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労働にかかる3つの拘束

私はよく、新入社員たちにこのような話をします。


私たちは社会人であり、そして企業人であり組織人です。新入社員のみなさんも入社すれば自覚・自意識の有無に関わらず、同じ企業に属する企業人であり組織人となります。

では、私たち社会人はどのようにして給与を得ているか、その仕組みを知っているでしょうか。労働基準法(=労基法)においてもそれは明確になっています。労基法は主に「企業と個人の労働契約、賃金、制限、そして労働条件」について明記されていますが、その中で頻繁に出てくるのが就業規則です。就業規則は原則として労働基準法の定義する規程に準じて企業ごとに作成されますが、この就業規則と労基法との間で大きく異なる点があります。それが

 労働条件に関する決まり

です。明確にしていないケースも多々ありますが、実際には企業が規定する「労働」というものには暗黙のうちに3つの拘束(制限)を設けており、この拘束を遵守する範囲内でのみ対価としての賃金が支払われるようになっています。

3つの拘束とは「時間の拘束」「場所の拘束」「行動の拘束」の3つとなります。

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時間の拘束

労基法でも「拘束時間」という記載があるように、元々は製造業(厳密には工場でのライン作業)をベースに考えられていることもあり、原則として企業が定める制限時間分の労働力提供に対して賃金を支払うことを定めています。

その中で、どんな仕事内容だとか、どの程度の生産性だとか、どの程度の価値を供出できるかだとかそういう定量的に測定できないものは対象になっていません。あくまで労働時間に対して定められています。アルバイトなどの非正規雇用においても”時間給”という固定給概念があるのはこのためです(まぁ法律も含め、いい加減この考え方自体が時代遅れと言わざるを得ないのですが)。

正規雇用の場合はアルバイトやパートのように時間給換算での支払いではなく、月給換算でおこなわれます。そのため、「○時間働けば□円支払う」ではなく「1日○時間、これを営業日の間継続できれば□円支払う」というように、1日あたりの労働時間は固定化されます。この固定労働時間を下回れば”遅刻”・”早退”、上回れば”残業”と言う扱いになります。

また、時間の拘束は「時間量」だけでなく「時間範囲」にも制限が設けられます。次のケースは、9時出勤とした場合の労基法が定める最低限の"法定労働時間"をベースにした事例でしょうか。

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労働時間は、労働時間①+労働時間②+労働時間③+労働時間④の合算値となります。確か…記憶が間違っていなければ、朝5時を境に日付が変わるんじゃなかったかな?

労基法では厳密な拘束時間の規定はありませんが、労働時間(法定労働時間)と休憩時間には規制があります。

 ・法定労働時間 : 8時間/日、40時間/週
         (一部の業務においては44時間/週)を上限とする
 ・休憩時間 :(A) 労働時間が6時間以下の場合  → 休憩時間不要
        (B) 労働時間が6時間超8時間以下 → 45分以上の休憩
        (C) 労働時間が8時間超      → 1時間以上の休憩

上図を見てもわかるように、休憩時間が45分となっているのは所定労働時間が(B)に該当しているためです。この所定労働時間を超過した場合は全て”残業”として別途労働時間換算されることになります。

このように、規定された労働時間の間は、労働に従事することが賃金支払いのための前提条件となることを覚えておきましょう。当然、遅刻・欠勤・早退などにより所定労働時間の労働義務を逸脱した場合は対価支払いに影響が出る他、企業側に大きな損失を与えてしまった場合は別途責任をとる必要が出てきます。

この拘束規制を緩和したものが、「フレックスタイム制度」「時短勤務制度」、「裁量労働制」等になります。

労基法がいまだに時間に応じた報酬しか考えられていないのは、当時仕事というと「工場」の流れ作業で誰もが同じ労働力を提供することが主となっていたからです。流れるスピードが一定である以上、誰かが早くてもダメだし遅くてもダメ。常に同じパフォーマンスだからこそ、一定時間従事すれば固定給とする考え方が生まれたわけです。

法律も含め、いい加減考え方を改めたほうがいい…というのは、業務のスタイルに限りなく多様性が生まれた現在のビジネスとは、全くかみ合っていない点にあります。


場所の拘束

基本的には労働場所についても拘束される…と言うことは既になんとなくお気づきかと思います。たとえば、会社の定める規程のなかで「労働場所」が明記されているのであれば、その規程に反して勝手に自分の都合で在宅勤務にしたり、喫茶店で仕事したり…と言った自由が無いと言うことです。

原則として、会社あるいは上司が定めた作業場所で仕事を遂行することが義務付けられます。特にITサービス産業を中心とした生産・製造に従事する場合、情報セキュリティの観点から知的財産、個人情報、企業秘密などの漏えいなども懸念されるため、労働場所については著しく拘束されます。

この問題は労働場所云々以上に、企業の大きな損害(金銭的損害、信頼的損害など)が非常にウェイトを占めています。1人で対処できる責任の範疇を超えることも多々あるため特に注意が必要です。

また同じく情報セキュリティの観点から、自社内で作業できないようなケースも多々あります。顧客情報の取扱いなどの制約により、顧客先での常駐作業や開発場所の固定化などが取引の契約上、定められているために我々開発担当者が出向いて作業することもあります。

