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掛け算的情報整理で新しい価値を

新しい方法
新しい効率化
新しい発想 etc.

目まぐるしく変化する現代では常に新しいものが求められています。いまの時代ほど「変革(イノベーション)」が声高に叫ばれている時代はかつてなかったのではないでしょうか。

ですけど、新しい価値を生み出すことは容易ではありません。いくら既存のアイディアを積み上げても(足し合わせても)なかなかアッと驚くような発想にはならないものです。

既存のアイデアを再利用してもそれはただ活用しているだけで新しいアイデアとは言えませんし、既存の価値以上のものになることもそうそうないでしょう。しかもそのアイデアが完成されたものであればあるほど、ほかのアイデアと足し合わせることも容易ではありません。さらに、上手に足し合わすことができたところで3+3=6といったように、それぞれの価値がそれぞれの領域で発揮されるだけにしかならないでしょう。

そこで注目したいのが、掛け算的な情報整理術です。

以前、このような記事を書きました。

既存のアイデアに敬意を払い、既存のアイデアを活用しつつも、ただ模倣するだけでなく、そこに新しい価値発揮を生み出そうとする取り組みですね。

これはいわゆる「守・破・離」と同じ考え方だと私は考えています。

掛け算的な情報整理術とは基本的にはこの派生、あるいはさらなる応用と考えていただければいいのではないでしょうか。

新しい価値を生み出すには

みなさんは日常の中において「掛け算」と聞いて、何を連想しますか?

「底辺×高さ」とか「速度×時間」とか「平均×人数」とか「工数×単価」とか「規模×生産性」などを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。いずれにしても掛け算というのは「底辺」と「高さ」のように異なる意味をもつ数字どうしで行う計算となります。

私だったら以前

でも書いたように、

 「成果」=「生産性」×「時間」

をすぐに思い浮かべてしまいます。

"異なる意味をもつ数字どうしで行う計算"と言いましたが、もちろん掛け算そのものに制約はありませんので「人数×人数」「面積×面積」「金額×金額」という計算も当然ありえます。しかし、日常の中ではあまり行うことがありませんよね。これらの数字が持つ目的を考えると、基本的には足し算でしか用いる意味がないからです。

掛け算とは、そもそも1次元ではなく常に多次元で行うことを想定したものです。
そして、掛け算をした結果には、

底辺×高さ=面積
速度×時間=移動距離
平均×人数=合計の数
規模×生産性=仕事の工数
工数×単価=見積金額

のように面積だったり、移動距離だったり、合計の数だったり、あるいは工数だったり、見積金額だったりといった新しい意味の値が生まれます。

このことは、プログラミングをしたことがある人ならだれでもわかるのではないでしょうか。なぜなら配列の考え方は、掛け算の応用となっているからです。

目先の「個数」という抽象的な概念で言えば「個数×個数」と言えなくもありませんが、配列には縦や横、高さにそれぞれ意味を持ちます。その意味ごとに掛け算をしているわけですからやはり計算式は「m×n×…」と異なる意味ごとの掛け算になります。

一方、足し算はどうでしょう。

足し算は「個数+個数」や「時間+時間」のように同じ意味をもつ数字どうしでなければ計算として成立しません。そもそも1+1=2という概念もその前提で定められたものですしね。

もちろん、その結果として生まれるものも、

 個数+個数=個数
 時間+時間=時間

 のように、足し合わせた2つの数と同じ意味の値です。足し算の結果が新しい意味を持つと言うことは通常存在しません。


インスタントラーメン

「掛け算的発想」でイノベーションを起こした例は数多くありますが、インスタントラーメンを発明した安藤百福氏の「掛け算的発想」と言うものがあります。

高度経済成長の黎明期にあって安藤氏は、闇市のラーメン屋台に並んだ人々の姿と日本人が麺類好きであることから「お湯があれば家庭ですぐ食べられるラーメン」をつくろうと決意し、自宅の裏庭に建てた小屋でひとり研究開発に取り組みました。

