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「人間レッスン」 - 罪を知らない優等生と罪の味に堕ちる少女とレオンとマチルダ

★★★★+

「今日のウェブ漫画」を観ていたらナム・ユンスのあどけなさの残るかっこよさがなんだかいいなぁとなり、よくよく考えたら「恋慕」でも気になる存在だったことを思い出し、彼が話題になっていた「人間レッスン」に辿り着きました。配信開始当時は「梨泰院クラス」からの流れでキム・ドンヒの話題が主で興味はあったのですが、少年たちの犯罪がテーマだし全体に暗いストーリーなのかな?という印象でなんとなく観ずに来ていた一本。まったくもってライトではありませんが、重苦しくなりすぎない演出と陰影のくっきりしたキャラクター像でパッキリ観やすく仕上がったドラマでした。

学年1位の成績の高校生オ・ジス(キム・ドンヒ)は、目立つことはなく問題も起こさず、粛々と勉強に励んでいる模範生。ただただ有名な大学に進学して平凡な生活を送ることが夢のジスには実は大きな秘密がありました。家を出ていった母とギャンブルに財産をつぎ込んでやはりジスを置いて行った父。両親の助けがない中で彼はごく普通の人生を歩むための費用をすべて自分で稼ぐ必要がありました。

そんな彼が選んだお金の稼ぎ方はなんと、売春の斡旋と売春する少女たちの警護だったのです。とあるきっかけで出会った喧嘩がめっぽう強いイ室長(チェ・ミンス)に現場で動いてもらい、持ち前の頭脳を活かして顔も声も隠しながら少女たちの管理や問題が起きた際の対処の指示出しをするジス。当然犯罪行為ではありますが、順調にお金を溜めつつあったある日、ジスはその秘密をたまたま同級生のペ・ギュリ(パク・ジュヒョン)に知られてしまうのです。

しかもギュリの行動によって溜めていた全財産を父親に持ち逃げされてしまうジス。そんなジスにギュリは自分をパートナーとして売春斡旋に参加させるようにと言い出します。ギュリもまた家庭に大きなストレスを抱えており、そのせいなのかジスのやっていることに強烈な興味を抱いている様子。

一方でジスが管理していた少女のひとりソ・ミンヒ(チョン・ダビン)は精神の安定を欠いて問題を起こすように。彼女は実はジスとギュリの同級生であり、同じく同級生の不良筆頭格であるクァク・ギテ(ナム・ユンス)と交際中。ギテに貢ぐために売春に明け暮れていたのです。そんなミンヒの限界を察して足を洗うように言うイ室長。ミンヒとイ室長の間にも妙な絆が生まれ、ジスとギュリが手を組んだことと相まって物事の歯車はどんどん狂っていき…。

何より背筋が寒くなるのは少年たちの無邪気さな気がします。無邪気というか、視界が未熟で狭い。自分の不幸が正義の理由になり、他人の人生を踏みにじっていても気づかないのです。ジスは生き死にみたいなものにはどちらかというと鈍感ですが、思い描く「普通の人生」への執着は強く、人並みの情はあるかと思いきや本質的には自分の人生を守ることが最優先です。両親に苦しめられたことへの防衛本能なのかもしれませんが、彼に罪の意識は感じられません。ギュリもまた他人に対して必要以上に淡白で、不条理な両親から逃げ出すことが目標なのかもしれませんが、自分の能力を発揮して稼ぎ出す面白さにハマっていくように見えました。

劇中にも出てくる「レオンとマチルダ」という表現がぴったりハマるのがイ室長とミンヒ。このふたりのやりとりにはたまらないノスタルジーがありました。大人との交わりを断絶してしまうようなジスとギュリに対して、ミンヒにとってイ室長はある意味で信頼できる大人なのでしょう。我儘で子供っぽさ全開のミンヒが最終的には一番まともに見えるのもイ室長の存在ゆえ。ジスとイ室長の間にも独特の心の交流があるのですが、ドラマの中盤を持っていくのはこのレオンとマチルダでした。そしてそのミンヒの最悪な彼氏がナム・ユンス演じるギテ。同級生を殴る蹴る、陰湿ないじめもする、ミンヒのことは金づる扱い。わりと最近、過酷な校内暴力描写のあるドラマをいくつか観てきたのでそのあたりの表現は見ていられる範囲でしたが、幼くてひたすら身勝手で自尊心ばかり高いギテのこじらせ不良っぷりは嫌なリアリティがありました。

各自の演技がそれぞれに追求されている感じが特に面白く、組合せによって違うドラマのような印象を与える人間関係の妙味を巧みに描いた作品。最初は悪いことをしているように見えない気すらするジスが静かにどんどん転落していく姿を見せることが軸なのかもしれませんが、押し付けがましいメッセージはなくエンタメとして山場があり癒しに似た感覚ももたらす不思議なドラマだと思います。


▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

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