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意外とこわい燃え尽き症候群

誰しもビジネス環境においては少なからずストレスを感じることがあると思いますが、このストレスが一定量を超え、蓄積しすぎると

 「燃え尽き症候群」

となってしまいます。

Wikipedia

精神疾患というと企業はいつも統合失調症(いわゆる一般的な鬱)のようなものばかりイメージされますが、私はどちらかというとこの燃え尽き症候群の方が怖いと思っています。

なにより統合失調症と比べると病院などでは診断されにくく、また生活等にいきなり支障が出るわけではないため潜在的に進行しやすく、しかも発症した時にはスイッチが切れたかのように一気にパフォーマンスが出なくなってしまうからです。

少しでも客観的に自己分析をすることに慣れている人であれば、燃え尽き始めれば早々に「退職」を考えているのではないでしょうか。企業としては、それまで尽力してくれていればいるほど大きなパフォーマンスが見込めていたわけですから、パフォーマンスが高い人であればあるほど退職というのは恐ろしいものです。

仮に1日あたりの平均的なパフォーマンスを100とした場合、派手ではなくても周囲の2倍、3倍とタスクをこなし、200も300も成果を上げていたような人がある時から急に0になってしまうのです。

計画が総崩れとなってしまう瞬間です。

200のパフォーマンスをあげていた人が抜けた後に100のパフォーマンスを出せる人で穴埋めしようと思っても2人は最低必要なわけですし、しかもその高いパフォーマンスを出していた人に任せきりになっていたような状態であれば、ほかの代替要員の知識やスキルは乏しいでしょうから単純に100も出せません。慣れるまでの間、30や40しかパフォーマンスが出せないのかもしれないわけです。

かといって4人も5人も投入することはできないでしょうから、スケジュールで調整するしかありません。つまりたった1人で

 日頃から他の人がやれば4~5人分に相当する価値があった

ということを意味するわけです。それくらい「専門性」をもって「パフォーマンス」を特化させた優れた人材というのは、希少価値が高いうえに企業貢献度が高かったことを意味します。

しかしよほど優れた上司でもない限り、こうした価値観というのは持ち合わせていませんし、そのような人の評価の仕方を企業は決して管理職に教えません。どんなに優れていても、会社の等級制度などをもとに一律同じ待遇、同じ給与、同じ接し方を行います。ヒエラルキー型の組織体制をとっているというだけで、優れた相手であっても無礼な態度をとる上司、会社…というのも大勢いらっしゃることでしょう。

そのような中で、優れていれば優れているほど社員はストレスを抱えることになります。

会社や上司からもともと要求されているパフォーマンスは100です。もちろん役割ごとにその100の程度には差がありますが、「新人なら新人としての100」「3年目なら3年目としての100」「課長なら課長としての100」のパフォーマンスを出すことを求められます。それは報酬に見合った労働力という意味で当然のことでしょう。むしろ100出せるように努力するのは義務といえます。

しかしそのような中でも200、300出してくれる社員もいるのです。

それが余裕でできてしまっているのか、それとも無理をしてギリギリのところまで努力してくれているのかはわかりません。しかし要求以上、期待以上、待遇以上の成果をあげてくれているわけです。

では、彼らは何をモチベーションにしてそのようなパフォーマンスを出してくれているのでしょうか。その点に思いを馳せている企業や上司はどの程度存在しているのでしょう。

なんとなく「それが当たり前」なんて勘違いしていませんか?

  • もっと自分を評価してもらいたい

  • 周囲のメンバーや上司の苦労を取り除きたい

  • 大変な人を見ていると何とかしてあげたい

  • 整理されておらずグチャグチャな状況が見てられない

などいろいろあることでしょう。ただ1つだけわかっていることは、そうして人並み以上のパフォーマンスを出している人の多くは自発的であるというケースが非常に多いということです。そうした恩恵に胡坐をかいて「それが当たり前」なんて思われてしまってまでパフォーマンスを上げようと果たして考えてくれるものでしょうか。

企業と個人の雇用契約は一方的なものではありません。
通常の売買契約と同じく、対等な契約によるものです。

当然、そこにはwin-winの精神が宿っていなければなりません。何で報いるべきかは制度等によって縛りがあるのでしょうが、「それが当たり前」と思ってただただ押し付け続けるばかりの組織ではいつまでも燃え尽きずに忠誠心を持って働き続けてくれるのだと本気で考えていられるでしょうか。

そんなわけありませんよね。

上司の立場に昇格するくらいの人であれば、どんなに無能であってもその程度のことがわからないわけがありません。

そう。100が普通で、100のパフォーマンスを出し続けることが前提で給与などがあり、100のパフォーマンスを出し続けることが基準で評価や待遇の上下が決まるわけですから、どのような理由や根拠があったとしても200も300もパフォーマンスを出し続ける人がいるというのはかなり異常な状態ということがわかります。

 火事場の馬鹿力

を出さなければならないシーンもあるでしょうから、短期的にそういった状況を作らなくてはならないことはあるでしょう。私自身、トラブルプロジェクトの解決に携わったことも多いのでよくわかります。