なかでも麺を長期保存するための乾燥のさせ方は最大の課題で、夥しい数の試作を繰り返しても、どうしてもうまくいかなかったという話です。

完全に行き詰まり、考えあぐねていた安藤氏はある日、妻が台所で天ぷらを揚げているのを見かけます。

そのときでした。

麺と同じ小麦粉でできた天ぷらの衣が鍋のなかで泡を立てながら水分をはじき出している様子から、ついに麺を乾燥させる画期的な方法を思いついたのです。

安藤氏は早速麺を油で揚げてみると麺の水分が高温の油ではじき出され、麺をほぼ完全に乾燥させることができました。しかもそうやって乾燥させた麺にお湯を注ぐと、注いだお湯が水分の抜けた穴から吸収されて麺全体に浸透し、もとのやわらかい状態に戻ることもわかりました。

これが

 「天ぷら」×「麺」=「インスタントラーメン」

というイノベーションが生まれた瞬間です。当然、思考停止した状態で「麺は茹でるもの」「麺は天ぷらにするものではない」というどこかの誰かが決めた常識に固執する人には、この発想は絶対に生まれなかったことでしょう。

余談ですが、私は高校の頃にとあるスーパーの地下食品街で短期バイトをしていたことがあります。その総菜コーナーで、閉店後にいろいろな廃棄予定の食材を天ぷらにして新しい何かができないか試していたことがあります。

そこで「天ぷら」×「いくら」を試したら、「BB弾(のようなもの)」ができあがりました。ビックリするほどカッチカチに固くなってしまい、食べられる硬度ではありませんでした。

もちろん、実際に撃って試したことはありませんが、失敗事例とはいえ新しい何かが生まれた瞬間といっていいかもしれません。

安藤氏の掛け算的整理(発想)はこれだけではありません。

「チキンラーメン」が世に出てからおよそ10年が経ったころ、安藤氏は海外進出を目論んでいました。そんなあるとき、視察旅行で欧米を訪れた安藤氏は現地の人がチキンラーメンを小さく割って紙コップに入れて食べているのを見かけます。

日本では「チキンラーメン」は袋入りで丼に入れてお湯を注ぐスタイルで食べられていましたが、欧米には丼や箸を使う習慣はありません。そもそもの食習慣がちがうのです。

そこで安藤氏はカップに直接お湯を注いでフォークで食べるスタイルの新しいインスタントラーメンを開発することを思いつきました。その結果生まれた「カップラーメン」が世界的な大ヒットなったことはご承知のとおりです。

これも

 「飲み物用容器」×「インスタントラーメン」=「カップヌードル」

という掛け算の発想になります。

アイデアに行き詰まったときは大胆に異なるコンセプトどうしの掛け算を考えてみましょう。きっと新しい世界が見えてきます。そしてそれはとても数学的な発想でできるのです。

また、この考え方自体が難しいと思っている人は、発想を少し変えてみてください。

掛け算のもととなるそれぞれの題材は、どちらも世の中にすでにあるものを用いて実現できます。なにかゼロから新しいことを考えろと言っているわけではありません。今の現状に不満や困難があって、そこに別の価値観を掛け合わせようというだけです。

どちらも、既に存在しているものを用いて掛け合わせるのですから、あとはブレストで色々試してみればいいだけです。

たとえば、表計算ソフトとして有名な「Excel」はただの表ではなく、ただ計算ができるだけでもない、

 「表」×「計算」

を掛け合わせただけのシンプルなソフトウェアですが、これほどまでに親しまれ、広く使われています。

 「方眼紙だと表が作りやすい。ただの白紙から作るのは困難だ」
 「表では色々な計算を電卓で実施する。でも、方眼紙だけではそれができない」
 「じゃあ、両方できるようにしちゃえばいいじゃない!」

