キックオフミーティングを軽視しない
最近では、日本企業のいたるところで
“キックオフミーティング”
という言葉が普通に使われるようになりました。それだけプロジェクト型の仕事が増えたからという背景もあるのでしょう。
その背景には日々の慢性的な定常業務という概念が減少し、チームで高い目標達成を目指すプロジェクト的な仕事の割合が増加の一途をたどり続けているという働き方の変化があります。
そのような活動の中、キックオフミーティングはチームが一丸となって挑むプロジェクトが成功するかどうかを左右する大切な役割を担っています。いるはずです。でなければ実施する必要はないものですから。
私たちソフトウェア開発を中心としたITサービス産業においてもプロジェクト型の業務がメインとなっていることでしょう。しかし、どこの企業でもそうだったのですが、たいてい
「プロジェクトマネジメントに優れた人材がいない
(または圧倒的に不足している)」
という話を聞きます。たしかに肩書き上はプロジェクトマネージャーと呼ばれていてもスケジュールと進捗管理、それに顧客との打ち合わせだけしていれば成立すると思っている人がものすごく散見されます。にもかかわらず、プロジェクトマネージャーを増やす育成などはあまりされていない企業・組織が多い気がします。前職でもそうでした。
そうした組織風土が多いこともあって、残念ながらキックオフミーティングを導入している企業の多くは、
やれと言われているからやっているだけ(形骸化)
という例も少なくありません。もちろんそんなやり方ではキックオフミーティングによって得られる恩恵はまったくありませんし、実施するだけ時間の無駄遣いとなってただただスケジュールを圧迫するのがオチです。
キックオフミーティングは、
実施することのメリットより、
実施しないデメリットの方がはるかに大きい
ことがわかっています。「しても無駄だから」と実施しなかったり、形だけ実施しているようでは、結果としてプロジェクトの成功率を下げる事態を改善することは不可能です。
実際、キックオフミーティングの進め方は各社によって様々で、準備不足のためにキックオフミーティングから失敗していたケースも目に付きます。
そもそもキックオフミーティングの『目的』って何でしょう?
言い換えるなら
「なぜ、キックオフミーティングをする必要があるのでしょう?」
この「なぜ」を理解しないまま形式的な手続きに則って作業するだけの人は知識労働者とは呼びません。この「なぜ」を常に考える姿勢を持つことを"『目的意識』を持って仕事をする"と言います。
知っていますか?
知識労働者になり得ない人の"仕事"こそ、将来AIに取って替わられるものなのだそうです。世の中は「ただ言われたことを行う!」という状況から、
「チームの成果を最大化する!」へ働き方の変化が求められています。
できない企業、しない企業は、いずれする企業に取って代わられていくでしょう。働き方改革に求められているニーズの1つでもあるのですから、経営者や管理職を名乗るのであれば取り組んで当然といっても過言ではありません。
一般的に企業内で取り組まれているプロジェクトには下記のような特徴があります。
達成すべきゴール(達成基準)がある
複数人のチームで推進される
一定期間取り組む(開始と終了がある)
(場合によって)投資を伴う
私たちも過去、様々な企業のソフトウェア開発のプロジェクト活動を行ってきました。このようなプロジェクトには「役割」をもつ3つのステークホルダーが存在しています。
プロジェクトオーナー
プロジェクトの遂行を決定し、ヒト・モノ・カネなどの資源の活用を承認する人プロジェクトマネージャー
プロジェクトを円滑に遂行するためのマネジメントをする人プロジェクトメンバー
プロジェクトに実際に取り組む人
通常、私たちのようなIT企業はプロジェクトオーナー(お客さま)からの依頼を受けてプロジェクトマネージャーとともにプロジェクトが成功をおさめるように活動しています。
キックオフミーティングはプロジェクトに関わるメンバーが一堂に会し、これから始まるプロジェクトの目的や意義を理解するためのイベントです。
そこでは、プロジェクトに関する下記について全員で共有化します。
会社は何を目指しているか?
それに向けて、このプロジェクトで何を成し遂げようとしているのか?
そのために会社が直面している問題は何か?
私たちは何を期待されているか? (いつまでに、何を達成するか?)
私たちは何をすればいいか? (役割は何か?)