こうした場合には会社、あるいは上司から自社以外の労働場所を指定されることがあります。拘束される労働時間の間、これに従って指定労働場所で作業しなくてはなりません。

この規制を緩和するのが、「リモートワーク(在宅勤務)」「テレワーク」などです。場所の規制を緩和すると、通勤時間という無駄が減り

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上記グラフの場合であれば、1日のおよそ7%(1.6h)…すなわち社会人人生のおよそ7%のムダが解消されるということになります。その分をプライベートに充てるもよし、仕事の遅延を取り返すのに使うもよしだったりするわけです。


行動の拘束

時間、場所を経て、最後に行動の拘束です。

「労働」と一口に言っても様々な内容があります。求められる成果があったとしても、その成果をあげる結果に至るまでのプロセスには様々なアプローチの方法があることでしょう。

しかし、原則として拘束された所定労働時間内においては、会社あるいは上司が認めない限り、どんな内容/方法でもいいとは限りません(ある程度の自由度はありますが)

たとえば、「ある資料を作成してほしい」と依頼を受けたとしましょう。

この時、特に条件を指定されていなかったからと言って「どんな方法を用いてもいいか?」というとそうとは限りません。

 ”今、用意されている環境で”
 ”依頼者でも読める形式で”
 ”用途に応じた内容で”

といった条件を満たしつつ、作成しなければならないケースは多々存在します。また、休憩時間を含めた「拘束時間」の間は、ビジネスマナーに従った節度ある行動が求められます。

たとえば、休憩時間になったからと言って自宅から持ってきておいたゲームを始めてしまったり、公序良俗に反するサイトを閲覧するなどは、ルールと言うよりはマナーとして認められていない会社も多いと思います。その中には企業内風土の破壊や、対外的な良識を疑われる行為に対して、それを抑制するためという目的も含まれています。

休憩時間だからと言って、周囲に迷惑がかかるような行動はやはり認められていません。場所によっては、飲食自体が禁止されている職場というのもあるでしょう。喫煙所でのタバコ休憩は認めているのに、タバコを吸わない人がタバコを吸う人と同じ時間だけ自分の席で仮眠やおしゃべりをして休憩時間を過ごすようなものも、「仕事をしないで遊んでいる」なんて非難する人が出てくるくらい保守的な職場もあります。

企業風土が保守的であればあるほど、行動の拘束は暗黙で設定されていたりもするので歴史の長い企業や、平均年齢の高い企業事務職の社員割合が多い企業、あとは…経営者の在籍年数が長かったり、年齢がかなり高い企業に入社する場合は、そうした目に見えないリスクがみなさんの居心地の悪さや人間関係構築の難しさにつながりかねないことも覚えておくといいでしょう。


最後に

もちろん、これらは原則として「就業規則」など会社のルールの定め方によって、ある程度緩和することが可能です。

時間にしてもコアタイムなしのフレックスタイム制度を導入すれば、基本的に拘束時間はあってないようなものです。場所にしてもリモートワークやモバイルワーク、テレワークなどを導入すれば特に拘束されることは無いでしょう。行動に関してもノルマ制…というか、要求されたことがしっかりできて成果が出せていれば、それ以外に拘束しないと言う企業もあると思います。たとえば副業の自由化などがそうですよね。

ですが、そんな自由度の高い組織、常に改善し続ける組織は、日系企業のなかではまだまだ少ないと思います。企業の歴史が長いほど保守的な人が組織の上位を占めていたりします。総務や人事などの販管部門の長が会社内での権力も高かったりするとその企業の保守度はさらに高まり、現場の苦労など何も考えずに一切改善しようとしない…なんてことも珍しくありません。

海外企業や外資、メガベンチャーの一部ではすでに導入されているであろうこうした取り組みに対し、労働者に平準化を求める国内環境、それをベースにした企業風土が既に凝り固まってしまった組織においては、なかなか変化させることが難しいのだと思います。

一部の優秀な学生や上昇志向の強い学生などは、外資やメガベンチャー、海外企業なども視野に入れて、望むキャリアパスや働きやすい環境に身を投じていくことでしょう。一方でほとんどの学生は、やはり安定性であったり、地元志向を強く求めるのではないでしょうか。

だからこそ、まだまだ多い純粋な日系企業には、こういう3つの拘束がついて回ると言うことは肝に銘じていた方がいいと思います。

ちなみに。

こうした考え方は、どちらにしても今後衰退していくと思います。高い確率で。なぜなら若い人材が徐々に忌避するようになってきているからです。仮にそういった企業風土を表面的に隠して人材を集めることができたとしても、「騙された」「裏切られた」と感じて1~3年くらいでドッと辞めていくのではないでしょうか。

今後そういった流れから変化していこうとする企業であれば、将来的に生き残れる確率は高いでしょう。もしも、そうした流れに「ついていこうとしない」「むしろ逆行しようとしている」企業は、ブラック化したり、いずれ衰退していくことが予想されます。

しかし、このような流れを社員では変えることができません。

就業規則をはじめ、企業の定める規程類は、経営者や経営会議などを通して承認されない限り、変更することができないからです。だからこそ規程類を統括管理している販管部門(主に総務?)の責任者や経営者がちょっとでも社員のパフォーマンスやモチベーション、エンゲージメントなどを顧みようとせず保守的な考え方だったりすると、企業は決して変化できなくなっていくわけです。

そんな人たちを重要なポジションに据えているような企業に間違って入ってしまった場合は、しばらく様子を見ながら知識やスキルの習得に努めつつ、転職の機会をうかがってみるのもいいかもしれません。

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