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「アンメット」 - つくり手の想いに心揺さぶられるエポックメイキングドラマ

★★★★★+

たまたま放送開始の少し前にfox capture planのライブを観て、そこで彼らが劇伴を務めるというこの作品を知ってなんとなく観始めたのですが、日本の地上波のドラマで、こんなにも夢中で観てしまい、心が震える作品は本当に久しぶりでした。ひとつ残さず行き届いた質の高さに感嘆してしまう、という意味ではもしかしたら初めてかもしれません。役者、脚本、音楽、映像、演出…すべてに魂が籠もっているのが毎話伝わってくる感動に感謝したくなる、そんなドラマでした(韓国ドラマだと「サイコだけど大丈夫」や「二十五、二十一」で感じたものに似ていたかも)。

1年半前に交通事故で脳を損傷した川内ミヤビ(杉咲花)は脳外科医です。事故により過去2年間の記憶を失ってしまい、そこからの新しい記憶も1日しか続かず、寝て起きたら前日の記憶がなくなっている状態になっていました。毎朝5時に起きて自分の日記を読むことで自分の障害を知り、失われている記憶を辿ってなんとか新しい一日を始める。それを繰り返す日々。

今は関東医科大学病院脳神経外科の教授・大迫紘一(井浦新)の治療を受けながら、記憶をなくす前の研修先だった丘陵セントラル病院に勤務していますが、障害のため医療行為は一切行えず、看護助手として働いていました。

そんな中でアメリカ帰りの脳外科医・三瓶友治(若葉竜也)が新たに丘陵セントラル病院にやってきます。脳梗塞の患者が運ばれてくると三瓶はミヤビにも手伝うよう指示しますが、看護師長の津幡玲子(吉瀬美智子)がそれを止めます。そして三瓶は救急部長の星前宏太(千葉雄大)から、ミヤビが記憶障害であることを聞かされます。

苦しむ患者を前に何もできない自分に葛藤するミヤビ。しかしそんなミヤビを三瓶は周囲の反対を押し切ってでも医師として働かせようとして…。

初めこそ、毎日記憶がリセットされる中で病院に出勤するミヤビに「果たしてそんなこと可能だろうか」と思ってしまったりもしたのですが、壮絶な苦しみを抱えながらも毎日それを強く穏やかに受け入れるミヤビというキャラクターが次第に見えてきて、気づくと彼女の魅力の虜でした。

ミヤビだけではありません。飄々として身勝手にすら見える三瓶先生も、ミヤビに向ける眼差しや仕草から本当に特別な想いがあることが分かってきます。ふたりを囲む人々もみんな悩みや辛さを抱えながらも人を想い、人を大事にできる素敵な人々で、圧倒的なリアルさと慈愛に満ちた世界を観ているだけで心のどこかが癒される想いがしました。役者全員の圧倒的な芝居があるからこそだと思います。どんなドラマもどこかに穴を感じたりするものですが、この作品は隅から隅まで丁寧に完成されていて、没入感を削がれる瞬間がまったくありませんでした。関わる人の誰ひとりとして手を抜かず本気でぶつかっている証明という気がします。ここまで全てが揃うのは奇跡に近いのではないでしょうか。

8話あたりから杉咲花と若葉竜也の演技がひときわ研ぎ澄まされていくようで、物語もふたりのやりとりにフォーカスされていきます(もうほんとこのふたりの役者の凄まじさに持っていかれる)。前半こそ悪役のようなポジションのキャラクターもいて、ちょっとミステリーみたいな要素があったので、個人的にはそちら側に流れていってしまうとこの繊細で体温のある世界観が損なわれてしまわないか心配したりもしたのですが、まったく大丈夫でした。どんどん煮詰まっていく人物の魅力と人物と人物の関わりの温かさに、心が洗われるようだった毎週月曜日。最終回を迎えてしまって文字通りのロス状態に陥っています。しばらくは繰り返し観てしまう気がしますが、それができるのがNetflixのいいところ。そして「アンメット」は海外にも力強く届く日本ドラマなんじゃないかなと思ったり。というか、この作品が大きく広く評価される世界であってほしい。そんな気持ちです。



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