以上のように、キックオフミーティングはプロジェクトオーナーやプロジェクトマネージャーの考えや決意を表明し、メンバーの動機づけを行い、心に火を点すことで参加者全員がひとつになってプロジェクト成功へのスタートをできる大切な場です。
「キックオフミーティングがうまくいくかどうかで、
プロジェクトが成功するかどうかの8割が決まる」
と言われていることをご存知でしょうか。
これは何も誇張と言うわけではありません。
そもそもプロジェクトの具体的な進め方や不慮の事態に対する準備や対応などについてあらかじめ予測・計画が立てられていれば、きちんと説明できるはずです。それを「何か起きたら対応すればいい」なんて考え方は、ただの
行き当たりばったり
でしかなく、プロジェクトオーナーとしてもとても信用できるものではありませんし、プロジェクトメンバーは不安しか沸いてこないことでしょう。
今までも再三再四説明してきて、そしてそれを忘れたプロジェクトから次々に問題を起こしてきましたが、前職までに関わってきたプロジェクト活動においてトラブルのおよそ3~4割は純粋なコミュニケーションが原因でした。そのなかでも大トラブルになっているものは7~8割がコミュニケーション不良が必ずかかわっていました。
キックオフミーティングはプロジェクト発足後、初のコミュニケーションの場です。
コミュニケーションでトラブルを起こしていると分かっているのにもかかわらず、それでもコミュニケーションを疎かにすればどのような結末が待ち受けているかなんて、誰でもわかると思います。
疎かにして良いものではない
と言うことに気付けるはずです。
そのくらい大事なイベントですが、多くの会社が行っているキックオフミーティングは準備不足で場当たり的なキックオフミーティングを見かけます。
そう、キックオフミーティング自体が失敗する要因はその多くが、いつもコミュニケーションの重要性を理解していない人たちによる
準備不足
によって生じているのです。
「なぜ重要なのか?」を理解しないままなんとなく集まるキックオフミーティングは、残念ながらプロジェクトのプラスになりません。ただの時間の無駄遣いです。限られた時間をそのように使って、あまつさえその時間分の工数をお客さまに請求するわけですから、不誠実極まりないといってもいいでしょう。
特にNGと呼べるのは下記のようなケースです。
プロジェクトオーナーやマネージャーが準備不十分のまま開催してしまう
資料が用意されていない
プロジェクトオーナーやマネージャーの決意が伴っていない
キックオフミーティングの大切さを理解していない
参加者は忙しい仕事の合間を縫って集まります。
おそらくスケジュール上の工数計算には含まれていない活動となっているはずです。そこに30分にせよ1時間にせよ、全員の手を止めさせてまで行われるミーティングなわけですから、その止めた時間分の価値に見合った内容となっていなければ報われません。
そうした貴重な場で
何を伝えたいのか
何が伝わっていなければならないのか
それを全員にしっかり伝えるためには何が必要か
プロジェクトを管理する側が事前にしっかりと練ることが重要です。
たとえば、ある企業の「法人営業(BtoB)の社内業務の生産性を10%以上改善する」という目標にむけた「業務プロセス改善プロジェクト」があるとして、成功するキックオフミーティングをイメージします。
プロジェクトオーナーの事業部長、プロジェクトマネジメントを担う部長と私の3人で「キックオフミーティングをどのように進めるか?」について事前打ち合わせを持ちました。
その打合せでは、私たちが用意した進行案(アジェンダ案)のたたき台をもとに、下記の通りキックオフミーティングの具体的な進め方とそれぞれの役割について協議しました。
参加者
そこで伝える業務改善の目的や重要メッセージ
発表者はなにを説明するのか?
進行手順は?
キックオフミーティングの成功基準
この事前打ち合わせによって、下記の役割で発表することを合意しました。
事業部長
→方針説明、事業部全体としての財務状況や改善目標部長
→今回の業務改善プロジェクトの達成目標や対象範囲、部長としての決意私
→業務改善を行うスケジュール・それぞれの役割の解説
キックオフミーティングは1週間後です。
それまでに各々が発表で使用する資料を準備することになりました。
このような際によく起こるのが、
「キックオフミーティングっているんですか?」
「キックオフミーティングのために、
こんなに中身が濃い打ち合わせを行う必要ってあるんですか?