基となる材料は、何も画期的である必要はありません。

 既存の概念に固執せず、常に発想を柔軟に持つ

イノベーションを起こすために必要な資格はたったこれだけです。


因数分解は情報を増やすための式変形

因数分解を覚えていらっしゃいますでしょうか。

因数分解は分類の基本であり、マネジメントの基本です。

中学〜高校で嫌というほどやらされた因数分解。なかには数学そのものに対して嫌な印象しかない人も少なくないでしょう。

因数分解は、なぜあれほど繰り返し練習させられたのでしょうか。

もちろん生徒を苛めたいからではありません。

因数分解が重要なのは、それが足し算の形で与えられた数式を掛け算の形に直す式変形だからです。足し算の式から見えてくるものはわずかですが、掛け算の式から見えてくるものはたくさんあります。

因数分解とは数式の情報量を増やすための式変形です。
これが重要であることはいうまでもありません。

たとえば次の2次方程式を見てください。

このままでは情報量が足りず、この方程式の解を求めることはできません。
でもこれを因数分解して掛け算の形に直せば、

となり、「X」と「X+5」の積が0になることがわかります。
2つの数を掛けて0になるということは、少なくともどちらか一方は0だということですから、

または

ということになります(2次方程式なので解は2つあります)。
これより次のように解が求められます。

因数分解によって足し算を掛け算の形に変形すると、方程式を解くための情報量が増えて、「方程式の解」という新しい情報が手に入ることがわかるかと思います。


アイゼンハワー・マトリクス

アイゼンハワーは山積する仕事の優先順位をつけるため、横軸に「重要度」、縦軸に「緊急度」をとってそれぞれの仕事がどのカテゴリに入るかを考えていきました。

事実、この考え方は多くのビジネスシーンで取り入れられていると思います。

私自身も、一度書いたことがあります。

そうすると仕事は次の4つに分類されます。

重要度高 × 緊急度高:すぐに処理する
重要度高 × 緊急度低:個人的にじっくり行う
重要度低 × 緊急度高:人に任せる
重要度低 × 緊急度低:やとでやる/捨てる

重要度だけを考えたり、緊急度だけを考えたりするのは1つの方向からしか尺度を持たないため、1次元の数直線的なものの考え方です。

一方、重要度と緊急度を掛け合わせる(同時に考える)と2つの方向が生まれるので、2次元の平面的な広がりが生まれ、結果として「仕事の優先順位」という新しい意味が生まれます。

 「重要度」×「緊急度」=「優先度」

という掛け算で新しい価値を生み出したんですね。このように横軸と縦軸に異なる概念のものさしを用意して情報を整理するツールは「マトリクス(行列)」と呼ばれ、多くのフレームワーク思考術としてよく紹介されています。

マトリクスもまた掛け算的な整理によって新しい発想が生まれる好例です。

ちなみに、アイゼンハワーは自身が編み出した「アイゼンハワー・マトリクス」を引き合いに出して、

 「大事なことは緊急であることはほとんどなく、
  緊急なことが大事であることもほとんどない」

といっていたとか。実際にはそうでないケースもあるでしょうが、こう考えれば仕事が立て込んで切羽詰まったときでも冷静でいられるかもしれません。こう言ったライフハック的な気づきも掛け算的な整理の賜物です。

実際、マトリクスを用いた分析法や、管理手法はわたしたちの業界にも山のように存在しています。

たとえば、

 「タスク」×「期間」=「ガントチャート(スケジュール)」

となりますよね。

リスクマネジメントのSWOT分析なども

 「環境(機会or脅威)」×「要素(強みor弱み)」=「リスクマネジメント(SWOT)」

で成立します。

経営会議などで使われる表も「(色々な)数字 × 期間」を並べれば、各組織や会社の成長性または正当性などが評価できます。人材の評価なども、たとえば実績だけで見るのではなく「実力」×「実績」と言った形で定量的に見ることができれば、

