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「LTNS」 - 愛とセックスの相関関係

★★★★+

LTNS - Long Time No Sex、そのものずばりセックスレスの夫婦と夫婦の前に現れる不倫カップルたちを描くだいぶアグレッシブな一本。なんとなくブラックな展開を想像して観始めるまで躊躇いがありましたが、ドロドロになりかねない設定をテンポよくユーモラスな演出で非常に面白く見せてくれる作品でした。全6話ですが、起承転結がコンパクトにまとまっていてとても映画的だと思います。

タクシー運転手のサミュエル(アン・ジェホン)と3つ星ホテルのフロントで働くウジン(イ・ソム)は結婚5年目の夫婦。恋人時代はラブラブだったふたりですが、生活に追われるうちにすっかりセックスレスに陥っていました。

ある日、そんなふたりは裕福な友人夫婦の旦那が浮気していることを知ってしまいます。初めは妻を思って怒りに震えるウジンでしたが、切羽詰まった状況などが相まって最終的に不倫カップルを脅迫しお金を巻き上げるということを思いついてしまい…。

サミュエルも巻き込まれ、互いの仕事環境を悪用して不倫カップルを見つけては手際よく証拠を押さえ脅すようになっていくふたり。当然トラブルも多く、ふたりはそれぞれに変化していくのです。道を逸れたことでやがてウジンとサミュエルの間で燻り続けていた問題も露わになってゆき、思わぬ展開が訪れることに。

基本的には主人公ふたりは恐喝を働き、出てくるゲストはみんな不倫カップル。倫理観はかけらもないのですが、不倫している人々の中には予想外に純粋に相手を思っている人がいたり、脅迫に反撃してくる人もいたり、人間味(というより人間くささ)が全体に充満しています。この感じは得手不得手あるかもしれません。

TVINGオリジナルなのでテレビドラマという括りになるのでしょうか。一昔前だったらそれこそ映画じゃないと突っ込めなそうな世界観のような気もします(それでいうと同じくアン・ジェホンが強烈な印象を残した「マスクガール」はさらにどぎつかったですが)。観る側に選択する権利が大きくあるOTT時代ならではのコンテンツでしょうか。テーマは同じでも日本の「あなたがしてくれなくても」のようなメロドラマ感はなく、斜め上から鉈を振り下ろすようなクレイジーさと素朴な人間ドラマが共存する不思議さ。

ここで描かれるセックスは猥雑というよりはリアル、生々しさが先に来て、ユーモアに共感のような感情を抱きます。セックスレスについても苦しさや辛さと、それでも日常の中に紛らせていく感じは想像できるものでした。女性の描き方を観ていて監督は女性なのかなと思いましたが、男女ふたりの共同監督ということで、テーマに対して腑に落ちる物語に仕上がっている気がします(同性カップルもごく自然に登場します)。

すっかり犯罪に手を染めてしまったウジンとサミュエルはそれでもどこか愛せる夫婦で、根本的には互いのことが大切なんだろうな…と思って観ていたので、真っ暗なエンディングだったらどうしようと不安になっていたところ、途中からふいに予想外の方向へ。そう、不倫カップルを追いかけるのもスペクタクルですが、このドラマは詰まるところこのふたりの行き詰まってしまった関係を破壊してもう一度積み上げてみる、そういう話なのです。ただ掛け違えただけで、もともと間違っている組み合わせではない。だからズレを見えないフリして耐え続けるより一旦壊してしまったほうがいい。もうほんと、そういうカップルでした。破壊も派手。

散々悪事も働いてたけど…と思ってしまうのは置いておいて、愛とセックスの相関関係というのはある程度は誰しもに通じる部分があるとは言え、人によって当然異なり、カップルによって実に様々な色合いを見せるものだと考えさせられる一本。最後は映画館を後にするような充足感がありました。



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