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読書感想文 千早茜「しろがねの葉」

戦国時代末期から江戸時代にかけて石見銀山に生きた女性ウメの一代記。

とある農村に生まれたウメは、凶作に見舞われた村から両親に連れられて夜逃げする途中で一人はぐれてしまう。何日も山中を彷徨った末に石見銀山に辿り着き、山師の喜兵衛に拾われる。

食べられる草や薬になる草、銀山にまつわる様々なことを喜兵衛から教えられたウメは他の子供らと共に銀を掘るための坑道である間歩で働くようになる。しかし、女人禁制である銀山でウメが働ける期間はそう長くはなかった。

ままならない現実や理不尽に挫けることなく逞しく生きたウメの姿を描いた作品。

石見の女は3人の夫をもったという。そのくらい銀を掘る銀掘(かなほり)たちは短命だった。銀を掘る際に出る有毒物質に身体を侵されて、長くは生きられないからだ。そして最期は喀血したり、咳が止まらなくなったりして苦しみながら死ぬ。坑道での事故に巻き込まれて死ぬこともある。

銀山に生きる者なら誰でも知っていることだ。所帯を持っていたら、妻や子供を残して逝くことになる。それでも、銀山に生まれた男たちは銀掘に憧れ、銀山で生きる道を選ぶ。銀山から離れれば、長く生きられる可能性が高まるのに、なぜ彼らは身体が限界を迎えるまで銀を掘ろうとするのか。なぜ女たちは短命であることが分かっている男と夫婦になるのか。

その理由は、はっきりとは分からなかった。ただ、ウメの夫となった隼人の言葉が印象的だった。

「けど、俺はな、間歩を知らんお前では愛しいと思わんかった」
(中略)
「間歩に拒まれて、躰がもう間歩に耐えられんようになって、やっとお前の悔しさがわかった。間歩はおぞい場所じゃ。じゃが、俺らの稼ぎ場だ、生の糧だ、俺らを繋ぐ大きな大きな命じゃ」

大量の銀が出る山に一獲千金を狙う多くの男たちが集まり、彼らを相手に商売をする者も増え、石見の町は大いに栄えた。

町の繁栄の裏には、短い生を生きる男たちの覚悟があった。間歩には底なしの暗闇が広がっているという。人を寄せ付ける銀の輝きと人を飲み込む間歩の闇。それが、真っ当な理屈を越えて多くの人を惹き付けたものかもしれない。

そして、自らの運命を知った上でそれを受け入れ、向き合う男に女は惹かれたのかもしれない。

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