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読書感想文 織守きょうや「花束は毒」

法学部に在籍する木瀬芳樹は、中学時代に家庭教師として世話になった真壁研一が、結婚を前にして「結婚をやめろ」という内容の脅迫状を送られていることを知る。

木瀬は探偵を雇って調査してもらうことを真壁に勧め、真壁も一度は前向きだったが、なぜか途中で尻込みしてしまう。

そこで、木瀬は真壁に実害が及ぶ前にと、自分で探偵事務所に脅迫状の差出人を突き止めてほしいと依頼する。調査を担当することになったのは、木瀬の中学時代、同じ学校に通う従兄に対するひどい虐めをやめさせてくれた先輩・北見理花だった。

北見による調査の結果、真壁は強姦で逮捕された前歴があることが分かった。真壁自身は無罪を訴えていたが、真壁に不利な証拠が見つかるばかりで、裁判になっても勝てる見込みは限りなく低かったので、弁護士の勧めに従って示談することにしたのだった。

被害者側との示談が成立したために起訴まではいかず、前科は付かなかったものの、逮捕の噂が大学中に広まり、知人友人は離れていき、嫌がらせを受けるようにもなったため、大学を中退し、引っ越しを余儀なくされた。

真壁が探偵に依頼することを躊躇っていたのは、過去の事件を木瀬や婚約者に知られることを恐れたためだった。

例の脅迫状の送り主は強姦事件の被害者、もしくはその関係者の可能性が高い。そう判断した北見はその線で調査を進めていった。

この一件にはいくつか不自然な点があった。

文体が統一されていない脅迫状。

真壁の過去の事件を直接糾弾せず、遠回しな表現をしていること。

それらが繋がった時、衝撃の事実が明らかになる。

それは、探偵の仕事の中で様々な人物を見てきたであろう北見をして「背筋が冷えた」と言わしめる程の狂気だった。

そして、木瀬は自分が知ったことを相手に伝えるか否かの選択を迫られる。

中学時代、北見は木瀬の従兄への虐めをやめさせてくれた。その結果、従兄は安心して学校に通えるようになったし、明るさを取り戻していった。木瀬はそのこと自体には感謝しつつも、当時の北見のえげつないやり方やその結末に対して決して納得していたわけではなかった。

北見によって、虐めの主犯格だった生徒は学校という狭い社会において実質的に抹殺され、それを見た従兄は笑った。

自分をひどい目にあわせた相手がひどい目にあっているのを見て、喜びを感じるのは自然なことだと理性では分かっていたけど、それでも尚、他人の不幸を喜ぶ従兄の姿など木瀬は知りたくなかった。

確かに世の中には知らない方が幸せということもある。そして、一度知ってしまったら、もう知る前には戻れない。

中学時代の一件の依頼人は従兄であり、木瀬は当事者ではなかった。

そして今、依頼をした当事者として木瀬は選ばなければならなかった。今度こそ自分の納得のいく結末にするために。

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