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「ムービング」 - 親という名のヒーローたち

★★★★★

イントロダクションだけ目にしてゴリゴリのSFヒーローものに対する抵抗感があったのですが、ここまで話題作となると避けて通れない気もして、とにかく良い評判しか聞かなかったのでたぶんハズレはなかろうという気持ちで視聴開始。結果、ハリウッドのお株を奪える勢いのクオリティで繰り広げられるSF×人間ドラマにうっとりさせられる20話でした。

チョンウォン高校に通う高校3年生のキム・ボンソク(イ・ジョンハ)。「南山(ナムサン)とんかつ」を営む母ミヒョン(ハン・ヒョジュ)と二人暮らしをしています。彼には感情の変化で空を飛べてしまうという秘密がありました。新学期の初日、登校するバスで偶然ヒス(コ・ユンジョン)という少女に出会うボンソク。ヒスはチキン屋の父親ジュウォン(リュ・スンリョン)と暮らしており、チョンウォン高校に転校してきたのです。ボンソクのクラスの委員長であるガンフン(キム・ドフン)は、担任の体育教師イルファン(キム・ヒウォン)にヒスと仲良くするよう言われます。

そんな中、とんでもない怪力の持ち主であるチンチョンという男が謎の配達員に殺害されます。何かがボンソクの周辺に忍び寄ってきている気配がする中で、ミヒョンは拳銃の手入れを始め…。

SF、恋、政治、親子愛… 太い骨子がいくつもあるような作品ですが、主人公たちの親世代のロマンスは本当に素敵でした。ボンソクの両親は工作員同士という危険な香りに満ちた状況下で純愛を育みます。何があっても文字通り空を飛んで逢いに来てくれる恋人はかっこよすぎる。「スーパーマン」を当時初めて観た人はこんな気持ちがしたのだろうかと考えました。ともすれば安っぽくなりかねない設定ですが、映像の質の高さが手伝ってときめきが止まりません。そのスーパーマン(もしくはアイアンマン)を演じるのは「大丈夫、愛だ」のチョ・インソンですが、真っ直ぐで賢く優しく、強いのにシュッとしている、もうほんと完璧なヒーロー。

ヒスの父母であるジュウォンとジヒは苦労の多い中でも前向きに支え合い、娘に無性の愛を注ぎます。まんまハルクなジュウォンは無骨ですが一途で、娘のためなら無敵。父の背中を見て逞しく育ったヒスは、母から受け継いだ美貌と慈愛を発揮して物語の中の癒しになっていきます(「還魂:光と影」で見せた清廉な存在感は健在)。母ジヒを演じるのは「賢い医師生活」で凛とした女性軍人を演じたクァク・ソニョン。その美しいキャラクターが、ジヒを愛するジュウォンの姿もまた魅力的に見せてくれます。

そして超能力を背負って生きてきた親たちがみんな我が子を守るために死力を尽くして闘う。親が子のために命を懸けることに難しい理由などなく、ただただかっこいいのです(そして全員能力が抜群に高い)。ボンソクママの強いこと強いこと。ヒスパパとガンフンパパの愛情の深いこと。一方で発展途上にある子供たちもまた自分たちなりに大切なもののために自らの持つ力と向き合っていくことに。揃いも揃って親が強すぎるので子供たちが戦闘の中心を担うまではなかなか至らず終了しますが、恐らくあるであろうシーズン2では今度こそ彼らが主役なのでしょうか。

物語は現在と過去のいくつものエピソードを行き来しながら、愛憎の道筋のピースをひとつずつ繋いでいきます。誰しもにその人だけのストーリーと闘う理由があるのです。20話かけて丁寧に紐解かれていくことで感情移入の度合いもグッと深まりました。こんなにも「愛と勇気」みたいな言葉がしっくりくる作品もなかなかないかもしれないと思うなど。シーズン2に期待します。



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