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人を責めるな、しくみを責めろ

なにか失敗したり、問題を起こしたとき

「"しっかり"しろ!」
「"ちゃんと"やれ!」

と人的対策に逃げるのは簡単です。ですが、"しっかり"とか"ちゃんと"という言葉は適切な指示でもなんでもありません。他人に注意を促すにしてはあまりにも不出来です。

何をどうしっかりすればいいかわからない曖昧な表現は、正しい運用ができる優秀な人たちには嫌われます。一切の具体性や責任意識がない発言そのものが現場の生産性を落とすことをよく理解しているからです。

それが通用するのは、二流以下の現場だけです。

多くの企業、多くの無能なリーダーの場でよく見られるのは失敗の原因を「個人のスキル不足」に求めるケース。この場合、リーダーや上司は

 「まだまだスキルが足りないから、失敗するのだ。
  もっとスキルを磨きなさい」

と部下を叱ってその場を収めてしまいます。
それはある側面で間違ってはいないのかもしれません。

でも、よく考えてみてください。

たとえば1時間に100個の製品をつくる人が、3個の不良品を出してしまったとします。

 「3個不良を出したときだけスキルが不足していて、
  残りの97個のときはスキルが十分だった」

ということはありえるでしょうか?

本当に製品を作るスキルが不足しているのであれば、100個とも不良になるはずです。そこに真の原因(真因)がないからこそ3個だけにとどまっているのです。

スキル不足というのはもっともらしい原因ですが、ただ原因の特定を疎かにして自分の役割から逃げているだけと言うのがよくわかります。

 「Aという要因は必ずBと言う影響を及ぼす」
 「Bと言う結果は必ずAと言う原因に依存する」

これがともに成立しない時点で、実は真因にはなり得ないのです。


トヨタには「人を責めるな、しくみを責めろ」という言葉があります。

トヨタでは失敗したら人的対策だけではなく、できるかぎり物的対策を講じます。たとえ不注意などのヒューマンエラーであっても「その人が失敗したのは、しくみに問題があるから」「人が失敗をしてしまう可能性が残った仕組みとなっているから」と考えて、物理的に失敗が再発しないようなしくみを考えるのです。

そうしなければ、別の人が同じ原因で同じ失敗を起こしてしまうかもしれないからです。社会は個人のせいで問題が起きたとは考えません。個人が問題を起こすような管理体制、ルール、手順、文化だったと断じるでしょう。信用を落とすのは個人ではありません。企業であり、企業を統括する経営者です。

だから本当に経営やビジネス、そのバックボーンとしての「質」と向き合っている企業では個人に原因を求めません。その個人に問題を起こさせる仕組みに原因を求めるのです。

たとえ「作業者の不注意」で不良を出した場合でも、作業者の不注意を引き起こしてしまった原因を考えます。決して作業者に「以後、気をつけます」と言わせて終わりにすることはありません。

作業の手順や指示の出し方に問題があったのかもしれませんし、物理的に作業のスピードに問題があったのかもしれません。

また、体調面がすぐれずに注意が散漫になってしまったのなら、勤務体系やシフトに問題がなかったかを考えます。不注意になるには、不注意になるための原因があるはずです。不注意自体が原因ではないのです。そのことを理解し取り除かない限り、今後も不注意になる可能性が無くなりません。

本当にスキルが十分でないことや不注意によるものが原因であれば混入過程での防止が難しいということですから、その後の工程で他の人がチェックするなどの対策を考えます。

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人を責めるのは簡単です。
だから二流以下の上司や経営者はすぐに人を責めたがります。

逆にしくみに原因を求めるのは大変な労力をともないます。

頭を使わなければなりませんし、仕事のやり方や進め方を変える必要があります。場合によってはしくみを変えるためにお金を投資しなければならないケースもあるでしょう。

コンサルタントがクライアント先で改善指導をしていると、お客さまから「こんなにお金がかかることはできない」と抵抗されることもあります。そんなときは「お金をかけられないなら、その代わりに何ができるかを考えてみてください」と声をかけるそうです。

実現可能なことから手を打っていかないと失敗が起きる状況が勝手に変わることは絶対にありません。要するに、安易に人のせいにして今までのやり方にメスを入れないと言うのは、

 『頭を使うことが嫌いで、今までのやり方を変えたくない』

という保守的な人が、組織風土の改善を邪魔しているからに他なりません。もっと直接的に言えば、会社の改善や成長にとってそういう人たちは邪魔なだけです。そのまま人に責任を押しつけていたら企業は延々と同じ失敗を繰り返すことになりますし、従業員たちも委縮してしまってチャレンジしない組織になってしまいます。

