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down the river 第一章  第三部〜崩壊①〜

「うぅ…。」

ユウの苦悶の声が静かに響く中、亮子はベッドに腰かけ、満足げにカッターナイフをチキチキと出し入れをしている。

ユウは裸のまま亮子に血まみれの臀部を向け、四つん這いになり、恐怖なのか痛みに対してなのかフルフルと震えながらの背中に亮子の足を乗せている。
部屋の床には血痕が点々と散在していて茶色い水玉模様の様だ。

「ユウ。」

「…」

「返事しないの?」

亮子はカッターナイフをユウの臀部にヒタリと付けるとユウはビクッと反応を示した。

「返事…ユウ…。」

低い声で亮子が囁く。

「は…ゥ…い!ぅう…」

亮子はユウに乗せていた足を退けると、立ち上がり部屋を出て行ってしまった。
ユウはそのまま動けない。ユウは亮子の指示無しで動くと制裁が待っていると思い込んでいる様だ。
この時点で、カッターナイフという指揮棒を持った亮子という指揮者とユウの間には主従関係が確立されたと言える。

バタンと部屋の扉が開き亮子が薬箱を片手に戻ってきた。

『て、手当てしてくれるのか?終わった…良かった…。』

亮子はユウの臀部側の床に直接座り込んだ。

「ユウ、いい眺め。綺麗…。」

亮子の位置からユウの全てを見ることができる。
臀部の傷跡、そこから垂れてくる血、肛門、男性の象徴、重力に引っ張られて垂れる腹肉と、女性の様な胸、涙と鼻水、涎を垂らし、眉間にシワを寄せ歯を食いしばる顔、どう見てもおぞましい光景ではあるが亮子にとっては、早朝の学校のベランダでユウと2人で見た、あの綺麗な風景とどうやら同じ土俵らしい。

「もう少し痛いよ?が、か、がま、我慢してね?」

「我慢って…もう…止めてく、止めてください…。」

泣きながら懇願するユウを無視して傷跡の下側にガーゼを当てると、オキシドールをユウの臀部に振りかけた。

「ング!」

ユウの身体がビクッと跳ね上がる。

ユウの悲鳴を無視して亮子は臀部の傷跡を広げながらオキシドールを振りかけた。

「凄い!傷跡がショワショワしてる!ねえ!痛い!?痛い!?」

「…イ…ダイデす…。」

亮子はニッコリと笑うとユウの手当を進めた。

・・・

ユウは服を着て床にアヒル座りをしている。傷が痛むので尻は床に付けていない。ベッド側に亮子が座っている。

「ユウ見て。」

「これは?一体どういう?なん…」

亮子は急に上半身下着1枚というあられも無い姿になったがユウは興奮などよりも驚きの方が遥かに勝っていた。

「り、亮子さん、この傷は?」

ユウは1連の流れで、自然と亮子さんと呼び、敬語で話をする様に変化してしまった。

「自分でやった。」

「そんな…自分でって一体なん…」

「私は病気なの。自分で自分の身体を傷付けていないと生きている気がしない。わかってほしいとは言わないけどさ、止めないでほしいよね。親達もさ。病気って言っても理解できないのはまあわかるよ。でもねぇ…」

ユウの言葉に被せて亮子は事情を説明した。
その身体の傷跡は凄まじく、左右の鎖骨から胸の上部までバツ印に切り傷があり、更に細かい傷跡が腹部にもいくつも存在していた。
亮子はハァとため息を1つ吐き出すと真っ白なブラジャーを外し始めた。

「亮子さん、ダメです!」

「ユウも見せてくれたじゃない、色んな1面をさ。」

「しかし…」

亮子がブラジャーを外すとユウは右手で口を押さえ絶句した。

「どう?私こんなんよ?あなたの比じゃないくらい異常だわ。」

「は、う…り、りょ、亮子さん…」

左乳房には縦に深い切り傷の跡があり、右乳房は乳輪が無く、縫った痕跡がある。

「これはさすがに両親は泣いてたよ。そりゃ泣くよね。でも、どうにもならないよ。どうにもね。」

「亮子さん…。」

「悪いけど、ユウのお尻をスーッと切った時、自分の身体を切った時みたいな気持ち良さだったよ。自分以外の人間がさ、恥ずかしい思いをして、恥ずかしいカッコして、自分の言いなりになって、黙って痛みに耐えながら恥ずかしい部分を切られる。本当に信じられないくらいに気持ち良かった。ごめんね?痛かった?」

ユウは臀部に10ヶ所近く切り傷を負わされた。それも目立たない場所や、目につかない肛門周辺だ。消毒をして簡易的に手当をしてくれたのだが、熱を持ち、今もズキズキと脈を打つように痛む。痛かった?の質問にユウは何も答えることができなかった。

「つ、辛かったんですね…」

「知らないわ。病気だし。ずっとこんなんだから辛いかどうかわかんないよ。私にとって普通、日常、当たり前のことだからね。なんでこうなったかもわかんないし。」

「俺は…ど、どうすればいいですか?」

「どうすればいいって?」

「亮子さんに対してです。俺は、タカち…有田とセックスする様なヤツです。要は有田のおもちゃ、奴隷なんです。でも俺は亮子さんのおもちゃでもあります。どうすればいいのかわからないんです。」

「どっちか選べとは言わない。」

「俺は普通に…普通になりたいんです…。」

「ユウ、もう普通になんかなれないよ。有田敬人くんの身体無しで生きていける?いや、もっとだよ。男無しで女だけで生きていける?男同士であんなに気持ち良さそうにしてる人間が普通になんて戻れないわ。そしてこっちも…。」

亮子はユウの目の前に足の裏を差し出した。

「え?」 

「綺麗にして」

ユウはうっとりとした表情を浮かべると両手で亮子の足を愛おしげに掴み、犬の様に愛情深く舐め始めた。

「そのまま聞きなさい。ユウ、私は舐めて綺麗にしろとは言ってないよ?」

ユウは無心に亮子の足の裏を舐めている。

「普通に戻れるの?ユウ。」

「…」

「ユウ、舐めながら聞いて。男同士でしてもいいよ。ただ私のおもちゃでもあり続けて。有田敬人くんに私とユウの関係を全部言って。いい?当然だけど藤田、美沙や他のクラスメイトには言ってはだめよ。あくまでも言っていいのはユウの主人である有田敬人くんだけよ?他に言ったらあなたと有田敬人くんとの関係をばらす。あとこうやって私の足を嬉しそうに舐めていることもね。有田敬人くんにもしっかり口止めしといてね?いい?」

「は…い。」

『もう普通には戻れないってことか』
とユウは考えた。
亮子はユウに自分の傷跡をさらけ出し、自分のこと、自分の異常性もさらけ出した。
異常性の共有と、痛みによる支配、そして性衝動の発散が三位一体となったことでユウの中で「亮子さんは信頼に足る人だ」と承認された。
そして亮子と敬人という2人の主人に支配されるという快楽への期待がユウの心を捉えて離さない。

「亮子…さま…。」

自然と出た言葉と共に、僅かに残っていた普通への憧れは今、完全に崩壊した。


※次回更新は3日後となります。

今シリーズの扉画像は
yuu_intuition 氏に作成していただきました。熱く御礼申し上げます。
yuu_intuition 氏はInstagramに素晴らしい画像を投稿されております。
@yuu_intuitionでInstagramを検索して是非一度ご覧になってみてください。

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