読書感想文 川瀬七緒「法医昆虫学捜査官」
放火されたアパートの一室から発見された焼死体の体内に大量のウジが湧いていた。警視庁はこの謎を解明すべく、日本で初めてとなる法医昆虫学の導入を決める。
起用されたのは大学の准教授をしている昆虫学者・赤堀涼子。
殆どの捜査員が素人が捜査に加わることに反発していた。しかし、現場に赤堀と同行することになった刑事・岩楯は、研究室にこもって理屈をこねくり回すのではなく、自ら現場に出て証拠を集め、そこから読み取れることから仮説を立て、一つずつつぶしていく赤堀の姿勢に次第にシンパシーや信頼を感じるようになる。
あけすけで奔放に見えるけれど、真摯に自らの役目に向き合う涼子の姿にじんときた。
また、一見冷めているように見えて実は情に厚い岩楯との徐々に変化していく関係性も注目。
被害者である乙部みちるの体内から発見された成長速度の異なるウジ。
臨床心理士だったみちるの、過剰なまでに患者に肩入れし、そのためにルールを破ることも厭わないスタンス。
みちるのカウンセリングを受けた後に失踪した5人の子供たち。
現場で見つかったクロスズメバチの幼虫の欠片。
捜査が進むにつれて、様々な事実が明らかになっていくのだけど、どう繋がってくるのかがなかなか見えてこない。
現場の虫から果たしてどのような真相が導き出されるのか?
本作の大きなテーマである法医昆虫学とは「科学捜査の一環として用いられる法医学に昆虫の生態を応用した」ものであり、代表的なところでは遺体に湧くウジの成長度合いによって死後経過時間を割り出したりする。
欧米では既に犯罪捜査に欠かせないレベルに達しているが、日本はまだまだ遅れている。
それだけに自分の捜査への貢献度次第で今後の日本の法医昆虫学の未来が変わる。
そのことを切実に感じている涼子は、懸命に「虫の声」を聞き取ろうとする。
また、バッタに寄生するハエを捕まえて来たる蝗害に備えたり、畑の作物を食い荒らすカメムシを幼虫の段階から駆除したりと、本作では犯罪捜査以外の場面における昆虫の有用性も示している。
昆虫を調べることでこれほどのことが分かるのかという蘊蓄も興味深い。
法医昆虫学が導入されれば、日本の犯罪捜査も変わるかもしれない。そう思える一冊。
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