人的対策だけに逃げてしくみの問題を先送りするのは、チームや組織を運営する人間が絶対にやってはいけないことの1つなのです。

もちろん、先ほど言ったように

・故意に起こしている
 (ルールやコンプライアンスを守らない、他人に迷惑がかかると知っていた等)
・何度も繰り返している

というケースでは、仕組みに穴があるのかもしれませんが、それ以上に「人」自身に問題があるので、人そのものに原因特定が及ぶのは仕方がありません。

しかし、それすらも『人事』や『人的配置』における選定の仕組みに問題があることも重ねて見直す必要があります。

 「アイツはダメだな、他の人に変えよう」

と、上の立場に立つとそんな増上慢な考え方をする人も出てきます。

しかし、当の本人が失敗した人を選定したのであれば、その目利きの仕方に問題があると言うことです。あるいは評価の指標や仕組みに問題があるということです。

人を見る目が無いのか、先見の明が無いのか、あるいは評価基準が世の理に反しているのか理由はともかく、そこから改めなければ次に選定する人も同じような基準で選んでいる以上、同じ失敗を繰り返すだけです。


決められたルールを守らなかった場合や大事故につながるようなミスをした場合には、当然ながら厳しく叱ることも必要です。

今とはだいぶ時代が違いますが、品質不良やケガにつながる事故を起こしたら、上司からこっぴどく叱られるのが当たり前でした。叱られるほうは、『ルール違反をすると大変な失敗につながる』ということを肌で実感していくのです。

どんなに仕組み(ルールや手順)が確立されていても、運用する人の意識が低ければ、勝手にルールを破る人も出てきます。

そうさせないためには、仕組みだけを完璧にするのではなく、その仕組みに対して取り組む個々人の意識そのものも変えていかなくてはなりません。

しかし、トヨタではそんな厳しい上司でも、こっぴどく叱ったあとは必ずフォローをしてくれたといいます。

「さっきは厳しく言って悪かったな。
 でも、これ以上失敗しないおまえ自身になるためでもあるんだから
 わかってくれよ」

と声をかけてくれると言います。ホントかどうかは知りませんが、真実ならとてもいい組織関係だと言えるでしょう。ルール違反をしたことは厳しく叱る一方で、ルール違反をさせてしまったことについては上司の責任として引き受け、フォローするのです。

 叱るべきところでは厳しく叱る
 ただし、フォローは忘れないことを心がける

は、人を教え導く立場に立つのであれば当然の心構えです。それができないのであれば他人の上に立つのはやめた方が良いでしょう。


ちなみに私は、ただの失敗で怒ることはありません。
おそらく叱りもしないでしょう。

人は必ずどこかで失敗する生き物だし、失敗に対しては「是正」と「再発防止」以外のことにまで何かしらコストをかけて実施する必要性がないからです。

どうせするなら失敗した要因を本人に確認すると同時に、失敗させてしまった要因を自身に問いただします。

仮に「あらかじめ、取り組むための注意事項を説明していなかった」のであれば、次から必ず説明しなければまた同じミスをしてしまうかもしれません。

ちょっとした失敗でも、何かしら自分で対策できることは必ず考えます。

だからこそ、部下のミスを一方的に部下だけのせいにすることは絶対にありません。逆に、先述のような

・故意に起こしている
 (ルールやコンプライアンスを守らない、他人に迷惑がかかると知っていた等)
・何度も繰り返している

ような失敗にはおそらく容赦しません。容赦する必要性を感じません。
明らかに仕事に対する取り組み姿勢に問題があるからです。

仕事は対価をもらって行う行動ですので、貰うものを貰っておいて同価値の業務や成果、労働力を提供することを疎かにするような愚かな行為を許す道理がありません。もちろん人ではなく『仕組み』に言及するのですが、だからと言って叱らないと言うことは絶対にしません。

残念ながら本気で怒ったことが無いので、実際には怒ったフリとなるのですが、必ず相手や関係者にとって「怒られている」「叱られている」と言う認識は持ってもらいます。

何度か手を変え品を変え、繰り返し、それでも改まらないようであれば『人』そのものに真因があるとして対処することもあるかも知れませんが、正しい怒り方をされているにも拘らず、それでも改まらない…そこまで酷い人と言うのもなかなかいないものです。

「失敗は当事者の責任」という暴論が当たり前になっていないでしょうか。

そういう上司がいる職場では、部下や社員が委縮して創造性を発揮できません。失敗しないために、言われたことだけを言われた通りに実施するだけの「指示待ち人間」を生み出す結果となります。

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