(A)能力がないから、実績が出なかった(適材適所不良)
(B)能力がないけど、実績が出せた(再現性に難あり)
(C)能力はあるけど、実績が出せなかった(機会損失、適材適所不良)
(D)能力があるから、実績が出せた(適材適所)

といった見方が可能になります。

上司の好き嫌いや、一部の実績だけを切り取ってそれ以外をまったく見ようとしない一般的な人事制度などに比べるとはるかに精度の高い評価が可能になることでしょう。

たとえば(A)であれば、役割定義を見直した方が会社にとっても、本人にとっても間違いなく幸せでしょう。(B)であれば、次のステージへ進ませられはしませんが、報奨などで報いたいところです。(C)であれば、配置換えなどを行ってパフォーマンスの最大化を検討すべきです。(D)であれば、次のステージを用意する検討を始めたほうがいいと言えるでしょう。

他にも、市場開拓をする営業的な活動事例をあげてみましょう。

たとえば、みなさんはとある日本酒専門の酒屋(個人経営)の店主から、商売の新規開拓について相談を受けたとします。

現在の主要顧客は「サラリーマン」で、主に扱っている商品は「日本酒」です。

次のAとBのうち、より合理的な判断はどちらでしょうか。
理由をつけて答えてみてください。

(A)OL向けに希少価値のあるワインの品ぞろえを充実させる。
(B)OL向けに日本酒の美味しさをアピールする広告戦略を考える。

こうした事例では、事業において多角化を考えるときに使う「PMマトリクス」と呼ばれるものを使うのが一般的です。PはProduct(製品)、MはMarket(市場)の頭文字です。

この2つを軸にしてマトリックスをつくると、

(A)「既存製品・既存市場」
(B)「既存製品・新規市場」
(C)「新規製品・既存市場」
(D)「新規製品・新規市場」

という4つの分類が生まれます。

この酒屋は日本酒専門店であり、かつ主要顧客はサラリーマンなので、現状は

 既存製品=日本酒
 既存市場=サラリーマン

ということになります。

(D)の「OL向けにワイン」は「新規製品(ワイン)・新規市場(OL)」になりますから、どちらも未知数です。リスクの高い危険な新規開拓になるので、合理的な判断とはいいがたいものがあります。

一方、(B)の「OL向けに日本酒」は「既存製品(日本酒)・新規市場(OL)」です。すでに自信のある製品を新規市場に展開するのでリスクは少なく、もし新規市場の掘り起こしに成功すれば大きな売上増が見込めます。(B)の新規開拓は十分合理的であるといえるでしょう。

また、(C)の「サラリーマン向けにワイン」というのも「新規製品(ワイン)・既存市場(サラリーマン)」ですから、リスクはそう大きくなく挑戦する価値があります。

いずれにしても、製品と市場の新旧を同時に考えることで、多角化のための「事業企画」という新しい価値が生まれることを知っておきましょう。

これは、

 「製品の新旧」×「市場の新旧」=「事業企画」

という掛け算の発想です。

単純に

 「うちは〇〇が苦手だから」
 「〇〇と言う市場に興味ないから」
 「〇〇が面白そうだから」
 「世の中では、〇〇が流行りと言われているから」
 「〇〇に関する件で、××さんと懇意になっているから」

等、一次元の根拠で判断や決断を行っても物事を一方向からしか見ていないという時点で視野が狭く、視座が低くなるだけでなく、リスクを考慮に入れにくいという問題が浮き彫りになり、結果として計画性が見込めない(先が読めない)状況に陥ってしまう可能性もでてしまいます。

それらをできるだけ回避するには、物事を多次元(掛け合わせ)で考えることがよりベターとなってくるのです。

こうしたことはビジネスの多くのシーンで活用できるのは言うまでもありませんが、だからこそ子供のうちから「かけ算」的な考え方を養わせておくのはとても意味のあることなのではないでしょうか。

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