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「愛していると言ってくれ(韓国)」 - 愛の会話の美しさを静かに説く物語

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あまりにも偉大な日本ドラマのリメイクとあって、期待も不安も抱きつつ観始めました。国も時代も違うので果たしてどうなるのだろうと思いましたが、オリジナル版のエッセンスを丁寧に抜き出したような世界観、オリジナル版への愛情がしみじみ伝わってくるつくりで、そこに現代韓国ならではのセンスが加わった秀作。何よりも、主役ふたりの会話が美しくて癒されます。こんなにもシンプルに愛を描くドラマって最近は少なくなったなぁとも思い、最終的にオリジナルの「愛していると言ってくれ」も見返してしまいました(言うまでもなく傑作中の傑作)。

済州島の海辺の撮影現場にチョイ役の出演のためにやって来たものの出番がなくなってしまうチョン・モウン(シン・ヒョンビン)。鳴かず飛ばずの役者生活を送る彼女は肩を落とします。そんな中、たまたま旅行でやって来ていたチャ・ジヌ(チョン・ウソン)に出会います。ジヌは幼いころに聴力を失い、孤独に生きてきた画家。

その後カフェで起こった火事の最中、耳が聞こえないために事態に気づかず逃げようとしないジヌを見かけ、モウンは必死で彼を外へ連れ出します。なんとか逃げ出して運ばれた病院でジヌはスケッチブックに「大丈夫ですか?助けてくれてありがとう」と書いてふたりは会話をすることに。翌朝、済州島を発つモウンの手元に、ジヌが描いた絵が届きます。そこにはモウンの姿がありました。

ジヌとの出会いが何だか忘れられず、手話の勉強を始めるモウン。いつかまた会えたら…そう思っていると、思いのほかすぐに運命の時が訪れます。ソウルの街角、交差点を挟んで偶然に再会したふたり。モウンは高鳴る気持ちで「また会えてうれしいです」とたどたどしく手話で挨拶するのです。

普通に同じ言葉で声で会話ができる相手だとしても、話が通じないと感じることは多々あるわけで。つまるところ相手と自分のひとつひとつの属性は問題ではなく、ふたりの相性がすべてなのだと思います。相性がいい相手とはきっと何かといろいろな場所で出くわすでしょうし、言葉を交わさずとも理解できる場面も多いでしょう。理解できない部分もまた面白く感じられたりするものです。耳が聞こえないことによる困難は当然たくさんあるでしょうが、どんなカップルにも、どんな人付き合いにも、続けていれば困難は生じるはず。問題を乗り越えられるかどうかも含めてふたりの相性だから、恋愛に正解はない気がします。そして惹かれ合う同士は自然とすとんと、恋に落ちるものかもしれません。序盤から恋の気配が漂うジヌとモウンですが、そこに違和感は何もありませんでした。ああ、このふたりは運命の恋人なんだと観ていて思えるような組み合わせ。

主役ふたりの年齢設定はオリジナル版よりだいぶ上ですが、キャラクターの骨子はうまく踏襲されているように思いました。耳が聞こえないことで苦労を重ねてきたからか、割り切って扉を閉め、ひょうひょうと自分の世界を生きているジヌ。フラットに真摯に相手を見つめるモウン。モウンはジヌの、相手の言葉が聞こえない分、より他者の心を汲み取ろうとする姿勢と繊細な感性に惹かれてそこに触れようと努力を重ねます。手話と文字を使い、表情や仕草で心を尽くして会話するふたりの姿の美しさはまさに「愛していると言ってくれ」の醍醐味。コミュニケーションが手軽になりすぎてしまった時代にあっても、やはり愛情を組成するのは「会話」なのだと実感します。

もちろん、ふたりの恋は簡単ではありません。穏やかに紡がれていく関係も、困難にさらされては擦り減って、気持ちが弱ってしまうことも。ですが出会うことも別れることもすべてに意味があるはずで、確かな縁に結ばれているふたりなのです。周囲の人々の優しさに助けられながらひとつずつ理解しあっていくモウンとジヌの姿を静かに見守る、そんな16話でした。オリジナル版とはもちろん様々に異なりますが、シン・ヒョンビンとチョン・ウソンの魅力が新しい世界をもたらしてくれました。それと手話も日本語と韓国語で同じだったり似ている言葉が多い気がして、なんだかいいなぁと思いました。最終話、ラストシーンが本当に素敵です。



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