ジェイソン・ボーンより良い / 「スパイ・ゲーム」
前回の記事でブラッド・ピットの出世作となったロバート・レッドフォード監督の「リバー・ランズ・スルー・イット」について書いたが、この二人は2001年のトニー・スコット監督の映画「スパイ・ゲーム」で共演を果たしている。
トニーは兄のリドリー・スコット監督と同じくハリウッドで活躍し、2012年に自殺してしまったが、「トップガン」や「トゥルー・ロマンス」など多くの映画を遺した。
「スパイ・ゲーム」はその名の通り、スパイものである。007をはじめスパイ映画はサスペンスや追跡劇などエンターテイメントの要素が詰まっているので、どこの国でも大量生産されるジャンルなのだが、本作はその中でもよく出来ている。
ベテランのCIA職員ミュアー(ロバート・レッドフォード)が最後の出勤日を迎えたところ、かつての愛弟子だった工作員ビショップ(ブラッド・ピット)が蘇州で捕まったという連絡が入る。ビショップの拘束は米国と中国の間で間も無く交わされる予定の貿易協定の障害になるとCIA本部は判断するだろうと予見したミュアーは、あの手この手でビショップを救出しようとCIA本部の中で工作活動を始めるのだったーー。
この映画の脚本が良かったところは、物語は現在(劇中では1991年)で開始するものの、多くの時間を回想シーンにすることによってビショップという工作員の姿を描き出し、現在の救出劇の意義を観客に伝えたことだ。時系列のまま南ベトナムから始めてレバノン、そして中国と移り変わっていけば、当然のことながらビショップが囚われるまでに観客は飽きてしまう。観客の注意をまず引きつけるシーンから始めて、どうしてそうなったのか、と説明していく手法は多くの映画が採用しているものの、「スパイ・ゲーム」のように上手にまとめている作品は少ない。
また、数手先まで読んで行動することの重要さがよく伝わる映画だ。中国の古典にも、"賢い者は何が起きるか事前に分かる、バカは事が起きてしまっても何が起きたか分からない"という言い回しがある。蓋し名言である。
余談になるが、ブラッド・ピットは本作に出演するために、映画「ボーン・アイデンティティー」のジェイソン・ボーン役を断ったという。それはそうだろう、自分のキャリアを開いてくれた恩人レッドフォードと共演できるのだから、ブラッドは喜んでこの役を引き受けた筈だ。
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