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【創作小説】佐和商店怪異集め「クッキー」

二十四時間営業でないコンビニ佐和商店の話。

私・芽吹菫は、休憩中に事務所で自作のチョコチップクッキーを食べていた。
思い立って夜勤前に急に作ったが、いつも通りちゃんと食べられる味だ。
スマホを見ながら無心で食べてたら、榊さんが入って来た。
「何食べてんの?」
「自分で作ったクッキーです」
榊さんは目を丸くする。
「すみちゃんお菓子作れんの?」
「え。何でそんな驚くんですか……簡単なものなら作れます」
言えば、榊さんは物欲しそうな目で保存袋に入れたクッキーを見てくる。
「俺も食べたい。見たら腹減った」
「いいですけど。味の保証はしませんよ。お腹壊しても責任とりませんからね」
「すげー念押すじゃん……」
そりゃまあ。榊さん後でぐだぐだ言ってきそうだし。引いた割にあっさりクッキーを取ると、むしゃむしゃ食べ始めた。
「美味い!好きな味だな、俺は」
あっという間に二枚目へ手を伸ばす。本当に気に入ったらしい。
「残り少ないんで、食べられるなら全部食べて良いですよ」
「良いのか?悪いな」
全く悪く思ってなさそうな声音で言うのを聞きながら、私は立ち上がる。
スマホも仕舞った。休憩は終わりである。
事務所のドアを開けると、倉庫の方からドン!と大きな物音がした。びくりと肩が跳ねる。急に音出すの止めてほしい。話し声も微かに聞こえてくる。無論、倉庫は無人だ。
倉庫を見ながらとりあえずカウンターに出ると、榊さんも事務所から出て来た。やはり、倉庫を見ている。聞こえたらしい。
「お菓子さ、頼んだら作ってもらえる感じ?」
「え?ーーあ、いえ、そんな難しいやつは作れませんよ」
「いつも何作ってんの?」
「クッキーとかパウンドケーキとか、」
「じゃあ次パウンドケーキだな」
「何て??」
何を言ってるんだこの人。
勝手に話が進んでいく。……仕方ないなあ。
「……好きな味とかあるんですか?」
そのタイミングで、また倉庫がドンと鳴る。一瞬二人で倉庫を見た。榊さんは会話を続ける。
「すみちゃんがいつも作ってる味が良い」
私も倉庫を見据えたまま、話す。
「……気が向いた時だけですよ」
榊さんが私の方を向く。
「それでじゅーぶん」
上手いこと乗せられた気がする。何だろうこの敗北感。
「……食べたし、働くか。ーー今日はクッキーに免じて、俺が倉庫行ってやろう」
「だから何で上から目線なんですか……」
更に何か言おうと思ったけど、榊さんがやけに楽しそうに笑うから。ーー結局言葉は飲み込んだ。

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