・戦争の開始から終わりまで事前に作成を立てろ

そうしないと割に合わない事業になるので、そのことをきちんと理解した運用をしなさいという章ですね。

(原文)
故兵貴勝、不貴久。 故知兵之將、生民之司命、國家安危之主也。

(書き下し文)
故に兵は勝つことを貴びて、久しきを貴ばず。 故に兵を知るの将は、生民の司命、国家安危の主なり。

④で少し長めに説明したので、今回はたったの1文です。
でも、これはこの作戦篇の「まとめ」になりますので、とても重要なことが書かれています。

意味は

戦争は勝利を第一とするが、長引いてまでおこなうことではない。戦争の目的や重要性を理解している将とは、それが人民の生死の運命を握るものであり、国家の安危を決するということを、しっかりとわきまえた人物である。

という意味です。将とは、企業で言えば経営者…経営層かな?プロジェクトで言えば、当然マネージャーということになります。

あたりまえですが、「勝つ」のは大前提ですね。「負ける」ことをわかっているのに戦争しようなんてドMというか、酔狂な君主と言うのはいません。企業に置き換えてみてもそうです。大赤字になるとあらかじめわかっているのに、大赤字になるようなことをする経営者なんていませんよね。

先日、最終損益を発表したソフトバンクグループの孫社長も、最初から大赤字になると思ってWeWorkに投資したわけではありません。

彼自身が語っていることですが、7割以上の勝率が無ければ投資しないって言ってますもんね。

たまたま時事的にいいネタだったのでソフトバンクのお話を引き合いに出しましたが、このように、どこのトップでも「負け戦」前提で戦いに赴きません。結果的に負けてしまったとしても、です。その考え方は2500年以上前から脈々と受け継がれています。

ですが、それはあくまで大前提です。

「勝つ」ことは目的でも、目標でもないということです。

「勝てば他はどうでもいいか?」と言うとそんなことはありません。勝っても何も残らず、疲弊し、国としての運用もままならない…というのでは意味がありません。当然、限られた資源を消費しつくすなんてことは論外です。

 「戦争を行う以上、勝つことは絶対条件だが、
  長引くくらいなら最初から戦争なんて行うもんじゃない
 (つまり、長引かない戦い方が思いつかない限り、するな)」

ということが言いたいわけですね。当時も、脳筋の将軍には耳が痛い話だったのかもしれません。それだけに、当時も孫子と同じことを考えられるような将軍と言うのは稀だったのでしょう。だから、

戦争の目的や重要性を理解している将とは、それが人民の生死の運命を握るものであり、国家の安危を決するということを、しっかりとわきまえた人物である。

と言っているわけですね。このような「自他をきちんと見比べ、無用な戦いは避け、戦うにしても長引かせない」デキる将軍というのが、そこかしこにゴロゴロと存在いれば、孫子自身がそこまで重用されることは無かったのでしょうから。

孫子が重用され、孫子の知略が有効であると後世にまで伝わったのは、孫子が差別化を図り、他の将軍たちとは異なった考え方をしていたからです。そうでなければ、大多数のなかの一人…という扱いにしかなっていなかったはずです。その点から推察しても、孫子以外に、孫子と同じような考え方ができた将軍がそんなに多数存在したとは考えにくいことがわかります。

ビジネスに戻すと、ここまで大げさな話しする必要はありませんが、

 「目標を達成するうえで、最短になるためのプロセスとは?」
 「必要最小限のリソースで目標を達成するためには?」
 「勝率(成功率)は高いのか?」

と言ったことを、どこまで本気で考えられるマネージャーがいるのでしょう。

たとえば、「見積り」をイメージしてみてください。

月単価60万のエンジニアを3名、3ヶ月活用するとします。1日あたり3万円のコストがかかるということですね。普通に見積もれば、

 60万 × 9人月 = 5,400,000
 (3人 × 3ヶ月 = 9人月)

