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【短編ホラー小説】短夜怪談「ラジカセ」

何年も前、我が家に友人が遊びに来た。
部屋でひとしきり遊び、話し、さてそろそろ帰ろうかと言う頃。
自分たちの前に置いていただけのラジカセから、突然音楽が流れ出した。声も無く、私たちはラジカセを注視する。
「私ら再生ボタン押してないよね」
「うん」
私はそう言うのがやっとだった。停止ボタンを押すと、あっさり止まる。
「……ね、見て」
友人が何か指差している。震えていた。見れば、ラジカセの電源コードはコンセントから抜けたままになっていたのだ。呆然としていると、また音楽が流れた。何かラジオ番組の一幕のようだが、パニックになり直ぐ止める。しばし無言。
「あの、帰るね」
「気をつけて」
友人が帰ったその日は、もう何も起きなかった。だが、それから直ぐ。そのラジカセでラジオや音楽を聞いていると、人間の呻き声のようなものが流れるようになり、段々酷くなった。他に一切の故障も無いから惜しかったが、とあることが決定打となり、結局そのラジカセは処分した。

「とあることとは?」
私が聞くと、彼女は苦笑いを浮かべた。
「それまで呻き声だけだったんですけど、ある時突然『もっと聞いてくれるんだよね?』って若い女の声が聞こえたんです。それでもうダメだなって」
当時では結構良いものだったので、残念です。
と、彼女は笑って頭を振った。

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