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目標が成長を促す

目標なるものは鉄道の時刻表ではない。
それは航海のための羅針盤である。
それは目的地にいたる航路を指し示す。

P.F.ドラッカー『現代の経営 p.80』

経営にも人生にも、もちろんプロジェクトにも鉄道と同じように到着地…すなわちゴールがありますが、決められたレールの上を走るものではないというところが鉄道との最大の違いではないでしょうか。

むしろ航海と似ていて、嵐を避けて航路を変更し、濃霧では慎重に速度を落とし環境に柔軟に対応しながら到着地を目指します。

しかし、変化が続けば進むべき方向を見失うこともあるでしょう。

そこで必要なのが羅針盤です。

目標は経営や人生の羅針盤に当たる道具であり、目的地にたどり着けるかどうかはこの道具を使いこなせるかどうかにかかっています。

目標は、さまざまな状況下で私たち自身を牽引するものです。
自己目標管理を身につけ、自らの成長を促しましょう。

自己目標管理を採用している組織は多い。
しかし、頁の自己管理を伴う自己目標管理を実現しているところは少ない。
自己目標管理は、スローガン、手法、方針に終わってはならない。
原則としなければならない。

P.F.ドラッカー『マネジメント〈中〉p.86』

ドラッカーが常々述べているように、知識労働者は第三者が管理/監督することはできません。知識や意欲など目に見えないものを源泉に成果をあげるからです。自己目標管理もまた、自ら考え、行動し、修正し、完結するより他はありません。

目標管理は「支配による管理」から「自らの動機に基づく管理」に転換すべきだというのがドラッカーの考えです。これこそMBO(Management by Objectives and Self-control)の真髄です。

MBOは組織や上に立つ者が目標を与え、その達成を管理するものではありませんし、ましてや目標を支配の道具に使ってはなりません。マネジメントとは組織と個人の目標のベクトルを合わせ、一人ひとりに貢献を促し、束ね、成果をあげることだからです。

そもそも自己目標管理は、人の働く動機に深く根ざした道具です。

一般に人は、社会の中で承認されることを欲しています。なぜなら自分の理想的な姿は社会との関わりで描かれ、その姿とどれほど乖離しているかを常に気にしているからです。

それゆえに自己評価は、他人の基準でどう見られているかに大きく左右されます。その意味でどれだけ組織の中で貢献と責任を果たしたかは、他者からの承認に関わる重要な要素と言えます。

一人ひとりの貢献の糸が縦横に織り成して一枚の布、つまり組織の成果ができあがります。誰かの糸が短かったり弱かったりすれば、満足な布はできません。いい加減な貢献は組織の成果を小さくします。

目標は貢献の具体的な姿、つまり到達点を示すものです。

自ら設定した目標をもって貢献することで組織の中で責任を果たし、成果をもたらすものです。それがひいては他者から認められることにつながり、自分自身を満たすものとなります。

基準は高く設定する必要がある。
(中略)
基準を低くスタートすれば、やがて高くなるということは決してない。
「ゆっくり」と「低い」は意味が違う。
(中略)
その基準は高く、目標は野心的でなければならない。
しかし達成可能でなければならない。
少なくとも相応の能力のある者には達成できるものでなければならない。

P.F.ドラッカー『非営利組織の経営 p.131,133』

1000メートルの山を目指した人が気づいたら富士山の頂上にいた…なんてことはありえません。到達できる高さは最初の設定によって決まります。

 オリンピックで金メダルを取る
 甲子園で優勝する

どちらも初めにそう決めたからこそ実現できたわけです。
「なんとなくやってたらオリンピックに出ちゃった」とか「特に目的はないけど漫然と野球を続けていたら甲子園に着いちゃった」なんてことは決してありえないのです。

挑戦的な目標があって、初めて自己の成長を促します。

生産性の目標を「毎年10%上げる」と設定するのと「3倍にする」のとでは発想や工夫の幅がまるで異なります。既存の手段の延長線ではなく、思い切りストレッチして考えれば新たな手段を思いつきます。

挑戦目標の最高峰は「完璧を求める」ことでしょう。

生涯手の届かないものであることは明らかですが、そのことを理解してなお完璧を目指す人がいます。作曲家のヴェルディがそうであり、彼の言葉に触発されたドラッカーがそうでした。

完全や完璧という基準の前では常に自己反省する機会が生まれます。

決して慢心しないようにするためには、こうした届かない目標を設定することも価値があります。ドラッカーは「知的傲慢」もう十分だという心の状態を戒める言葉をよく口にしますが、「まだまだ」「次こそは」という姿勢こそが成長の原動力でした。

目標とビジョンを追求し続けることは、老いることなく成熟するコツでもあるのです。

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