となります(マネージャー工数(管理工数)はここでは省きます)。旅費・諸経費もいったん端数として除いておいたとすると、一般的には、9人月の作業工数で済むと思えば、こんな見積り方をするでしょう。

で、中には、「月あたりの残業40時間を見込んでおいたとすると…」といって工数を水増しするマネージャーもいるかもしれませんね。というか、多いのではないでしょうか(相みつなどで価格勝負になった際には削るかも知れませんが)。

でも考えてみてください。

最初から「残業をする」こと前提で見積もるのってどうなんでしょう。これって、戦争で言えば「長引くこと」前提で戦を始めるのと同じですよ。だって、残業で何とか抑えていますが、本来は「1人月 = 160時間」とした場合、+40の残業を行う前提だとすると、1人当たり計200時間。つまり、一月1名あたり1.25人月働く計算になるので、

 9人月で終わるのではなく、最初から11.25人月かかる
 60万 × 11.25人月 = 6,750,000

ことを前提として、戦を始めようとしているということに他ならないのですから。しかも、見積り時には忘れがちになりますが、残業は日中時間の1.25倍の経費を支払わなければならないので、そのことも視野に入れると

 (60万 × 9人月) + ((3750円/時 ×1.25 × 40時間) × 9人月
 = 7,087,500

は考慮しておかなければならなくなりますよね。もしも、スケジュールを3ヶ月にせず、3.75ヶ月に延長すれば、3人で675万円。3ヶ月にする代わりに3人に残業代を支払えば、708万円の原価になってしまう…ことになります(まぁ実際には、給与に対する残業代と、人件費としての残業分請求は異なると思いますが、イメージとして考えておいてください)。

古代中国だって、その気になれば兵士に夜間まで戦争させれば、すなわち残業させれば、期間的には長引かなかったかもしれません。でも、そんなことをしても兵士はより疲弊するだけで、翌日の戦に響きます。だから、よほどのことがない限りは無理はさせませんでした。

ひるがえって、現代のビジネスはどうでしょう。

簡単に「残業でなんとかすればいいや」って思っている人多くないですか?
しかも、やむを得ず行うのであればまだしも、計画段階、準備段階の時点からもうすでに残業ありき…言い換えるなら他人のプライベート人生を破壊してまで働かせようとしている人って多くないですか?

私は、残業と言うのは、自らの責任で「やります」と言って請け負った仕事に対して、間に合いそうにない場合にのみ、自らの責任で成し遂げるためにやむを得ず行うものだと認識しています。

他人が他人に要請するものでもないし、ましてや強制するものでもないと思っています(まぁ、どうしようもないときに他人に助けを求めるのはしょうがないとは思いますが…その場合は、助けてもらった借りはきちんと返す(Give&Take)気持ちを忘れるべきではない、と私は考えていますけどね)。

だから、いつも管理職やマネージャーが、最初から部下やメンバーの残業を、本人の合意もなしに勝手に見積もっているのが不思議でしょうがないんです。というか、私がまだただのメンバーだった頃、そういう扱われ方をされ、何度も死線を彷徨ってきた経験から、自分が上司やマネージャーになった時に、そんなことをしようなんて考えてこなかったので、すごく違和感を感じるんですよね。

私は常に最も短い期間で最も無駄がなく最も楽ができる…それでいて「勝つ(きちんと納め、成功する)」方法を考えています(逆に、必要なことであれば、どんなに面倒で、どんなに嫌いで、どんなにつまらないことでも、やりますけど)。できれば、「負けそうだから戦わない」という選択を取らなくてもいいよう、限界ギリギリまで極力考え抜いて最短、最小限で勝つ方法を模索します。

これは孫子から学んだわけではなく、あくまで過去の辛かった経験から学び取り、同じ苦労を自分が他人に対して味あわせたくない思いでしていることですが、多くのマネージャー、多くの管理職、多くの経営者がそういう考えのもとに、適切に利益をあげられるようなプロセスを構築してくれればいいなー…と思っています。

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