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「庭のある家」 - 濃い陰と淡い陰が交わって浮かぶ、庭に埋められた秘密

★★★★★

夏の蒸し暑い夜に似合いそうな作品だなと思って観始めました。何ですかね、真冬の夜中にホラーを観るとちょっと洒落にならない気分になるのですが、夏だと風流に感じられるものです。ロートーンの綺麗な映像×静かで淡々とした恐ろしさはひとつ確立されてきている気もする韓国サスペンスの様式美。キム・テヒ&イム・ジヨンが対照的な雰囲気を称えたふたりの女性主人公を演じるのもまた魅力的です。1話1話、先が気になってやまないつくりの細かい物語が面白かったです。

ムン・ジュラン(キム・テヒ)が、庭のある広い家に引っ越してくることで物語は始まります。

引っ越してきて3ヶ月経っても挨拶もできていないと気にする町の住民たちが訪ねてくるがジュランは姿も見せず、去り際に町の人たちは庭から漂う匂いに顔をしかめます。

しばらくしてヘス(チョン・ウンソン)がジュランの家の向かいに引っ越してきます。屋上からジュランの家を見やるとヘスがカーテンを開けて外を眺めていましたが、ヘスが手を振ると引っ込んでしまいます。ジュランはうつ病の薬を服用していました。

一方ジュランの夫のジェホ(キム・ソンオ)は、息子のスンジェ(チャ・ソンジェ)が通う学校に。スンジェの先生はスンジェの落書きばかりのテストの答案用紙を見せます。「家で何か特別なことでもあったのか?」と尋ねられますが、ジェホは答えられませんでした。

ジュランは帰ってきた夫と息子に「庭から悪臭がする」と言いますが、ふたりは自分たちは感じないと言います。そんな中、挨拶に来たヘスがインターフォンの向こうで「何、この匂い」と言うのを聞くジェホ。

チュ・サンウン(イム・ジヨン)は彼女に壮絶なDVを加える夫キム・ユンボム(チェ・ジェリム)と暮らしています。お腹には5ヶ月の赤ちゃんが。しかし暴力に耐えかねている彼女は殴られている様子の録画を残し、離婚の準備を進めていました。そんな夫のユンボムは、ジェホに何やら脅迫めいた電話をかけます。そしてある日、サンウンも連れてジェホの家にまで行くユンボム。ジェホはおらず出てきたジュランにも慇懃無礼に脅しめいた話し方をするユンボム。

2日後、雨でずぶ濡れになって実家にやってきたサンウン。認知症と思われる母親の横で眠ります。翌日実家をあとにしようとするサンウンにかかってくる一本の電話。通話を終えたサンウンは「夫が死んだんだって」と言います。

どうしても庭の匂いが気にかかるジュランは庭を掘り始めます。すると土の間に覗いたのは人の手のようで…。

序盤でまず2人が亡くなっていると思われる状況から始まるため、話はとても入り組んで見えます。そしてどうやらジュランの姉も過去に亡くなっている模様。果たしてそれらが繋がった事件なのか、それすらもまったく見当がつきません。ユンボムとサンウン夫婦はふたりとも問題があるのは明白ですが、いい夫のように見えるジェホも確実に裏があり、ジュランは精神状態が不安定そうなので彼女もまた実は何をしているのか読めない。向かいに住むヘスも朗らかに振る舞っていますが過去がありそうです。一見美しく整っているジュランの家の庭の土の下に異質な秘密が埋まっている。この様子が作品全体を象徴しているように感じます。

そして世間知らずそうで見るからにお嬢さんといった雰囲気のジュランと、夫の暴力に怯えながらも自分とお腹の子を守るためならどんなことでもする野生の生存本能を感じさせるサンウンの対比は非常に見応えがありました。「自分」が危ういジュランは観ていて苛立ちも憶えるのですが、そのフラジャイルな存在がキム・テヒの美しさに似合います。またサンウンはとにかく食べるシーンがたくさん出てくるのですが、そこに滲み出る生きることへの欲求が凄いのです。イム・ジヨンも綺麗な女優さんなのに、それを忘れさせる図太いエネルギー漲るサンウン。

結果的に真実は意外とシンプルで、すとんと着地することになるのですが、主軸となるのはこのふたりの女性(とスパイスになるヘス)がそれぞれの夫から解放されるための物語かもしれません。ふたりそれぞれに守るべき我が子がいるというのも大きい要素に見えます。支配と保護は紙一重ですが、いずれだとしてもパートナーに対して自我を見失ってしまえば人は何も見えず聞こえなくなり、ただただ不幸なのです。そういう意味ではハッピーエンドに辿り着けている。そんなドラマでした。



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