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「刑事ロク 最後の心理戦」 - ベテラン俳優の饗宴で楽しむ燻し銀上等な一本

★★★★+

メインビジュアルのイ・ソンミンの佇まいが、骨太な刑事モノを予感させる一本。分かりやすいイケメンは不要で、人間味と不器用さ溢れるおじさん刑事の闘いというのもなかなかそそられるものがあります。始まってみるとチン・グが有能エリートだけど男気も覗かせるキャラクターでものすごくかっこいい存在感を見せてくるのですが、全体通して俳優陣の厚みのある演技で魅せる泥臭いサスペンス。

港のあるクモ市。捜査の嗅覚はピカイチで、定年を間近に控えたベテラン刑事のテクロク(イ・ソンミン)。家族とも別れ、パニック障害を抱えながら考試院(格安アパート)で暮らしている彼は「退職したら死んでも走らない」と心に決めていました。そんな中、新たに署に配属されてくる捜査課長のジンハン(チン・グ)。

ある日、テクロクに「友(チング)」を名乗る人物から謎の警告電話がかかってきます。一旦その電話を無視して、かつての後輩であり現在は情報課長のヒョンソク(キム・テフン)と酒を酌み交わすテクロク。しかし再び「友」から電話がかかってきて、ヒョンソクの身の危険を知ることに。「友」が言った場所へ駆けつけるテクロクですが、そこでヒョンソクの死に直面することに。誰かに殴られて気を失ったテクロクは翌朝自分の部屋で目覚めます。そして改めてヒョンソクの死の連絡を受け、しかも自分がヒョンソク殺害の容疑者になっていることを知るのです。

もうひたすらにテクロクが「友」の仕掛けた網に絡め取られていく様子をもどかしく見ているような前半。なぜテクロクが狙われるのか、なぜヒョンソクが死んだのか、背後に何があるのか。結構ずっといろいろなことが闇の中で視界不良のまま進んでいきます。漠然とクモ市で要職を務めるおじさんたちの集会がきな臭いのは分かるのですが、犯人の具体的な犯行動機は分かりません。次第に正義の塊のように見えたテクロクさえ潔白ではないように見えてきて、ますます混迷を極める人物相関図(おじさんが多いと大体迷子になりがち)。ただ、この奥歯にものが挟まってる感じが面白さでもありました。

印象的な演出のひとつにテクロクのモノローグが重なるシーンが多く、渋い声で推理を続ける様子がだんだん癖になります。イ・ソンミンが魅せる「かっこいいだけじゃなくて情けなさもあるおじさん」の味わいがとにかく深いのです。対するチン・グのジンハンは見るからに切れ者で外見もシュッとしている。このふたりのバディが物語の中盤を推進する大きな魅力になっています。

世界観は非常に映画的で、無駄な飾りのないノワールというか、日本のヤクザ映画でもありそうな「完全な善人のいない世界」。息苦しくもなるんですが、それはつまり「完全な悪人もいない」ということで、鈍痛みたいな切なさがつきまといました。

テクロクとジンハンの関係性は終盤に少し意外な展開を見せることになりますが、そのちょっとしたどんでん返しがこのドラマの記憶を残す強いスパイスに。それが後味にもならないうちに衝撃的な幕切れを迎えることになります。明らかにシーズン2が想定されているつくりなのでシーズン1だけ観るとなかなか消化しきれない気持ちになりますが、ここで一区切りつくのは間違いないといったエンディングになっています。ふう、となります。

重量感を生み出しているのはひとえに強力なキャスト陣だと思います。権力と情と悲哀と夜の海。港湾の町に澱のように沈んだ人間の欲望を、おじさんキャストたちが奥行きのある演技で表現していて、それだけでも見応えのあるドラマだと思います。

▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

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