しかし、その異常な状態を平時において常に出し続けることが「当たり前」だなどと勘違いして、延々と負荷を与え続ければそりゃーいつかはオーバーヒートを起こすのは自明です。上司が、企業が、個人に甘え続け、それに見合った対等な見返り(対価)を与えなかった…というのもあるでしょうけど、与えたからといって高負荷を維持し続けるのはやはり困難なわけですから、いざというとき以外にまで継続させるべきことではありません。

私が上司であったなら常に「つま先立ち」するくらいの負荷…具体的には+20%以内(110~120)で落ち着くようにコントロールしてあげます。そのうえでさらに配下をつけ、その人たちも105~110の負荷に慣れさせてそのくらいのパフォーマンスを負荷と感じないよう指導することをお願いするでしょう。そうして高パフォーマーの育成、醸成を図ります。負荷を負荷と感じさせないように訓練し、その人のキャパを徐々に向上させていくというのは身体を鍛えるのと同じ考え方です。

こうすることで

  • 組織全体のパフォーマンスの底上げができる

    • 企業全体の売上・利益にも好影響が出る

      • 結果的に彼ら自身への待遇面改善にもつながる

  • 少数の高パフォーマーにだけ負担をかけ続けなくて済む環境ができる

    • 少数の高パフォーマーの離脱リスクを低減できる

  • そもそも適正な評価がしやすくなる

    • 評価制度が追いつけないパフォーマンスは求めない(求めてはいけない)

などもあっていろいろと良い方向に回ると考えているからです。

少なくともそうした配慮ができないような組織では、今後も優秀な人材は根付きにくいのではないでしょうか。「呆れて退職する」のか「燃え尽きて退職する」のかはわかりませんが、長続きしないことは確かです。長続きしたいというモチベーションを維持する理由を組織が与えないから…いわゆる従業員満足度が考慮されていないからです。

先述のwikipediaにもありましたが

ワーク・エンゲージメントと関連する概念の位置づけ

企業や組織は自分の都合を押し付けるだけで、従業員のこうした観点を本当に考えて配分しているでしょうか。普通に考えれば「業務内容」や「個人との相性」だけでなく「タスク配分量の適切性」や「組織全体での配分バランス」、「評価制度との関係性」などが密接に絡み合っているはずです。それらの配慮が1つでも欠けていると上図の左へと寄っていくことになるのではないでしょうか。


世界保健機関(WHO)も燃え尽き症候群を「健康状態に影響を与える要因」と認定するなど世界的にその危険性が認知されつつある中で、南オーストラリア健康医療研究所(SAHMRI)の研究者であるマイケル・マスカー氏が燃え尽き症候群になってしまったかどうかを判断する基準やなりやすい業種、対策についてまとめています。

燃え尽き症候群の主要な状態として、

「感情の喪失やエネルギーの枯渇、疲労感」
「仕事から心が遠く離れてしまっている、仕事に対して否定的・冷笑的感情を持つ」
「専門家としての労働効率が低下する」

といったものが挙げられていますが、自分が燃え尽き症候群になってしまったのかどうかをチェックする時には以下の4つの質問が有効だそうです。

①ここ最近で、近しい人に自分の仕事を減らしてくれるよう頼みましたか?
ここ数カ月で、仕事の同僚やクライアントに対して怒ったり憤ったりしましたか?
仕事のせいで家族や友人、あるいは自分自身のために
 時間を費やせないことに罪悪感を覚えていますか?

最近、急に泣いたり怒ったり叫んだり、
 または緊張したりといった感情的な気分になりやすくなりましたか?

これらの質問のうちどれか1つでも「はい」と答えた場合、その人は燃え尽き症候群になりかけているか、あるいはすでになってしまっているかもしれません。

そもそもストレスを受けることをinputとするならば、その対処法は

  • ストレス源(input)を減らす

  • ストレスを発散(output)する

しか対策はありません。

①や②は職場における問題が顕在化していることを指します。
つまりinputが多すぎて支障をきたしている状態です。

 「outputができない」
 「どんなにoutputしても追いつかない」

ほどにinputが大きい場合はもう待ったなしの状態に陥ってしまっているかもしれません。精神疾患まっしぐらのストレスメタボ状態です。

③はoutputに支障をきたしている状態です。
ワークライフバランスが充実していれば、発散できる先があれば、多少ストレスのinputがあっても支障はきたさないものです。しかしこのワークライフバランスさえ崩すようであれば手の打ちようがありません。

企業は「業務中」にのみ従業員を扱える権限を有するものであり、それ以外の領域にまで謁見する権限は持ち合わせていません。そして少なくとも日本では法定労働時間というものがあります。そう、労働時間には上限が伴うのです。

 「(本来要求できる範囲内での)業務に支障がない」

以上、それ以外の点についてはできるだけストレスフリーとなるように企業は配慮してあげなければなりません。それができない企業を一般に「ブラック」というのです。

④はもう末期ですよね。

①や②によってストレスのinputが異常なこととなっており、そのはけ口として③で対処しようとしてもそれすらも阻害されてoutputすらままならない…そりゃもう④の状態になっても仕方ありません。

