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「アルゴン」 - 正義の人も間違いは犯す

★★★★

マスコミを舞台に、報道のあり方や事実を伝えるということを突き詰めていくドラマ。主人公はテレビ局で報道番組を担当するニュースキャスターで、彼の率いるチームが数々の事件とぶつかりながら自分たちの報道に賭ける情熱を掘り下げていく過程を実に人間らしく描きます。

キム・ベクジン(キム・ジュヒョク)がアンカーを務めるHBC唯一の調査報道番組である「アルゴン」は、とある教会の不正を報じるものの、誤報であったとして謝罪放送をすることになり、放送時間帯も平日の深夜に追いやられます。そんな中、契約満了まで6か月の契約記者イ・ヨンファ(チョン・ウヒ)が辞令を受けてチームに加わりますが、クビになったメンバーの後釜としてやって来た彼女を周りは快く迎えてはくれません。そしてヘミョン市で大規模なショッピングモールの崩壊事故が起きて多くの死者が出ることとなり、現場は大騒ぎに。

最初から緊迫感のある中で物語は始まり、記者たちの必死の取材合戦やHBC内でもメインを張る9時台のニュース番組との対立などを通して次第に事故の原因を突き止めていきます。そして実に様々な立場の人物がたくさん登場するのですが、これが驚くほど全てのキャラクターに対して苛立ちをおぼえるのが個人的にこのドラマで一番面白いと感じたところ。

ベクジンは主人公ですし、部下からの信頼も厚く正義感を漲らせた人物なのですが、経緯もあってヨンファが頑張って集めてきた情報を認めはするもののヨンファ自身のことは「傭兵」だと言ってイマイチ受け容れません。そんなヨンファも、食い気味で否定されたりすると言葉が判然としなくなり、言いたいことを途中で飲み込むような喋り方に。他のメンバーたちもまたヨンファのことを疑ってかかっていて心を開こうとしないので、結果的にニュースは納得いく形で流れるのですが、ずっと胸のあたりがスッキリしない気持ちを抱えて観続けていくことになります。

イ・スンジュン演じるユ報道局長は完全なる敵役なので、徹底した小賢しさでアルゴンの妨害をしてきてこれも本当にイライラするのですが(笑)、なぜかどんなに大きな失敗をしても上にうまく取り入って地位を守り続けるから不思議です。

ですが実際に職場と言うのは人間性と利害が共存する場所。多かれ少なかれ、誰もが長所短所を見せながら仕事をしていくことになるものです。そう言う意味で、妙なリアリティがあって、それがさらにイラッと感を駆り立てるのかもしれません。

ただ、この苛立ちも最終話の終わりにはスッと浄化されるような気分になりました。ベクジンは決してスーパーな人ではなく、欠点があり、過ちを犯し、けれど大事なのはそれとどう向き合うかなのです。一つの答えを出してこのドラマはエンディングを迎えることになります。

劇中ではベクジンと大反抗期の娘とのやり取りも多く描かれますが、そういったエピソードを含めて、ベクジンの非常に人間らしい葛藤が、終始このドラマを力強く支える軸となっていました。ベクジンを演じたキム・ジュヒョクはこのドラマの放送直後に不慮の事故で他界してしまっており、恐らくこの「アルゴン」が最後のドラマ出演作だと思います。45歳という俳優として味わいや厚みが出てきたところでいなくなってしまったことが本当に惜しいと感じる、ベクジンはそんなキャラクターです。

ベクジンの娘・ソウを演じたリュ・ハンビがまたとても可愛らしく、一方で母親を失った記憶から父に反抗して止まない難しい感情をよく表現していました。彼女の存在があるからこそ、父親としてのベクジン像も一層深まって見えます。

そして当然に報道の正義は、このドラマにおいて普遍的なテーマ。組織や政治と闘いながら、理不尽を浴びてもチーム一丸となって事実(ファクト)を報道しようとする「アルゴン」は、ぜひ観てみたいなと思わされます。全8話でコンパクトにまとまった作品なので、ギュッと凝縮した時間を味わいたいときにオススメのドラマ。



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