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【短編ホラー小説】短夜怪談「公園のベンチ」

会社近くの公園には、木製のベンチがいくつかある。昼時などは、多くの人々が利用するのを見掛けた。だが、一つだけ、いつ見ても誰も座っていないベンチがある。周りのベンチはどれも人で埋まっているというのに、だ。ある日の昼休み。後輩を伴って食べに出る。件の公園に差し掛かった時、後輩の顔が曇った。
「どうした?」
「この公園のベンチ、嫌なんですよね。奥にあるやつ」
「ベンチ?」
言われて、公園内のベンチを見る。あの、誰も座っていないベンチが直ぐ飛び込んで来た。
「どっかの家か、建物の廃材使ってるんでしょうけど……」
それ以上言いたく無さそうだったが、気になる。昼飯を豪勢にする交渉をしたら、話してくれた。
「……多分、元は事故物件か曰く付きの建物のものだったと思うんですよ。このベンチの上に、いつも首吊った男が浮いてるんで。浮いてるだけなんで、木の記憶だけ残ってるのかもしれないですけど。でも、そんなもんの下に座りたくないじゃないですか」
「じゃあ、いつも誰も座ってないのって」
「首吊りが視える人は、そりゃ座らないでしょう。視えなくても、落ち着かないんじゃないすか。人間の感覚って、割と合ってますよ」
後輩は早足で公園の脇を歩いて行く。ベンチを見た。自分には、何も視えない。後輩が振り向く。
「信じる信じないはご自由ですけど。座ってみます?」
静かに首を横に振って、後輩の後を追った。

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