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我思ふ Pt.127 過去の古傷13

↑続き

ギタリストの住まいは小さな借家だ。
母子家庭で育ち、母親はスナックのママさん。
私がお邪魔した時間はスナック営業時間真っ最中なので母親は不在だ。

薄暗い部屋でパソコンを操作するギタリスト、その後ろで煙草に火を点ける私。

「仙台までだな。仙台までしか夜行バス出てねぇわ。そっからは電車になるよ。」

「せ、仙台…ってどこだっけ…?」

そう。
今さらだが私は空前絶後の馬鹿である。
自慢じゃないが、国語と英語以外は公立中学校一年生に負ける自信がある。

「ここ。ここだよ。仙台って。」

ギタリストは地図帳を開き、私に教えてくれた。

今みてぇにな?スマートフォンでマップアプリ開いてここですよーなんてできねぇんだわ、この時代はよ。

「で?山形の○○町は?」

「ここ。」

ギタリストは地図帳で美結がいる町を指差した。

「け、結構離れてんのな。仙台から。」

「まぁ、でも電車なら早いんじゃね?」

仙台駅から美結がいる町までは100kmはある。
電車とはいえ、中々時間がかかりそうだ。

「うぅん、まぁそうか。で?費用は?どんくらいかかんの?」

「うん、ちと待てよ。調べてみっから。」

「あぁ。頼むよ。」

私はふぅと煙草の煙を吐いた。
ふと時計を確認すると、美結に電話をする時間であることが判明、すっかり忘れていたのだ。

「悪い、ちょっと外行くぜ?電話してくる。」

「おん、んじゃ調べとくから。」

私はギタリストに断りを入れて外に出ると、美結に電話をかけた。
この習慣もだいぶ板に付いてきたものだ。
中々電話に出ない。
何事だろうか。
不安感をかき消すように煙草を思い切り吸い込んだその時、美結が電話に出た。

「も…し…し…た、た…ける…さ、様…」

「み、美結?」

美結の様子がおかしい。
声がかすれて、覇気がまるでない。

「美結、どうした?」

「い、…ま…ね?」

「あぁ、あ、あぁ、ゆっくりでいい。」

「う…ん…い、今…い、今…ね…?」

「あぁ…いいぞ…ゆっくり、ゆっくりだ。」

何となくだがこの時、美結の様子を察する事ができた。
恐らく爪をかじり、ひん剥いている時の私と同じだろう。
恐らく美結は自傷行為をしている。

「あ、あのね…?た、ける様…」

「美結、無理に話さんでいいよ。辛いんだろ?辛くて、それを誤魔化す為に…リストカットしたんだろ?それで今、ぼんやりしちまっている、そうだろ?」

「へぉえ…?た、…ける様、なんで分かんのォ…?」

「美結が教えてくれたんじゃないか。美結と俺は同じだって。だから分かるんだよ。」

「ウッ…た…け…る様ぁ…やっぱり…うぅ!ウッウッ…」

美結は泣き始めた。
分かる。
理解できるのだ。
手に取るように美結が分かるのだ。

「美結…泣いていいよ。今の俺は…美結の前では強いから、強くいれるから。」

「た、た、…うう…たける様ぁ…!うわぁん!あぁ!」

美結は声を上げて泣いた。
すぐに泣き止んだがその泣き声は私の心をえぐった。
良くも悪くも私の心を深くえぐった。
そう、良くも悪くもだ。
早く美結と会わなければならない、そして二人の絆を確かめなければならないという強い思いと同時にモクモクと妙な感情が私の心の底に広がっていくのを感じた。


続く

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