今までやったことがなかったんですが…」
という発言が出てくることです。
キックオフミーティングの事前打ち合わせは大変重要です。
というのも、プロジェクト活動は実際に業務を担って働いている人たちがほとんどのタスクを担うことになります。プロジェクトオーナーやプロジェクトマネージャー、プロジェクトリーダーが実際に行えることは限られています。
現場の人達にスムーズに進行し、意欲的に取り組んでもらうためには、プロジェクトオーナーやマネージャーの
発表する内容(方針や目標)に一貫性があり
構造的・合理的で納得しうるものであり
「成し遂げる!」という決意や意志が伴っている
必要があります。
彼らがどれだけ意欲的に取り組んでくれるかが成功の鍵なのです。
場当たり的なものではなく、事前にしっかりと内容が積められていて、リーダーたちは共通した考えになっている!と感じさせるものでなければなりません。
準備が不十分で推進者の意思統一が図られていないキックオフミーティングでは、
「上の人たちが言っていることが食い違っている。
これでは今回もうまくいかないだろう」
「どうせ何を意見しても取り入れられはしない」
「どうせ前回と同じでしょ」
「忙しいから内職してよ…」
と感じさせてしまいます。最初からそんなことを感じさせてしまってはプロジェクトがうまくいくはずはありません。
少なくとも発表者全員の骨子を事前に確認し、それぞれが相関性のあるものにしなければなりません。そうした下ごしらえが現場の人たちに「しっかりと準備して始めようとしている重要なプロジェクトなんだ!」と感じさせ、だからこそ「自分もちゃんとやらなきゃ!」という意欲を促すのです。
言われたことを言われたとおりにだけしか実施しないロボットが欲しければ、必要な情報を提供せず、ただ指示だけしていれば完成します。
しかし、それで成功するプロジェクトは存在するのでしょうか。
キックオフミーティングの目的は「発表すること」ではありません。
参加したすべてのプロジェクトメンバーが下記を「理解すること」です。
顧客のニーズは何を目指しているか?
それに向けて、このプロジェクトで何を成し遂げようとしているのか?
そのために会社が直面している問題は何か?
私たちは何を期待されているか? (いつまでに、何を達成するか?)
私たちは何をすればいいか?
その実現のために、ここに集まったメンバーにはそれぞれどのような役割が与えられているのか?
ミーティングを聞いたらプロジェクト活動で手が止まることはないか?
たとえば、キックオフミーティングが終わった後、プロジェクトメンバーへアンケートを行い、これらについてできるだけ正しく理解できているならばそのキックオフミーティングは成功といえます。
さて、キックオフミーティング当日です。
事前打ち合わせで確認したとおり、最初に事業部長が「このプロジェクトにおいてお客さまの直面している状態と目指している目標」をスライドと配布資料を用いて発表しました。事業部長はPowerPointのスライド4枚準備し、事業部として達成しなければならないことを明らかに伝えました。
次は部長の順番です。
部長の役割は「今回のプロジェクトの達成目標や対象範囲、マネージャーとしての決意」を説明することです。ですが、部長からは3分程度の発表で
「事業部長が言ったとおりです。必要だから頑張ってほしい!」
というだけのものでした。
スライドも準備しておらず、言葉だけの説明で終了しました。
これではダメです。
口でいくら説明しても誰も聞いていません。
イメージが共有できません。
具体性が伴っていません。
だからメンバーの記憶にまったく残りません。
これと同じようにプロジェクトマネージャーが本当に必要な情報を本当に必要な形で伝達、共有しようとしていないプロジェクトの場合、仮にプロジェクト計画書等を作成して説明していたとしても、おそらくそのプロジェクトの中で
誰もプロジェクト計画書のことなんか忘れて活動している
のではないでしょうか。
前職でもそうでしたし現在でもそうですが、たとえばテスト工程の活動内容を確認すると
プロジェクト計画書(のテストスコープ)
テスト計画書(のテスト観点や品質基準)
テスト仕様書(のテスト内容)
の整合性が全く取れていない…なんてのは日常茶飯事です。
「だったら計画書なんて作らなきゃいいじゃん」
「だったらキックオフなんてやめてしまえ」
「せめてすべての整合性が取れるように修正すればいいのに」
といつも思っています。
また、人は言葉だけで行われた発表を十分理解できません。
目と耳を使うことがより理解できるようになるのです。
視覚で補足しなければなりません。
