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読書感想文 今邑彩「ルームメイト」

大学進学を機に上京した萩尾春海は、一人暮らし用の物件を探していた時に西村麗子という女性と出会う。同い年で、同じ事情を抱えていた麗子と春海は意気投合し、家賃折半でルームシェアを始めた。

いくつかの取り決めをした上での共同生活は快適だったが、しばらくして麗子の様子がおかしくなる。服や食べ物や音楽などの趣味がガラリと変わったのだ。

とはいえ、ルームシェアを始める上での取り決めの一つに「互いのプライバシーに干渉しない」という項目があったため、麗子の豹変を訝しく思いつつも春海は踏み込んだことは聞かなかった。

そして突如として麗子は失踪してしまう。麗子に一体何があったのか、探るために様々な手掛かりを辿っていった結果、

18歳の東京の大学生・西村麗子
25歳の横浜の人妻・平田由紀
クラブのホステス・マリ

といった具合に、麗子にはいくつもの顔があったことが分かる。そしてある人物からの情報により、麗子の本名は青柳麻美で、実年齢42歳、バツ2、18歳の娘がいるということが分かる。

麻美にまつわる情報から、春海の大学の先輩の工藤は麻美は多重人格者ではないかと考える。麻美が見せていたいくつもの顔は、その都度違う人格が出ていたと考えれば説明がつく。

その上、麻美は新宿のホテルで起きた英会話スクールの経営者殺しに関わっている可能性がある。

春海が工藤と共に麻美の住むマンションを訪れると、麻美は何者かによって殺されていた。

工藤の従兄でフリーのライターの武原は、新宿の事件を追う過程で浮上してきた麻美について調べていた。麻美が多重人格者の可能性が高いことを工藤から聞いた武原は俄然興味を示した。

しかし、新宿の事件が起きた時、麻美にはアリバイがある。でも、動機の面から考えると、麻美が犯人として有力だ。そうなると、殺人を実行した共犯者がいる可能性が高い。そう睨んだ武原は共犯者探しに乗り出す。

その結果、麻美がかつて親しくしていたホステスに託した、犯人との会話を録音したテープを入手する。

テープをの内容を聞いた武原は事件の犯人を知ったものの、なぜか警察に届け出なかった。そうしているうちに武原も殺されてしまう。

さらに奇妙なことに、武原は真相が録音されたテープと、その内容を聞いた後の対応を従弟である工藤に任せるというメッセージを遺していた。

そのメッセージの中で武原は今回の事件を「前代未聞と言っていいほど、きわめて特異な事件」で、「今の日本の警察や裁判所では、この事件を扱いきれないのではないか」と危惧していると述べている。

件のテープの内容を聞いて真相を知った工藤は苦悩する。もしも真相が明るみに出ることになれば、罰を受けなくていい人まで傷付くことになる。では、どうやって犯人に罪を償わせればいいのか?どうやって事件に決着をつければいいのか?

恐ろしい真相に戦慄した。また、本作のような事件は現在の司法でも裁くことは困難だろうと思った。

工藤は果たしてどのような選択をするのか。

#読書感想文
#推薦図書
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