「技術」と「時代」を見る目を養おう
ITの目まぐるしい変遷とは裏腹に、これまで情報サービス産業の"ITゼネコン構造"は末端の零細ソフトハウスにまで根を張りながら、良くも悪くも極めて安定したピジネス構造を維持してきました。
旺盛なIT投資を背景に、そのピラミッドを構成する皆が役割分担を守りながら相応の分け前に預かることができてきました。また、その中に身を置くソフトウェア技術者も比較的安定した将来像を描くことが可能でした(ブラックも横行しましたけど)。
しかし、ITが多くの企業にとって事業戦略と深く結び付くようになって久しい昨今、この様相は一変しています。
いわゆる「一次請け」や「元請け」と呼ばれるTier-1ベンダー/SIerへの調達窓口と運用の機能しか持たない企業の情報システム部門はその存在意義を問われ、また戦略的IT活用のパートナーたるべき大手Tier-1ベンダーやSIerは長らく続いたITゼネコンの立場から脱却することができず、2006年の特許庁システム開発中断およびその際のタクシーチケット贈賄事件が脚光を浴びて以降、確実にそして徐々に信願を失いつつあります。
先日も少しストレスを発散するかのように書きなぐりましたが、実際このようなSIerやITベンダーばかりになってしまったら日本のSI事業は本格的に斜陽化するでしょう。
正直、企業単位でみると私個人はあまり信用していません(もちろんプロジェクト単位でみればまともであろうと努力しているところも多々あるでしょうけど)。
こうして業界の枠組みが変わっていく中で、情報システムの開発にかかわるソフトウェア技術者もどのような将来像を見据えてキャリアパスを描くべきか、迷いの中にいることでしょう。
私自身がそうでした。
結果的に、何年も何年も悩み続けおよそ20年越しの独立をしたわけですが、私がそうする以前から多くの人が悩み続け、ある人は業界を離れ、ある人は独立し、ある人は病んで潰れてしまった人もいます。
当然のことながら、市場の求めに応じてソフトウェア技術者たちも自分の"立ち位置"というものを変えていく必要があります。もう「以前はこうだった」「いままでこれでやってきた」は通用する時代ではありません。
変化する姿勢を失った時点で、そのエンジニアその組織は死に体となるのです。
しかし、立ち位置を変えると言っても今まで得てきた経験や技術、知識を次の時代やシーンにも活かせるような普遍的なスキルに昇華させていかなければ意味がありません。
時代や市場の流れが速いからといって、単にその場限りの一過性のニーズに合わせているだけでは立ち位置を変える度にスキルがリセットされ、次の大きな流れに乗れなくなってしまいます。
たとえば、ERP(Enterprise Resource Planning)のブームに乗ってテンプレートのパラメータ設定を覚えるだけで食べてきたコンサルタント企業は、ERPブームの沈静化とともに市場価値を失ったことなどを鑑みれば決して大げさな話ではありません。
また、昨今のWebアーキテクチャや技術、言語、フレームワークの趨勢においても、自ら設計や解析に関わったようなソフトウェア技術者はより普遍的な技術原理を理解したことでしょう。しかし深い理解もなく、ただ単にアーキテクチャやフレームワークをググって活用するだけの技術者は"目先"が少し変わっただけでも応用できなくなり、新たな技術潮流には付いていけなかったりもします。
確実にキャリアを積み上げていくためには、
何が普遍的な技術なのかを見極める目
その技術に軸足を置いたうえで世の流れに合わせられる軽快なフットワーク
が必要となります。
最新の技術を追ってるだけでは50点でしかありません。その技術を最も効率よく、最も効果的に使えなければ意味がありません。たとえば最新のWebアーキテクチャを学んだとして、その技術を組み込み系のプロジェクトで活かせるか?というと、答えは
「No」
です。「これしかやりません!」「これなら自信があります!」といったところで需要と供給のバランスを見ていなければ価値を見出してはもらえません。
だからこそ世の流れ…「時代」や「市場」「時流」と言い換えてもいいでしょう。そうした流れにも敏感でなければなりません。『技術を見る目』と『時代を見る目』の双方を養う必要があるということです。
『技術を見る目』は、「よく切れる包丁」を手に入れるのと同じです。
よい道具を手に入れる行為といってもいいでしょう。ガタガタでまったく切れない包丁では美味しい料理を作れるわけがありませんよね。
そして『時代を見る目』とは、いわば「良い道具を使いこなす腕」を身につけるのと同じです。どんなに優れた道具を手に入れても、優秀な板前でなければ使いこなせはしません。チンピラに渡しても悪用しかしませんよね。飯マズな人であればとりあえず腕を磨きたいなら100均の包丁で十分です。
よい道具とよい腕。
それぞれが必要十分に揃ってないと、よい料理ができないのと同じようなものだと考えるといいのではないでしょうか。
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