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まるでベトナム戦争 / 映画「ザ・ビーチ」

ピピ・レイ島のマヤ湾を訪れた時、The Beach と口走っていた。上掲の写真は僕が撮影したものだ。いったい世界中でどれだけの人が映画「ザ・ビーチ」を観てここを訪れたのだろう。レオナルド・ディカプリオが「タイタニック」の次に主演した映画ゆえ、タイの観光に多大な寄与をした映画だ。
さて、本作は「地獄の黙示録」の番外篇のような映画だとお気付きだろうか。
リチャード(レオ)がバンコクのカオサン通りの安宿に泊まった際、他の観光客が観ていた映画は「地獄の黙示録」なのだ。つまり、小説「闇の奥」ではマーロウがジャングルの奥地に行ってクルツのいる出張所を目指す、という構図が、リチャードがタイランド湾の島の奥地に行ってヒッピー村へ辿り着く、というパロディになっている。
ちなみに、この安宿のシーンはプーケットの旧市街に建つオンオンホテルというゲストハウスで撮影された。ディカプリオも宿泊したという。僕が訪ねてみるとホテルに改修されていたものの、かつての面影を残していた。映画のファンなんだと従業員に言うと、好きなだけ見ていってくれ、とタイらしい対応だった。
このシーンでリチャードは、ヤクでキマッているダフィと名乗る男からザ・ビーチの話を聞く。リチャードもヤクをキメたからこの映画そのものがトリップした脳の映像、という乱暴な解釈もできるが、ダフィは Daffy Duck だ。「ルーニー・テューンズ」というアニメに登場するイカれた鴨である。「闇の奥」にてクルツを崇拝しながら出張所で息絶えた青年の役どころだろう。
さて、リチャードたちが辿り着いた”出張所”はヒッピー村である。「地獄の黙示録」はベトナム戦争の映画なのだから、ヒッピーが登場せねばならない。ここを支配するサル(ティルダ・スウィントン)という女がクルツあるいはカーツ大佐なのかと思って観ていたのだが、リチャードが悶着を起こし、頭に布切れを巻いてランボーになってからが「ザ・ビーチ」のオマージュ大会の始まりである。
僕は一度か二度しか本作を観ていないのでハッキリしたことは言えないが、ジャングルをリチャードが駆け回るシーケンスで僕が気付いたパロディは「ランボー」「プラトーン」「地獄の黙示録」である。きっと他のベトナム戦争の映画もあることだろう。そして、ヒッピー村でサルとロシアンルーレットをやるシーンはもちろん「ディア・ハンター」だ。
このシーンを経て僕はリチャードがクルツになることを期待したのだが、タイ人に怒られて帰国となった。米軍がベトナムから撤退したように、違法な観光客がタイから撤退したわけである。せっかくランボーになったのに、尻すぼみな終盤となったことは否めない。
このように、小説「闇の奥」の舞台をベトナムに移した映画が「地獄の黙示録」であるように、「地獄の黙示録」をタイに移動させた映画が「ザ・ビーチ」である。テーマが人間の愚かさではなく”観光客の愚かさ”になったと言えるかもしれない。
しかしマヤ湾は美しかった。コロナで日本列島が大騒ぎしている時だったので、帰国したくない!とヒッピーのような気分で過ごしたひと時だった。

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