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「コンデインターン」 - 他人を決めつけたらそこで終わり

★★★+

2020年、「フォレスト」に続いてのパク・へジン主演作だったこちらの作品をようやく観ました。恋愛モノないしノワールのイメージが強かったパク・へジンが比較的一般的なサラリーマンをどんな風に表現するのかにワクワク。

パク・へジンが演じるのは大手食品メーカーのオンゴルでインターンとして働くヨルチャン。自分なりにアイディアを出したり、就職のために一生懸命がんばるヨルチャンですが、見た目からして前時代的な超パワハラ上司のイ・マンシク(キム・ウンス)のイジメの標的になり、何をしても認められず苦労を押し付けられ、ボロボロになって退職することに。死ぬことすら考えるのですが、このままでは終われないとそこから再起を誓い、5年後、ヨルチャンはオンゴルのライバル企業であるジュンス食品でヒット商品を開発し異例のスピード出世で部長になっていました。そしてそんなヨルチョンのチームに、ある日シニアインターンとして配属されてくるのがなんとあのマンシク!年ばかり重ねてきたマンシクはお偉方に散々媚び諂ってきたものの倉庫に左遷されることになり、結局オンゴルを辞めざるをえなくなってジュンス食品にやってきたのです。まさかの上司としてマンシクと再会を果たしたヨルチャンは、過去の恨みを晴らさんと決意するわけですが、果たして…。

序盤、上司・マンシクとインターン・ヨルチャンの構図は日本の昭和を感じさせる典型的な大企業の上下関係で、ヨルチャンの頑張れど頑張れど報われない姿は見ていてお腹が痛くなりそうにもなるのですが、1話の終わりにそれが逆転すると一気にストーリーのテンポが上がります。

なにより部長ヨルチャンの颯爽としてかっこいいこと!インターン・ヨルチャンもそれはそれで不器用さや気の優しい青年と言った雰囲気が可愛らしいのですが、5年を経てすっかり成功した彼は自信に満ち溢れてキラッキラになっているのです。

対するマンシクは長年勤めた会社に切り捨てられて恨み節てんこ盛りでジュンス食品にやってくるのですが、根っこのところは変わらず出世欲と権力に媚びる本能でなんとしてでも生き残ってやろうとします。ただ、ここで結構面白く感じたのはそんなマンシクが、シニアインターンに身を落として(?)も変にめんどくさいプライドは持たず、そこからもう一度這い上がる気満々で、そのためなら今はヨルチャンにだって頭を下げてやろう、と考えるところです。また負けず嫌いなので今まで自分ではやってこなかったパソコン仕事も改めて勉強し(頑張りすぎて倒れてしまうことも)、なんのかんのと率先してやっていくマンシク。マンシクが卑屈にならないからこそ、この物語は面白くなっていきます。キム・ウンスの演じ方が絶妙なのだと思うのですが、最初にあれだけ小者で卑劣に見えたマンシクがヨルチャンの下に来たら意外と単純で愛嬌すら感じさせるのもごくナチュラル。彼自身は思考回路こそ古めかしいですが決して性根が腐っているわけではなく、清濁あわせ飲むというかむしろ清濁関係なく大きな流れには乗るものという姿勢が、彼の世代のスタンダードみたいなことなのかなと、そんな印象を受けました。

タイトルにある「コンデ」は何かと「近頃の若いヤツは…」なんて言いながら説教する面倒くさい年長者、といったニュアンスでしょうか。日本でも大企業の上の下とか中の上あたりのポジションによくいそうなイメージの…。はじめの数話のマンシクの言動は「これぞコンデ!」感が満載で辟易させられるのですが、前述のとおり話が進むにつれて実際は人情に厚く、オンゴル時代はマンシクのさらに上の環境がコンデを醸造してしまっていたんだろうなぁと思わされるようになります。

一方でエンジェル上司だったはずのヨルチャンはジュンス食品の会長に気に入られているゆえに他の幹部に足を引っ張られ、いろいろなことの歯車が狂っていくストレスの中で自分自身がコンデの気配を醸していく流れに。そうやって全てのキャラクターが欲や嫉妬、家族との人間関係への苦労といったごくごく普通の人間らしさを発揮していくことがこのドラマ最大の味わいかもしれません。その情けなさやもどかしさが共感できて愛しいのです。

韓国ドラマは日本のドラマと違って話数の多さも手伝ってか敵役が何段階かに分かれて移り変わっていくことがよくありますが、ここでも然り。後半は「一番厄介なのはこいつだったか」といった展開になります。またマンシクの意外な隠し事が露見したり(これはびっくりした)、飽きずにクライマックスまでテンポよく進んでいきます。その中で徐々に分かり合っていくヨルチャンとマンシク。平たく言えば悪口である「コンデ」に、最後は愛着を感じて終われるのが心地いい作品でした。言動に難がある人というのは、本心をうまく表現できていないだけだったり、虚勢を張らなければ立っていられない環境を生きているだけかもしれないのです。「人を決めつけてはいけない」というヨルチャンの母の言葉がすべてを物語っているんだろうなと、しみじみそんな風に感じました。


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