そしてもしすでに④の状態となってしまっているのであれば、個人的には後先考えずに企業を離脱するべきだと思っています。それ以上我慢してもいいことは何もありません。

企業のルールや制度というのは(色々しがらみがあるので)そう簡単に変えられませんから、仮に「変えるから」と言われてもまた相当な期間待たされることになります。しかも組織風土というものもそうそう簡単に変わってくれはしないので、待っている間はまた苦痛となるわけです。

私も転職を4回行いましたし、その中でいろいろな企業を見てきました。

世の中にはもっとまともな企業は存在するはずです。パフォーマンスが高いのであればなおさら引く手あまたでしょう。あなたを使いつぶすことが当たり前だと思っている今の企業に固執する理由はどこにもありません。

自分が燃え尽き症候群になってしまいそうだと気づいたら、産業医やカウンセラーなどに相談してみましょう。残念ながら企業側の人には相談したところで「経営層や上司」が変えようという意思を持たない限り変わることはありません。今まで変えようともしてこなかった考え方の人たちですし期待薄です。

人はさまざまな感情的、身体的ストレスに対応するための能力を持っていますが、個人のキャパシティを超えたストレスを感じると体が対応しきれずに燃え尽き症候群といった状態に陥ってしまいます。

普段から真面目な人やストイックな人ほど特にその傾向がみられやすく、普段から適当に手を抜いていたりバレないところで好き勝手やっていたりする人はこの手の症状は殆ど出ないのだそうです。

燃え尽き症候群の人々は疲労感を覚えたり仕事へ無関心になったり、同僚やクライアントとのやり取りが雑になり、キャリアアップへの熱意を失います。仕事に対して冷笑的になって効率も落ちるため職場や雇用主にとってもいいことはありません。

燃え尽き症候群自体は精神疾患ではありませんが、時にはアルコール依存やうつ病などより深刻な問題を引き起こすことにもつながりかねません。

燃え尽き症候群になりやすい業種は"人との関わりがある"ものが多いそうで、教師や介護士、小売スタッフなどに多く見られます。また警察や救急隊員、看護師、医師といった職業は特にストレスが多い状況で仕事をしているため、非常に燃え尽き症候群になりやすいそうです。

アメリカの1万5000人以上の医師を対象に調査を行った研究では44%もの医師が燃え尽き症候群を経験していました。フランスで救急救命部門で働く人々を対象に行った調査では34%もの人々が燃え尽き症候群になっているという結果も出ています。日本でも大学病院で働く脳神経内科医の2人に1人(約54%)が燃え尽き症候群になっているという記事がありました。

また、弁護士も非常に燃え尽き症候群になりやすい職業として知られています。

ロンドンの有名な法律事務所に勤務する1000人を対象にした調査では実に73%もの人々が燃え尽き症候群の状態であり、このうち58%がワークライフバランスに問題があると回答したそうです。

IT業界も、個人で仕事できるものは少なく、顧客とのやり取りもあれば、チーム内・組織内でのやりとりもあって、常に人と関わる仕事に従事することから年々燃え尽き症候群が増加していると言われています。

私のように、炎上しているプロジェクトに投げ込まれることが多い少し特殊なエンジニアを火事場系と言いますが、火事場系エンジニアは実に7割もの人が燃え尽き症候群となっているそうです。

火事場系エンジニアの武勇伝に点滅する危険な赤信号

もちろんこれらの専門的な職種に限らず、どのような職業であっても慢性的なストレスにさらされ続けることで、燃え尽き症候群になる可能性はあります。

企業は従業員に対する福利厚生を充実させ、過労に追い込まれたり過度のストレスを受ける従業員が出ないように配慮する義務があります。これは法的な強制力を持つものです。

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働ができるよう、必要な配慮をするものとする。

労働契約法 第5条(労働者の安全への配慮)

この労働安全義務は、当初は労働災害に伴う事故に対してのみ指定されていたものですが、近年では拡大解釈され、

・過剰労働は義務違反と認める(適性労働条件措置義務)
・ケガや病気だけでなく、メンタルヘルスに関する事項も含める(健康管理義務)
・労働者の病歴、持病、体調状態などを考慮する(適性労働義務)
・病気やケガをした場合に適切な看護や治療を行う(看護・治療義務)
・"使用者"には雇用主だけでなく、管理監督者(つまり上司)も含める
・ハラスメント等も義務違反と認める

等、色々と気を付けなければならないことが増えているのです。

また、労働者自身も燃え尽き症候群に対処するために仕事とプライベートの切り替えを学び、自身が受け持つ仕事の範囲を管理し、余暇に遊ぶことを考えて仕事のストレスからの回復力を高める必要があるでしょう。

重要なのは、どんな専門職であろうと仕事だけが自分の人生にならないようにすることです。企業は、企業の都合だけを一方的に押し付けてこようとしますが、その都合を満たすことに対する対価(金銭だけでなく)が正当に提供されているのかいま一度見直してみるといいでしょう。

もしも仕事が自分の人生を惨めにしていることに気づいたら、仕事を辞めるか他の仕事に目を向けてみると意外な選択肢が見つかるかもしれません。


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