「PowerPointを使っている会議は生産性が悪い」と言われることがありますが、それはプレゼンテーションの目的を理解していない人が言うことです。というかPowerPointにこだわる必要はありません。要は聴覚だけに頼ったコミュニケーションでは不十分だということがポイントです。
「他人に説明する」という行為にとって、視覚的に訴えることは非常に重要です。何十枚ものページやスライドを準備する必要はありませんが、こうした場では要点がまとめられた1~2枚程度のスライドは絶対に必要です。
この部長が担っていることは、プロジェクトマネージャーとして
「今回のプロジェクトの達成目標や対象範囲、マネージャーとしての決意」
を伝えることでした。
これらの内容はプロジェクトの中核を成す大切なものです。
このプロジェクトの遂行中においてメンバーが壁にぶつかったときに何度も立ち戻り、
「勘違いがないか?」
「誤解していないか?」
「途中で道を誤っていないか?」
「どこまで達成できているのか?」
「どのように修正していけばよいか?」
を確認・検討するための具体的な指標となる内容です。ですからしっかり文書としてまとめ、いつでも振り返りが出来るようにしなければならないものでした。
今回の部長の発表は説明が不十分でした。参加者にプロジェクトを円滑に遂行するための機会をまったく与えていません。本来もっと盛り上げることができた参加者の動機づけを低い段階でとどめてしまったといえるでしょう。
業務プロセス改善ができる人材は、会社や組織にとって新たな成長を切り拓くことができる宝です。年齢にかかわらず優秀な人を抜擢し、プロジェクトメンバーの一員とすることでお客さまの業務プロセス改善を経験させ、ひいては会社の業績向上を担う人材に育てようとするのが、
"プロジェクト主体型"
の事業運営組織にとって1つの強みになります。
「モノ作り」にばかり集中して、お客さまの言いなりになっているだけの盲目型のエンジニアでは、本当の意味でプロジェクト運営する能力は身につきません。
キックオフミーティングは「プロジェクトの目的」を中心に、今後の具体的なプロジェクト活動やその理由、背景などについてメンバーに周知し、共有する場です。
「なんのためにやるのか」
「なにをやるのか」
「どうやるのか」
を参加者全員に把握してもらう大切なイベントです。
何度でも繰り返して説明しますが、開催前はプロジェクトの責任者間で下記の準備を万端にしておきましょう。
(1) 会社は何を目指しているか?
(2) それに向けて、このプロジェクトで何を成し遂げようとしているのか?
(3) そのために会社が直面している問題は何か?
(4) 私たちは何を期待されているか? (いつまでに、何を達成するか?)
(5) 私たちは何をすればいいか?
そのために事前に準備すること:
(1) プロジェクトオーナー
→ 活動方針の説明、期待している結果
→ プロジェクトが成功しないことによるインパクト
→ プロジェクトの最高責任者としての決意や期待(重み)
(2) プロジェクトマネージャー
→ 今回のプロジェクトの達成目標(ゴール)や対象範囲
→ プロジェクトを推進するマネージャーとしての決意
→ 活動スケジュール、およびメンバーの役割と責任、そして権限
→ プロジェクト活動を始めるにあたって周知しておくべきルール
→ 各情報の今後の共有方法
キックオフミーティングの成功が、プロジェクトを左右するといっても過言ではありません。このような事前の準備をしっかり行なうことが、プロジェクトの成功へとつながっていくのです。
プロジェクトを成功に導くためには、推進を支援できる存在が必要となります。
それでも、キックオフミーティングをするべきではない、と判断することがあります。それは
・準備もなく、覚悟もなく、形骸化させるだけのキックオフミーティング
・キックオフミーティングを含め点ではなく線として考えないマネジメント
→ キックオフで言ったとおりに実施する気が無い
→ 実施しなくても改善しない
→ キックオフで言ったことが無かったことになる
こうしたやり方しかできないのであれば、キックオフミーティングは無理に推奨しません。しても効果がない分、スケジュールを圧迫するだけだからです。正しいキックオフミーティングをすればプロジェクト成功率を大きく変えるほどの効果がありますが、正しくないキックオフミーティングなど百害あって一利もありません。
というかプロジェクトマネージャーの人選を見直したほうがいいでしょう。
いただいたサポートは、全額本noteへの執筆…記載活動、およびそのための情報収集活動に使わせていただきます。